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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第2部
27/100

10 カールの葛藤

小話風に3話。

皆様に引かれたらどうしよう・・・。


*** 想い ***




あれ以来、ルゥのことをさりげなく観察しているが、人型になる気配はない。

猫が人になるなんて、馬鹿馬鹿しい。

ルゥが帰ってきて浮かれた頭が見せた白昼夢だ。

そう思う反面、期待してしまう自分がいる。


どんなときになるのだろう。

自分の意志で変化できるのだろうか。

人になれる猫。

普通の猫ではない。

以前ウーリーが言っていた。俺から魔術の匂いがすると。

ルゥはどこかの魔術士から逃げ出した猫なのか。

ひょっとすると、あの女魔術士は何か知っていたのかもしれない。


「ルゥ、あの、な」


「んな?」


きょとんと俺を見つめる赤い瞳。

人になれるならなってくれないか?

そう言ったらルゥはどうするだろう。


「いや、なんでもない」


ごまかすように喉を撫でると、ゴロゴロと鳴らして喜んでいる。

人にならなくてもいい。おまえと話せたら、どんなに楽しいかと思うんだ。

逃げ出されるのが怖くて、結局何も言えなかった。




*** シャツ ***




その日。

早く帰れることがわかっていながら、ルゥには何も言わなかった。

まだ日が高いうちにこっそり帰ってきて、出窓の下に隠れる。

家の中を覗くと、人型になったルゥがいた。


「・・・・!」


この前は、どこから出したのか清楚なワンピースを着ていた。

でも今日は・・・それ、俺のシャツ!


小柄なルゥにはもちろん大きすぎる。

ボタンを数か所留めただけで、大きく開いた襟元から白いふくらみがのぞいている。

まくった袖からは細い腕。

裾からは太ももがちらちら見える。


ルゥにするように、すぐにでも抱きしめて撫でまわしたい衝動にかられた。

元は猫とはいえ、あんな少女に手を出したら犯罪じゃないか・・・・!

いや、猫とわかってる時点で人としてどうなんだ!?


頭を抱え、自問自答する。

ようやく落ち着いたのは、日もとっぷりと暮れ、いつもより遅い時間になってからだった。


「た、ただいま・・・」


「なーぅ」


家に入ると、ルゥが当然のようにおかえりのキスをしてきた。

人型が脳裏をよぎり、妙にぎくしゃくしてしまう。


「んな?」


「いや、すまん、なんでもない」


ルゥを肩に乗せたまま椅子に腰かけようとして、椅子の背にかかったシャツに気付いた。

昨日俺がここにかけたシャツだ。

そして昼間、彼女ルゥが着ていたのもきっとこれだ。


「うっ・・・・」


殴られたとき以外で鼻血なんて出したの、何年ぶりだ・・・っ

初心うぶ少年こどものようになってしまった自分を情けなく思いつつ、胸の動悸はなかなかおさまりそうにない。


「んなっ、なーぅ?」


心配そうに俺を見るルゥ。

あぁ、そんな純粋な目で俺を見ないでくれっ

当分、ルゥの目をのぞきこむことはできそうになかった。




*** 猫茶 ***




ルゥは相変わらず俺の前で人型になることはない。

はじめはどうしてなってくれないんだと悩んだが、ルゥにはルゥの都合があるだろう。

一緒に居られるだけで幸せなのだから、これ以上は望まないことにした。


「サジの妹が焼き菓子を差し入れてくれたんだ。食うか?」


夕食前、スープが温まるまでの間に菓子を齧る。

淹れたお茶は、水で薄めてから皿に入れてやった。


「ふに? ふにゃん」


「ん? どうした?」


ルゥの様子がおかしい。


「うなぅ。 ふにに」


撫でてもいないのに、ゴロゴロと喉を鳴らして寝転がる。

この感じ・・・もしや。


ルゥに先にやって自分はまだ飲んでいなかったお茶を口に含むと、いつも淹れているお茶の味ではなかった。

あわてて袋を確認する。

これは確か去年の冬にスヴァルがくれたお茶。

冬場、水を飲みたがらなくなったらあげてみてと、ギュンターにことづけたやつだった。


「ふにゃん、うにゃぁ」


お茶を舐めては、床に背中をこすりつけたり、ぐにゃぐにゃと体を揺らしたりしているルゥ。

完全に酔っ払っている。


「猫茶・・・・またたび茶か!」


元々薄めていたので大した量ではないが、ルゥには効果てきめんだったようだ。


「おい、大丈夫か。ル・・・・・ゥ!?」


ルゥのそばにしゃがみこみ、様子を見ようとしたそのとき。

ルゥの輪郭がぼやけた。

空気に溶けるように、体が広がっていく。


「ん・・・あぁん・・・」


こ、これは!

だだだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ!!!


寝室に駆け込み、毛布をつかむ。

ばさりと彼女にかけ、極力目をそらして抱き上げた。


「ん・・カール・・・・」


うわぁ、やめてくれ!

首に手をかけるな、顔をうずめるな!!


彼女を寝台に押し込むと、扉を閉め着衣のまま風呂に飛び込んだ。

まだ火を入れず水をためただけだった浴槽に、下半身を沈める。


「落ち着け! 落ち着け、俺!」


しびれるほどの冷たさの水が、じわじわと体の熱を奪う。

それとともに、頭も冷えた。


「ルゥは、やっぱり人型になれた・・・」


はじめて見た変化。

うれしさに顔がゆがむ。

でもあの姿は刺激的だった。

なんで裸なんだ。

猫だから当たり前か。


体、柔らかかったな・・・。


毛布越しの感触を、うっかり思い出す。

せっかく冷えた下半身に、また血が集まりだした。


「ううう・・・」


しばらく浴槽から出られそうになかった。




ようやく出られたのは、手足がすっかりしびれて真っ赤になったころ。

濡れた服を着替え、寝室の様子を伺うと、猫に戻ったルゥがすやすやと眠っていた。

あぁ、よかった。


「このお茶は封印だ」


戸棚の一番奥に、猫茶をしまった。

これはルゥに飲ませてはいけない。絶対に。


でももったいないよな、せっかくもらったのに。

いやいや、いかん。あんなルゥ、誰にも見せられない。

見せなきゃいいんじゃないか? 家の中なら、誰が見るわけもない。

違う、俺がだめなんだ。

この次、わかってて飲ませたら、理性がつ自信がないじゃないか。

だからだめだ。

これはルゥに飲ませてはいけない。

絶対に、きっと、たぶん・・・・・・・だめなんだ。




戸棚の前で、俺はいつまでも葛藤するはめになった。








えーと、よろしければ、ご意見・ご感想くださいませ。

路線、いいですか?大丈夫ですか?(笑)


お月様の方に「白猫の恋わずらい~月光編~」として裏バージョンを投稿しました。

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