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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第2部
19/100

2 危機一髪!?



*****




外套の折り方が違う。

昨夜は雪で濡れたから、袖口が上になるように掛けておいたはずだ。

それが今朝起きたら下になっている。

乾いてはいたから、はじめから下だったわけではない。

椅子も濡れていない。

些細な違和感だが、はじめてではなかった。


先月だったか、後で片づけるつもりだった洗濯物が、すでに片付いていたことがあった。

知らぬ間に侵入した者がいる?


「まさか、な」


いくら辺境でのんびりしているとはいえ、寝ている間に誰か来たら目が覚める。

ルゥだって騒ぐだろう。


「んにゃー」


「ん、行ってくる。

 今日行けば、2週間程休みだ。新年だからな。

 今日は仕事納めで遅くなるから、夕飯も置いていくぞ」


水とちぎったパン、塩抜きした肉を皿に入れて机の上に置いた。





「あれ、隊長。報告書が1枚抜けてますけど?」


月例報告書を確認していたギュンターに言われた。


「む・・・。家に置いてきたな」


「1枚なら書き直しちまいますか」


「いや、晴れてるし、取りに行ってくる」


「はい、お気をつけてー」


文を書くのは得意なほうではない。

書き直すくらいなら取りにいったほうがいい。

雪が溶け、ぬかるんだ道を歩く。

急に俺が帰ってきたら、ルゥはどんな反応をするだろう。

ちょっと楽しみだ。


家が見えてくる。

赴任したとき、兵舎に部屋を用意するといわれたが、他人と関わり合いたくなかった俺は、一軒家を希望した。

ちょうど空き家があったので、少し手入れをするだけで住めた。

今となっては、ルゥと2人で誰に気兼ねすることなく生活できてうれしい。

雪道を兵舎まで通うのだって、ルゥを独り占めするためなのだから、俺のねこ馬鹿ぶりも筋金入りだ。


鍵を開けて中に入ろうとして、違和感を覚える。

窓越しに、家の中に白いものが揺れているのが見えた。

ルゥにしては大きい。

泥棒?

夜間ではなく、昼間に侵入していたのか!?


「誰だ!」


剣の柄に手をかけ、いきおいよく玄関をあけて飛び込む。

いらえはない。

慎重に足を運び、居間へ行く。

誰もいない。寝室か?


ばさり


音がした。


「動くな!!」


腰をかがめ一気に剣を抜き、切っ先を音の方向に向けた。


「・・・にゃぁん・・・」


床に落ちたシーツの下から顔をのぞかせたのは、ルゥだった。




「おまえだったのか。驚かすなよ」


窓から見えた白い影も、ルゥが室内で遊んでいたものだろう。


「これ、ふりまわしてたのか? 1人でつまらなかったんだろう」


「んなーぅ」


タオルを拾ってたたみなおす。

床にはたくさんのタオルやシーツが散らばっていた。

ルゥはごめんなさい、と言うように俺の足にすりよってきた。

抱き上げると、口の周りを小さな舌でぺろぺろと舐める。


「ははっ、いいさ。今夜もできるだけ早く帰ってくるからな。

 あぁ、今は忘れ物を取りに来ただけなんだ。じゃぁな、また行ってくる」


ルゥに口づけて、家を後にした。

もちろん鍵をしっかりかけて。


ルゥのやつ、俺がいないときにあんな遊びをしてたんだな。

だからものの位置が変わることがあったんだろう。

洗濯ものは、自分で片付けたのを忘れてたんだな。


ルゥの知らない一面を見て、俺は鼻歌を歌いながら兵舎に戻った。

仕事納めはやはり忙しく、家に帰れたのは深夜だった。




******




あああ、驚いた!


自分の意志で、昼間に人型になれるか試してみたら、あっさりなれた。

裸のままでは寒かったので、シーツをかぶって部屋の掃除をしてみた。

そしたら、机の下に書類が一枚落ちているのに気付いた。

これ、昨日カールが書いてたやつだよね。

落ちてていいのかなぁ。


上質の羊皮紙ヴェラムに、几帳面な文字が並ぶ。

“字が読めれば職につながる”という考えだった院長先生のおかげで、私もある程度の字はわかる。

今年の警備隊の活動が書かれているようだった。

きっと忘れたんだなと思って机の上に置き、洗濯もしてみようかと思ってタオルをとったところだった。


ガチャッ


玄関で、鍵の開く音がした。


「誰だ!」


鋭い誰何すいかの声。

とっさにシーツにもぐり、猫に戻れと必死に念じた。

間に合って、よかった・・・・・・。


なぜかご機嫌なカールを見送り、窓辺で丸くなる。

それからカールは夜中まで帰ってこなかったけど、私は人型になろうとはしなかった。

あんなに怖い目は、当分勘弁。


あ、また雪が降ってきた。

今年ももう終わりだなぁ。

来年も、ずっとカールといられますように。





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