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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第2部
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4 空からきたもの

「隊長! お久しぶりです!」


年明け。

兵舎の休みが終わり、総出で雪かきをしたり雪囲いをはずしたりする。

お昼には村人も手伝いにきてくれて、50人くらいの人出になった。


「隊長? 誰かお探しですか?」


休みの間に届いた郵便物を抱えたギュンターが、俺宛のものを渡しながら聞いてきた。


「ん? いや?」


「そうっすか? さっきから若い娘ばかり目で追ってません? そろそろ嫁さんが欲しくなりました?」


「馬鹿いうなよ」


言いながら、視界の隅を通った白い影が気になった。

なんだ、ヨシばあさんのエプロンか。


「若くなくてもいいんすね・・・ぐぇっ」


腹を一発殴っておいた。




なんだか気になるのだ。

白い、白いもの。

思い出せそうで、思い出せない。

知っていそうで、知っているわけではない。

なんなんだろう。


その幻想は、喉の奥にささった魚の骨のように、俺を苛んでいた。




*****


はぁ・・・。

カールの休暇、終わっちゃったな。


出窓に座って外を眺める。

2週間、ずっと一緒で楽しかった。

途中、カールが熱を出したときはびっくりしたけど。

元気になってよかった。


小春日和の今日は、ぽかぽかして温かい。

カールも今頃一生懸命兵舎を片づけてるのかな。

以前一度だけ連れて行ってもらった、兵舎の様子を思い出す。

みんなおもしろい人たちだったなぁ。


透き通った高い空を鳥が飛んでいる。

なんの鳥だろう。

カラスにしては大きいな。

鷹?

鷲?

ん?

えっ、ええぇぇ!?


「ようやく見つけた! ルチノーちゃん!!!!!」


「ふにゃなぁぅ!?」


エ、エ、エ、エメさんだあぁっ




「なぜ貴様がここにいる」


「失敬だなぁ。僕はただの案内人だよ。こちらのエメ女史が希少な猫を探してるっていうんでね。教えてあげたんだ」


空からやってきたエメさんは、ウーリーさんという魔術士さんと一緒だった。

ウーリーさんに会ってからというもの、カールの機嫌が悪い。


「カールさん。いきなり来て本当に申し訳ないのですが、ルチ・・・ルゥちゃんをお借りできないでしょうか?」


「だめです」


「そこをなんとか」


「できません」


さっきからこのやりとりの繰り返しだ。

私を守ろうとしてくれるカールの気持ちはうれしいんだけど・・・。




昼間。

窓から飛び込んできたエメさんは、悪い知らせを運んできた。


「ルチノーちゃんのお義母さんがね、病気なのよ。あなたに会いたがってるわ」


院長先生が!?


「猫になったあなたを一番心配してるの。親戚の人が孤児院の周りをくまなく探してくれたけど見つからなくて、王都にいた私に連絡してきたのよ。

 まさかこんな辺境にいるなんて・・・」


「なーぅ・・・」


「さ、私と一緒にいきましょう。魔術で飛んでいけば、明日には着くから」


「んなっんなっ」


だめ! カールがいない間にいなくなったりしたら、心配かけちゃう!


「え? だめなの? ・・・ってゆーかルチノーちゃんしゃべれないの?

 おかしいわね。術はほとんど解けかけてるのに・・・」


そうなの?


エメさんが、人差し指と中指をそろえて自分の額に当てた。

口の中で何かつぶやいていから、その指を私の額に当てる。


ぴりっ


静電気が起きたときのような衝撃が額に走る。


「これでどう?」


「ふにゃ・・・な・・・あ、あー・・・しゃべれる!」


「よかった。で、いますぐ行けない理由わけは何?」




子どもに追われて辺境ここまで来たこと。

死にそうになっていたところをカールに助けられたこと。

カールはすごく私をかわいがってくれてて(うぬぼれじゃないと思うの)、突然いなくなったらとても心配するだろうことを説明した。


「ふぅん。いい人に会えたのね」


「そう! カールはとっても優しいの。それに強いし隊員さんにも人気あるし、格好いいからもてるし!

 すごぉく背が高くて力持ちで、ごはんも作ってくれるし一緒にお風呂に入れてくれるし一緒に寝てくれるし・・・」


「くす・・・。ルチノーちゃんはカールさんが大好きなのね」


「大好・・・・っ そ、そうだよっ

 拾ってくれた人だもの、す、好きよっ」


いつも思ってても、他の人に言うのってなんだか恥ずかしい。


「でもその人30代でしょ? 30でそれって・・・今猫だし、人に戻ってもルチノーちゃんは16歳・・・」


「たぶん17になったけど?」


「そういう問題じゃなくて・・・ふふっ、まぁいいか。愛があれば歳の差なんて!」


「エメさん???」


「とにかく、黙って出て行ったら、ルチノーちゃんを溺愛しているご主人様が、半狂乱になって探すってことね。

 わかったわ。何か考えましょう」


「できあ・・・っ」


「また後で来るわ。じゃぁね!」




そして夜。

エメさんはウーリーさんと言う魔術師を連れて、家の扉を叩いたのだった。





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