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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第2部
25/100

8 帰宅



*****




院長先生に面会した次の日の朝。

エメさんの家で朝食を摂っていると、鳩が飛び込んできた。


「・・・・・!

 ルチノーちゃん、お義母さんが亡くなったわ」


「え!?」


ど、どうして!?

昨日はやつれていたとはいえ元気そうだったのに。


「痛みを抑えるために、かなり強い薬を使っていたみたい。

 今朝方、心臓発作だったって」


「そんな・・・」


「ルチノーちゃんを待っていたのかもしれないわね」


私のことをずっと心配してくれていた院長先生。

幼い頃描いた絵を、ずっと大事にとっておいてくれた。


「お義母さん・・・・・」


「葬儀は明後日だって。

 荷物の整理とかもあるでしょうから、もう2~3日こっちにいて、全部済んだら辺境へ送るわ。

 それでいい?」


「うん・・・ありがとう・・・」




院長先生の荷物は、ご自分のものは本当に少なくて、ほとんど孤児院で育った子どもたちの思い出の品だった。

まだ残っていた孤児院の建物での葬儀。

独立したり引き取られたりした子どもたちも大勢集まった。

たくさんの人に見送られ、院長先生は永い眠りについたのだった。




「ルチノーちゃんのご両親の件は、私なりに調べてみるわね。

 ちょっと思い当たることはあるんだけど、まだ確証はないからはっきりしてから知らせるわ」


両親といっても、きっと私がこんな見た目だったから捨てた人たちだ。

今さら見つかっても困るような気がする。

エメさんがやけに乗り気だから言い出せないけど・・・私の親は院長先生だ。


「何から何まで、ありがとう、エメさん」


「いいのよ。乗りかかった船だわ。それに私、ルチノーちゃんのこと好きなの」


「・・・すき?」


人から気味悪がられるばかりだった私を、好きといってくれるの?

エメさんって変。


「恋する女の子はいつでもとびきりかわいいものよ。

 自信をもって! 応援してるわ」


「こ・・・・ッ」


エメさんは、真っ赤になっておたおたする私を楽しそうに眺めてから、おでこをトンっと指ではじいた。

びりっと電流が流れたような感触がする。


「変化の術はもう解けてるけど、猫じゃなきゃいけないんでしょう?

 自由に変身できるようにしたから。猫のままでもしゃべれるから、鳴き声は気を付けてね」


カールとの生活が安定したことで、私への術は解けていたらしい。

それをなんとか“猫じゃなきゃ”という思いで継続させていた。


「ルチノーちゃんは魔術の才能があるわよ。カールにフラれたら、私のところにいらっしゃい」


「エメさん、さっき応援してるって・・・」


「あはは! そうだったわね。きっと今頃死にそうになって待ちわびてるわよ。さぁ帰りましょう」




猫になってエメさんに抱かれ、空を飛ぶ。

カールの家に着いたのは、日が暮れ始める少し前。

カールはまだ帰っていなかった。


「あ、私鍵もってないよ」


「まかせて頂戴」


エメさんが口の中で何かつぶやいたと思ったら、足元のつる草がしゅるりと伸びて、鍵穴に入っていった。

かちゃりと軽い音がする。


「エ、エメさん・・・?」


「ルチノーちゃんを寒空で待たせるほうが、ご主人様は怒るわよ。

 私はあんまり長居できないから、手紙を置いていくわね」


元からそのつもりだったのか、フードの下から手紙や荷物を取り出した。

どこに入っていたのかと思うほど大きなものだ。


「これはクッションね。人間に戻ったときに着られるように、中に服が入ってるわ。

 こっちは護り石。ペアになってるのよ」


赤い石のついたペンダントを首にかけてくれた。


「これ、人間になったときに首を絞めちゃわない?」


「大丈夫。魔術がかかっているから持ち主に合わせて伸び縮みするの。

 あ、もしかしてそれでリボンは尻尾にしてたの?」


「うん。カールは首につけてくれようとしたんだけど、窒息しそうだったから」


「あはは! なるほどね。これは大丈夫よ。

 こっちはカールの分。この石は引き合うようになっているのよ。

 ルチノーちゃんとご主人様カールが、いつまでも一緒にいられますようにってお祈りしておいたからね」


「ありがとう、エメさん」


「うふ、いいのよ。カールによろしくね」


そういってエメさんは夕焼けの空を飛んで行った。





*****




あぁ、今日も疲れた。

周囲に助けられてなんとか業務を果たしているが、そろそろ限界だ。

もう一週間たつ。

ルゥはまだ帰ってこないのか。


「ただいま」


いないとわかっていても、声はかけてしまう。


「なーぅ」


「!?」


今、ルゥの声が聞こえた気がする。

俺、とうとう幻聴まで聞こえるようになっちまったのか?


「た、だいま・・・?」


「なーぅ!」


玄関の扉を開けた定位置に、ちょこんと彼女は座っていた。


「ルゥ!」


幻ではない。本物のルゥだ!


「んなっ」


飛びついてきた白い体を注意深く抱きしめ、頬ずりする。


「よく帰ってきてくれた・・・!」


「なーぅ」


にじむ涙を、ルゥが舐めとってくれた。


「おかえり、ルゥ」


真紅の瞳に俺が映る。

ルゥの瞳はなんてきれいなんだろう。

毛並みもいい。大事にしてくれていたようだ。

再会の喜びに浸っていると、胸元にきらりと光るペンダントに気付いた。

金の鎖に、ルゥの瞳の色に似た赤い石がついている。


「なんだこれは」


「んにゃ~」


ルゥに促され、居間の机の上を見ると手紙があった。

女魔術士からだ。

家には確かに鍵をかけてあったはず。

あの女、何を勝手なことをしてるんだ。


やはり魔術士は信用ならないと思いつつ、手紙を読んだ。

中には、ルゥのおかげでとても助かったこと、お礼にクッションと護り石を贈るとあった。

手紙のそばに、布の小さな袋がある。

開けてみると、中からルゥとおそろいのペンダントが出てきた。


「双子の護り石か」


元々は一つの石であったものを二つに分けたものを、双子石という。

お互い引き合う性質を持ち、魔術に用いられる。

それに護りの魔術をかけてくれたのだろう。

渡し方は気に入らないが、ルゥとおそろいなのは気に入った。


「おまえ、俺からのリボンは首にしなかったのに、なんでこれはしてるんだ?」


「んぁ・・・」


ばつが悪そうにするルゥ。

そんな顔すら愛しい。

たかが一週間だが、俺には長かった。

華奢なペンダントを手に取って、つけてみる。

長さが足りるのかと思ったが、これも魔術なのか、ぴったりと胸元におさまった。


「どうだ、似合うか?」


「んにゃ~」


あまり装飾品はつけないので少し恥ずかしい気もするが、服を着れば隠れる場所なのでよしとする。

一緒に風呂に入り、湯冷めしないうちに寝台にもぐりこんで、温かな体を抱き寄せた。


「おまえがいない間、寂しかった。もうどこへも行くなよ」


「なーぅ・・・・」


一週間ぶりのぬくもりは、あっという間に俺を眠りの世界へいざなった。




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