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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第2部
20/100

3 休暇

小話3つ。

すべてカール視点となります。



*** 年越し ***




「新年おめでとう!」


とっておきの葡萄酒ワインを出して、ルゥ相手に乾杯をする。


「おまえも飲むか?」


指先に葡萄酒をつけて、口の前に持って行ってみた。

くんくんと匂いを嗅いで、ぺろりと舐めた・・・かと思ったら、いかにもマズイ!と言う風に顔をしかめた。


「あっははは! なんだ、その顔。酒はだめか。ちょっとくらいつきあえよ」


グラスを差し出すが、ぷいっと横を向かれてしまった。


「そっか。じゃぁこれもいらないか?」


グリュイエールチーズをすりおろして葡萄酒ワインで煮溶かしたものに、パンをつける。

フォークで刺し、息を吹きかけて冷ましてからルゥの前に差し出せば、はふはふと大喜びで食べた。


「チーズ好きだよなぁ。もっと食うか?」


「んな!」


小鍋の中をほとんど空にするころには、ルゥはぐでんぐでんに酔っ払っていた。

元々やわらかい体が、もうぐにゃぐにゃだ。


葡萄酒ワインが効きすぎてたか。大丈夫か?」


「んな~。なーぅ・・・んにゃ・・・」


「ははっ、いっぱしに寝言か?」


机の上で伸びているルゥを寝台に運び、シーツを掛けてやる。

自分はもう少し飲むべく、居間に戻ろうとした。


「ん・・・・・?」


シーツがやけに盛り上がった気がした。

瞬きして見直すと、元に戻っている。

ルゥが伸びでもしたのか。


「おやすみ、ルゥ。いい夢を」


シーツ越しに背中をぽんと叩いて、寝室の扉を閉めた。




*** 冬の一日 ***




新年を祝う村の祭りに招かれた。


「新年おめでとうございます」

「隊長! お元気そうでなによりです」

「ご実家には帰らなかったんですか?」


隊員たちやその家族、警備隊の活動で知り合った村人たちと、楽しいひと時を過ごした。




「ただいま、ルゥ」


「んにゃ~」


温かな体を抱き寄せ、暖炉の前に座る。

あぐらをかいた膝の上にルゥをのせて、お土産を広げた。


「ヨシばあさんが腕をふるってたからな。どれもうまかったぞ」


祝いの席で出された料理のうち、ルゥに食べられそうなものをもらってきた。

揚げたパンに砂糖をまぶしたものや、骨付きのチキン

ルゥの大好物の山羊シェーブルチーズなど。

自分もつまみながら、小さくちぎったものをルゥに食べさせる。


「甘いもの、結構好きなんだな。あ、こら、舐めるなよ。おっと」


口元についた砂糖を狙われて、顔中を舐められた。

逃げようとした拍子にバランスを崩し、後ろに倒れる。

そんな俺にはおかまいなしで、ルゥは倒れた俺に馬乗り(って猫でもいうのか?)になって舐め続けた。


「もう好きにしろ・・・」


パチパチと薪がはぜる音がする。

ルゥは満足したのか、俺の胸の上で丸くなっている。

ちょっとだけと勧められて飲んだ酒が効いたのか、眠くなってきた。

どうせ明日も休みだ。

ここで寝てしまったとて、誰に咎められるわけでもない。


「ふあぁ・・・」


なんともいえない幸せな気分で、俺は眠りに落ちた。




*** 熱 ***




「はぁっ・・・ふぅ・・・・」


熱を出した。


暖炉の前で転寝うたたねをしたのがいけなかったのか。

それとも昨日雪かきをして、びっしょり濡れたからか。

ルゥと風呂で遊びすぎて、湯冷めしたのかもしれない。


思い当たることはたくさんあるが、とにかく今は熱がある。


かりかりかり


扉をひっかく音がする。


「だめだ、ルゥ・・・。風邪、がうつったら・・・・大変だからな。

 今日は居間で寝てくれ・・・・」


なんとか声を絞り出す。

喉が痛い。頭痛も酷い。

せっかくの休暇なのになぁ。

いや、休暇中でよかったか。隊のものに迷惑をかけたくないからな。


ぶるり。


寒気がする。

また熱が上がるのか・・・・・。




夜半。

額と首筋に、ひやりとした布が当てられた。

ほてった体に気持ちがいい。

白い手が頬を撫でる。


「お袋・・・?」


伸ばした手を優しく取って、寝具の中に入れられた。

首筋の布を取り替えて、額の布も裏返してくれる。

乾いた唇には、湿らせた布を当ててくれた。


「水・・・もっと・・・」


ねだると、水差しの水をそっと飲ませてくれた。

白い手が、汗ばんだ髪を撫でる。

頭なんて、久しぶりに撫でられた。

なんだか、すごく安心する。

瞼が重くなってきた。


すぅ・・・・・。


深い眠りが訪れ、俺は朝までぐっすりと寝た。




「・・・・ん・・・・」


次の朝目覚めると、体がすっかり軽くなっていた。

起き上がって、うーんと伸びをする。

昨夜、お袋の夢を見た気がする。

熱で気が弱くなっていたのか。

寝台の上を見ると、布や水差しなどは見当たらなかった。


「お、ルゥ、おはよう」


扉の隙間から、ルゥがタオルをくわえて歩いてきた。


「ちょうど体を拭きたかったんだ。ありがとう」


「なーぅ」


タオルを俺に渡すと、ルゥはすぐに寝室を出て行ってしまった。

風邪がうつるから近寄るな、という言いつけを守っているのか。

自分で言っておきながら、ちょっと寂しい。


早く治して遊んでやらないとな。

いや、遊んで欲しいのは俺か。ははっ。




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