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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第1部
14/100

14 お出かけ



*****



カールとのお出かけを、前の晩から楽しみにしていた。


家から歩いて15分ほどの兵舎は、石造りの2階建。

小高い丘の上にあった。

右が国境で左が村だと、カールが教えてくれた。

国境の方角には茶色い柵が点々と見えたけど、それ以外は見渡す限り緑が広がって、遠くの山々がとってもきれい。

馬屋には馬じゃなくて牛がいた。

武器庫にも、武器じゃなくて農機具とか大工道具とかが入っていた。


うーん、ここって警備隊の兵舎だよねぇ。

これでいいのかなぁ?


「まあぁ、かわいい!

 この子がルゥちゃんですね!!」


ひとしきり兵舎をまわったあと木陰で休んでいると、やってきたのは細い女の人。

院長先生よりは若いけど、それなりの年だと思う。


「聞いていたとおり、真っ白な毛。

 ふわっふわですね。瞳もなんてきれいなの」


「そうでしょう。毎日風呂に入れてますからね」


「毎日? 大丈夫ですか?

 入れすぎはよくないって言いますけど・・・」


カールの服から顔を出す私に、その人が手を伸ばしてきた。

カールは、はじめ私を上着のポケットに入れようとしたんだけど、さすがに入れなくて、ボタンを2つ外した襟元に落ち着いたのだ。

あったかいし、カールにくっつけるし、ここ最高!


でもこの人はキライ。

さっきからカールはデレデレと相好を崩して猫談義。

そういう顔は家の中だけにして!


しかもお風呂に入っちゃだめって何?

余計なお世話だよっ

お風呂が好きな猫だっているでしょう?

カールが入れてくれなくなったらどうしてくれるのっ


そんな思いがあって、シャー!っと牙を剥いた。


「あれ、どうしたんだ、ルゥ」


「私、嫌われちゃったみたいですね。

 家の猫の匂いがするのかもしれません」


猫を飼っている女の人。

細くて影が薄い。

そっか、この人スヴァルさんだ。

煮干しをくれた人だよね。

魚嫌いの私になんてものを勧めてくれるの。

やっぱり嫌い。


ぷぃっと横を向くと、カールが頭を撫でた。


「仕方のないやつだ。確かにいままで他の猫に会ったことはないからな。

 すみませんね、スヴァルさん」


「いいえ、いいんですよ。

 うちの子の中にも焼きもち妬きがいるからわかります。

 ルゥちゃんに触ったら、きっと家に帰ってから大騒ぎします」


「ははっ、焼きもちね。

 そうなのか? ルゥ」


「んな~」


別に他の猫の匂いがカールや私につくのが嫌なわけじゃなくて、スヴァルさんが嫌なんだけど。

焼きもち。

焼きもちか。そうかもしれない。

家に帰ってからはいつも2人きりだから、他の人と居るカールを見るのははじめて。

私だけのカールだと思っていたのが、そうじゃないってわかっちゃった。


「白猫は気難しい子が多いですしね。

 でも会えてよかったです」


「あぁ、わざわざ来てくれてありがとうございました」


あの人、私に会いに来てくれたの?

ちょっと悪いことしたかな。

カール、怒る??


不安になって見上げたら、スヴァルさんと話してたとき以上に顔をくしゃくしゃにしたカールがいた。

怒るどころか嬉しそうだった。


「そっかぁ、焼きもちか! 大丈夫! 俺は他の猫に浮気なんかしないからな」


猫だけじゃなくて、女の人もだめだよっ


つい、そう思ってしまった。

私、こんなに独占欲強かったっけ。

カールの側に置いてもらえればそれでいいと思ってたけど、どんどん贅沢になってるな。


「隊長・・・予想以上のねこ馬鹿っぷりっすね・・・」

「この間までの無口無表情の面影はこれっぽっちもないっす」

他人ひとの趣味に口を出す気はありませんが、一線を越えたら左遷どころじゃすみませんぜ」


「おまえら、どこから聞いていた・・・」


あっ

この人たちがのんきな隊員さんたちね。

ひょろりとしたそばかすの人がサジさん。

くりくりの短い髪の毛が似合う、男の子って言ってもいいような人がヨゼフJr.さん。

背の低い、がっしりした人は誰だろう。

ギュンターさん?は違うよねぇ。

あと誰がいたっけ。

ブルーノさん、カリストさん、ダニエルさん、ディルクさん・・・。

カールの話に出てきた名前を一生懸命思い出す。

あ、きっとフェリクスさんだ。

名前負けのごつい人がいるって言ってた。

思い出してすっきりしたところに、兵舎の2階の窓から声がかかった。


「隊長―! 

