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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第2部
22/100

5 迎え



*****




家に帰ってルゥと夕飯を食べていると、玄関を叩く音がした。


「カール=ヘルベルト=ヴュスト! いい月の晩だな!」


ばたん。

扉を閉めた。


「こら! 開けろ!! 僕に会えて光栄だろう!」


ドンドンドン!

扉の外で騒いでいるが、無視。


「んにゃ~ぅ」


「いいんだ。あいつと関わると碌なことがないからな」


「なー・・・」


「カールさん、夜分すみません。エメ=ヴァウラと申します。

 そちらの猫ちゃんにお願いがあるんです。話をさせていただけませんか?」


「ルゥに?」


聞きなれぬ女性の声に、結局俺は客人を迎え入れた。




「ということで、魔術の依代にルゥちゃんをお貸しいただきたいのです」


「・・・なんでルゥなんですか?」


「魔術は美しいものを好みます。

 その点ルゥちゃんはこの真っ白な毛並みといい、紅玉のような瞳といい理想的です!

 決して危ないことはありませんから。お願いします」


ルゥを美しいといわれて悪い気はしない。

が、貸す気もない。


「だめです」


「そこをなんとか!」


「できません」


「なぜですか?」


「何事にも絶対ということはありません。ルゥをわざわざ危険な目にあわせるつもりはない」


「おいおい、カール=ヘルベルト=ヴュスト。

 エメ女史は僕が認める数少ない魔術士の一人だ。王都でも彼女ほどの腕前の魔術士ものはなかなかいないぞ。

 その彼女が大丈夫だというんだから、いいじゃないか」


「ウーリー=ヒューグラー。貴様は黙ってろ。

 そもそもおまえの知り合いだという点で印象は最悪だ」


「ウリ坊。あんたのせいなの・・・?」


「ウリ・・・?」


横目でにらむ女魔術士を前に、ウーリーは縮こまっている。


「女史、その呼び名、余所よそではやめてください・・・」


肩がふるえる。

ウリ坊?

傲岸不遜なこの男が、ウリ坊呼ばわり!?


「ぷっ・・・くくっ・・・・ふはっ・・・」


「あ! こら、カール! 笑うんじゃない!!」


「だって、おまえ、ウリ坊って・・・くくっ」


「エメ女史は僕の幼少期の家庭教師だったんだっ 仕方ないだろっ」


「ははははは!」


「ウリ坊ったら、小さい頃から生意気でねぇ。ちょっと純度の高い炎を召喚して浴びせたら従順になったけど」


「ちょっとって、女史! 原始の炎ですよ! 触れたら一瞬で消し炭です! あんなの今の僕でも呼び出せません」


「血統に頼りすぎてるからよ。修練なくして技の向上はないわ」


「僕だって・・・」


「なーぅ」


いつまでも言い合いを続けそうな師弟に、ルゥが割って入った。

そうだ、笑っている場合ではない。


「あなたが優れた魔術士なのはわかりました。

 でもそれとこれとは別です。ルゥだって行きたくないはずだ」


「そうかしら。じゃぁルゥちゃんがよければいい?」


女魔術士の瞳がきらりと光った。


「それは・・・」


ルゥは当然嫌がるだろう。

俺の側から離れるはずがない。


「ルゥ? 行きたくないよな?」


「んにゃ~ぅ」


ルゥの耳がくたりと垂れる。

ルゥ? まさか・・・。


「行きたいわよね」


「な!」


耳がぴんと立ち、ルゥは、彼女の足元にすり寄って行った


「ルゥ・・・・・」


「決まりね。大丈夫、一週間くらいでお返しするわ」


「ルゥ、なんで」


「早く行けば早く戻れるから。さっそく今出発します。

 あぁ、ルゥちゃんのごはんとかは気にしないで。全部私が責任をもってみます」


呆然とする俺の前で、ルゥは女魔術師の腕に抱かれて行ってしまった。

俺を、振り返ることもしなかった。




*****




冷たい夜空を、魔術士エメさんに抱かれて飛ぶ。


「お別れを言わなくてよかったの?」


「いいの。行きたくなくなっちゃうから」


眼下にはすでに、生まれ育った街が広がっていた。




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