表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/100

*** カールの休日 ***

本編の流れからはみだした閑話です。


今日は休みだ。

一日中ルゥと遊べる。


ルゥが来てからはじめての休み。

存外に楽しみにしていたらしい俺は、出勤日と同じかそれより早く目覚めてしまった。

ルゥはまだ俺の隣でくぅくぅと眠っている。

時折ひげがぴくっと動いたり、ピンク色の鼻がぴすぴすと動いたりするのは夢を見ているのか。

小さな前脚に指をかけて引っ張ると、ずるずると体が伸びた。

それでも起きない。


「ふっ・・・・熟睡しすぎだろう」


ころりとひっくり返すと、両脚を胸の前で曲げ、まんまるのおなかを晒した。

小さな舌が口から覗いている。

指先でつついてみると、はぐっと食いつかれた。


「ん?起きたのか?」


はぐはぐはぐ。

前脚で俺の指を抑え込んでむ。


「痛い。痛い痛い痛い!

 ルゥ!寝ぼけてるな!痛いぞ!!」


細く尖った歯が指先に食い込む。

振り落とそうと腕を上げたら、ルゥもついてきた。

猫の一本釣り・・・いや、そうじゃなくて!


「・・・・・・?」


俺が一人で騒いでいると、ぼんやりと目を開けたルゥがぽてっと落ちた。

何があったんだろう、とか。

いま食べてたおいしいものはどこにいったんだろう、とか。

そんなことを考えていそうな気がする。


「おはよう、ルゥ。

 おまえが食ってたのはこれ。歯形がついてるじゃないか。痛かったぞ」


ルゥの目の前で手を振ると、ようやく焦点のあった瞳が見上げた・・・かと思ったが。


「んなあぁぁぁぅ」


あくび。

あくびか。


「おまえと遊んでいたら、寝台の上で日が暮れそうだな。

 洗濯だけはしちまうか」


ルゥを肩に乗せ、シーツをはがす。

洗って外に干して、朝食を摂ったら掃除。


「こら、邪魔だ。ほうきにじゃれつくな!」


「んなっんなっ♪」


「ご機嫌だなぁ。おまえのせいでちっとも進まないんだぞ。

 家事を終わらせてから、思う存分遊ぼうと思ってるのに」


動かなくなった箒と俺を交互に見て、「んなっ」と鳴く。

長い尻尾で床をたんたんと叩く。


「なんだ、動かせっていうのか」


ザザーッと箒を右に大きく振れば、ルゥも右に駆けていく。

左に振れば、ひらりと体の向きを変えたルゥが飛びかかる。

右へ、左へ。また右へ。

赤い瞳が爛々と輝いている。


「ぷっ・・・くくっ・・・。何がおもしろいんだかなぁ」


箒の追いかけっこは、ルゥが窓辺に寄ってきた鳥に気を取られるまで続いた。




「ルゥ。おい、ルゥ?」


掃除を終え、昼飯を片手にルゥを呼ぶが姿が見えない。

さして広くもない家である。

そう隠れる場所もないと思うが・・・。


しまった!

玄関が細く開いているのに気付き、焦る。

朝洗濯物を干したときに、きちんと閉めなかったのか。


「ルゥ! どこだ!! ルゥ!」


「んなー」


名前を呼びながら玄関を飛び出すと、すぐ近くで声がした。

なんだ、脅かすなよ。

どうやって登ったのか、ルゥは出窓の上から俺を見下ろしていた。


「おいで、ルゥ」


手を伸ばすと、ぴょこんと飛び乗った。

外に出たついでにと、乾いた洗濯物を取り込む。

俺の肩を伝って降りたルゥは、蝶やバッタを追いかけている。


「俺が留守の間、家に閉じ込めておくのもかわいそうだよな・・・」


一匹の黄色い蝶が、ルゥの鼻先をかすめた。

ひらひらと舞い、飛んでいく。

ルゥは身をふせ、じりじりと後をついていく。


緑の中に、真っ白な尻尾が揺れる。

だんだん遠ざかる後姿に、このまま声をかけなかったらどうなるんだろうと思う。

蝶を追って、どこまでも行ってしまうのか。

俺はまた一人に戻るのか。


「・・・・・・ルゥ!」


己の想像に耐えきれなくなって、短く名を呼んだ。

ぴくん!

草むらに小さな耳が見えたかと思うと、俺めがけて一目散に駆けてきた。

両手を広げれば、当然のように飛び込んでくる。


「んな~」


肩に乗り、耳元に体を摺り寄せてきた。


「・・・あまり遠くに行くな」


「なーぅ?」


カール。

そう言っていると思う。

俺が生まれる前母親が飼っていた猫は、「ごはん」としゃべったと言っていた。

「ママって呼んでくれたこともあるのよ」とも。

その時は鼻で笑っていたけれど・・・。


「んぁーぅぅ??」


今度は「大丈夫?」かな。

なんて、そんなわけないか。

親馬鹿もたいがいにしないとな。


「ふっ・・・・おまえがしゃべれたらいいのになぁ」


ぽんと頭を叩くと、ルゥは困ったように小首をかしげた。


「さ、午後は何をしようか。

 家事は全部終わったから、たっぷり遊べるからな」




ルゥをかまったりかまわれたり?するうち、あっという間に一日が終わった。

湯船につかれば、満足の溜息。

シーツは日なたの匂いがして、心地よい眠りに誘われる。


「おやすみ・・・ルゥ・・・。

 次の休みは、何をしよう、な・・・・・」


ルゥを撫でる指がだんだんゆっくりになる。

すぅっと意識が遠ざかり、眠りに落ちていく。




「おやすみ、カール」



あれ・・・おまえ、今しゃべった・・・?

目を開けたいけれど、眠く・・・て・・・・・。




窓から差し込む光に起こされる。

隣に眠るのは白猫のルゥで、「おはよう」と言えば「んなー」と鳴いた。

昨夜しゃべったと思ったのはまた夢か。


「さてと。また隊員どもを鍛える日々か。あいつら緊張感ってもんがないからなぁ。

 じゃ、行ってくる」


「んなー」


繰り返される、いつもの日々。

一人と一匹。

かなうならば、いつまでもそばに。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