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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第2部
26/100

9 見られちゃいました!?

*****




「おはよう、ルゥ」


目覚めると、カールの顔がすぐそばにあった。

ちゅっとキスをしてくれる。

蕩けそうな目で私を見てるけど・・・いつから見てたの?

まさか寝てないなんてないよね?


カールは私の首や背中を、飽きることなく撫でている。


「行きたくないな。今日は一日中ルゥといたい」


そんなこと、そんなこと言わないで。

うれし過ぎちゃうからっ


「んにゃ~」


お仕事が終わったら、また甘えさせてね。

私のせいで、カールの仕事に支障をきたすわけにはいかないよ。

動きたがらないカールを頭でぐいぐい押して、なんとか仕事に送り出した。




空になった酒瓶。出しっぱなしの食器。散らかった衣類。

明るくなってあらためて見ると、部屋の中はずいぶん荒れていた。

昨夜帰ってきたときのカールは無精ひげを生やしていたし、顔色も悪かった。

かなり心配をかけてしまったらしい。

カールのために何かできないかな。

そうだ、せめて片づけをしよう!

猫に出来る範囲で、でも面倒なので人になって部屋の片づけをすることにした。




*****




「ふんふんふ~ん♪」


「隊長、とうとうおかしくなっちまったか?」

「いや、よく見ろよ。あのハリ、あのツヤ」

ルゥが帰ってきたんだな」

「なんてわかりやすい」


うるさい。なんとでも言え。

今日の仕事はなんだ?

さっさと終わらせて早く帰ろう。


「・・・一日分の仕事を午前中で終わらせる気っすか? そろそろ昼飯にしましょう」


インクの補充が間に合わないほどの勢いで仕事をしていた俺に、ギュンターが言った。


「そうか! 昼!」


「は?」


「一端、家に帰る。午後また来るから」


「あ、そうっすか・・・。お気をつけて」


そうだ、そうだった。

昼食をルゥと一緒にとって、また兵舎に戻ればいい。

何も夜まで我慢することないじゃないか。


足取り軽く、家への道を急ぐ。

俺の気分のように、空は快晴だ。

家が見えてきた。

窓に白い影。

ルゥが外を眺めているのか。


「おーい、ル・・・・」


呼びかけようとして、やめた。

窓辺にいるのはルゥ?

それにしてはやけに大きい。

前もこんなことがあった。

あのときはルゥがシーツで遊んでいたのだが。

今日もそうなのか?


一人でどんな遊びをしているのか。

興味をひかれ、気配を殺して近づいた。

壁伝いにそぉっと覗く。


「・・・・・?」


白いものは髪だった。

腰まで届く、まっすぐな長い髪。

毛先には赤いリボン。


まさか・・・・!


夢だと思っていた少女がそこにいた。

袖のない膝丈のワンピースを着て、部屋の掃除をしている。

まろやかな肩や、すらりと伸びた手足がまぶしい。


呆然と見つめていると、彼女が近寄ってきて窓を開けた。

俺はとっさに窓枠の下に身を隠した。


「ん~! いいお天気! カール、早く帰ってこないかなぁ」


鈴のなるような声とは、このような声をいうのだろうか。

耳に心地よく響き、自分の名を呼ばれると心臓が高鳴った。

窓の下、風に乗ってふわっと漂ってくる石鹸の香り。

俺と同じ、香り。


「あの・・・・!」


思わず声をかけそうになって、口元を押さえた。

そうだ、以前夢で見たときに思ったんだ。

彼女はルゥなんじゃないかって。

ルゥは人に化けられるが、それを隠している。

もし俺がここにいることがわかったら、今度こそ本当にルゥは出て行ってしまうかもしれない。

そんなこと、耐えられない。


ぱたんと窓が締まる音がする。

無意識に息を詰めていたようで、はぁっと吐き出すと全身の力が抜けた。

俺はしばらく窓枠の下にいたが、昼の休憩時間が終わるのでしぶしぶ兵舎に戻った。


午後はもちろん、仕事なんて手につかなかった。







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