1 来客
皆様のあたたかいお言葉に支えられて続いております^^
ありがとうございます!
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カールの様子がおかしい。
目を合わせようとしないし、あいさつのキスもぎこちない。
そうかと思うと、ふと気づいた時にじっと見つめられていたりする。
「ルゥ、あの・・・」
「なぅ?」
「いや、いい」
なんてやりとりもしょっちゅうだ。
何が言いたいのかな。
どうしたのかな。
昨日はお風呂で湯船に落とされた。
「ふぎーーーーー!」
「あああ! すまん! 大丈夫か!!」
端正な顔に、見事なひっかき傷ができてしまったのは仕方ないと思う。
それでも、夜寝るときには優しく撫でてくれて、深い碧の瞳が幸せそうに細められるから、私はここにいていいんだと思える。
今日はカールが非番の日。
でもいつものお休みみたいにウキウキしないのは、薄皮を一枚はさんだような、微妙な空気を感じるから。
はぁ・・・・。
本当に、どうしたんだろう。
「ルゥ、昼飯は何がいい?」
「んな!」
カールが作ってくれるものならなんでも!
燻製肉を焼くいい匂いがただよってきたころ、コンコン、と玄関の扉を叩く音がした。
「隊長さん、こんにちは。ルゥちゃんが帰ってきたって聞いたんですけど」
「あぁ、スヴァル。これはどうも・・・」
以前、兵舎で会ったことのある女の人だった。
なんだか影の薄い細っこい人で、優しそうっていうよりトロそうな気がする。
年だって、たぶんカールよりずっと上だ。
ウーリーさんたちが兵舎にお泊りしていたときに手伝いに来てたっていうけど、その人がなんで家まで来るわけ?
「あら、お昼でしたか。ごめんなさい。これ、よかったらルゥちゃんに」
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、隊長さんが元気になられてよかったです。またうちにも遊びに来てくださいね」
「ははっ、ご心配をおかけしまして・・・。えぇ、また」
ちょっと、ちょっと、どういうこと?
カールってばいつのまにその人のおうちに行ったの?
まさか私が院長先生に会いに行っている間に?
・・・院長先生。
院長先生のことを思い出すと気分が沈む。
もっと何かしてあげられたんじゃないかって。
猫になんかならないで、そばにいてあげたらよかったんじゃないかって。
でもそうしたらカールには出会えなかった。
「ルゥ、スヴァルが山羊乳チーズをくれたぞ。おまえ好きだろう」
山羊乳チーズ!
沈みかけた気持ちが、一気に浮上する。
そそそ、そんなので懐柔しようったって、だめなんだからねっ
「パンにのせて焼いてやるからな」
今日のお昼ご飯は、手作りパンの山羊乳チーズのせと、燻製肉。
細かくちぎった野菜も添えてある。なんて豪華。
でもこのチーズ、あの女の人が持ってきたんだよね。
おうちに遊びに行ったって・・・カールってば、私がいない隙に何してるのよ!
あぁ、でもいい匂い。
チーズに罪はないんだよねぇ。
食べなきゃもったいないし。
でもあの人は気に入らないし・・・。
「食わないのか?」
「うなー・・・」
迷っていると、カールの口の端にチーズのかけらがついているのを発見した。
そうだ、味見をしてから決めよう。
食卓に飛び乗り、首を伸ばしてカールの口元をぺろりと舐めた。
うーん、やっぱりおいしい!
この塩気がたまらない。
カールは猫の私に気を使って、薄味のものを作ってくれるんだよね。
魔術で変化してるだけだから、本当は平気なんだけど。
「・・・・くっ・・・・」
ん? カール?
なんで口を押えてそっち向いちゃうの?
耳が赤いけど・・・大丈夫?
「そ、そんなに食いたかったのか? 俺の分もやるから、ほら食べろ」
いやぁん、大盛りっ 幸せー!
結局、誘惑に負けて食べてしまった。
食後の毛づくろいをしていると、また玄関の扉を叩く音。
「なんだ、今日は客が多いな」
席を立つカールにくっついて、玄関に向かう。
「はい、どちら様・・・」
「カール!」
「ミレイユ!?」
カールが扉を開けたとたん、赤毛の美女が飛び込んできた。