 メシ食っていきますよねー? ヨシばあさんの差し入れがありますよー!」


窓から顔を出したのは、くすんだ金髪の男の人。

あの人がギュンターさんだ。

近くで見れば、瞳は灰色グレーだろう。


お昼ご飯はヨシさんの差し入れね。

ヨシさんのごはん、おいしいんだよね♪


「どうする? ルゥ」


「んなっんなっ」


もちろん食べます。


「へぇ。言葉わかるんすか」

「利口だなぁ。俺んちの猫なんて生意気なばっかりで全然可愛くないっすよ」

「隊長がメロメロになるのもわかりますね」


「メロメ・・・まぁ否定はしない・・・」


軽口をたたきあうカールと隊員さん。

ほんとに仲良しになったんだね。よかったね!




兵舎の食堂で。

隊員さんに囲まれて、おいしいごはんをお腹いっぱい食べた。

午後は、ギュンターさんが貸してくれた釣り道具をもって、湖にいった。

私も尻尾をたらしてみようかと思ったけど、大切なリボンが汚れるからやめた。

カールはじっと釣り糸を見つめている。


「なーぅ?」


どうしたの?


午前中はご機嫌だったのに、お昼くらいから機嫌が悪いような気がする。

スヴァルさんのことを気にしてるのかな。

その後は私も反省して、隊員さんたちには愛想をふりまくようにしてたんだけど。


釣り糸の先の浮きがぴくりと動いた。

カールが素早く引く。

餌だけとられてた。

湖の真ん中で、銀色の魚がはねた。

そう簡単に釣られないよ!

そう言ってるみたいだった。


「あぁ、もうやめだ、やめ!」


釣竿を投げ出したカールが、草の上にごろりと横になる。

カールってば、「ちっ」て舌打ちした。

そんなこと、したことないのに。


怒ってるのかなぁ。

苛々してるのかなぁ。


こういうとき、どうしたらいいかわからない。

私を殴ってみる?

そんなことでカールが元気になるわけない。

アヒムじゃないんだから。


私ができることで、カールが喜ぶこと。

ひらひらと舞う蝶をかまうふりをして、一生懸命考える。

あ! そうだ!


身をひるがえしカールの上に飛び乗ると、私は彼にキスをした。




*****




気に入らない。

何が気に入らないって、ルゥの態度だ。


午前中はよかった。

スヴァルに焼きもちを妬いて毛を逆立てるルゥは、とてもかわいかった。

それだけ俺を好きってことだろう?


でもその後がいけない。

なぜフェリクスの手から肉を食べる?

ブルーノには果物をもらっていたし、サジの手の平からミルクを飲んでいた。

ヨゼフJr.の頭の上に乗って、カリストが投げた豆を器用にはぐっと捕って拍手をもらってもいた。

俺とはそんなことしたことない。


ルゥが皆に好かれるのはいいことだと自分に言い聞かせても、徐々に不機嫌になるのを止められなかった。

ギュンターが釣竿を押し付けてくるのがもう少し遅かったら、俺はルゥをひっつかんで帰っていたかもしれない。


あいつら、俺のルゥにべたべたしやがって!

ルゥもルゥだ。

スヴァルの事は嫌がったのに、隊員には尻尾を振るってどういうことだ。

雌猫だからか?


雑念だらけの俺に魚が釣れるわけもなく、釣竿を放り出して寝ころんだ。

ルゥは俺の気なんぞ知らないで、蝶を追いかけまわしている。

兵舎になんて連れて行くんじゃなかった。

冬の間も兵舎には住まん。

どんなに深い雪が降ろうとも、ルゥと暮らすあの家から通う。


そう決めたら少し気が静まった。

おや? ルゥはどこにいった?

さっきまでそこで遊んでいたと思ったが・・・。


見失ったのは一瞬。

胸の上に慣れた重さを感じたと思ったら、口づけられた。

花びらほどの、ささやかな感触だった。

驚いて見つめれば、お座りをして小首をかしげる。


「ルゥ~~~!!」


がばっと起き上がり、力一杯抱きしめた。


「ふぎっ」


「おまえぇぇぇ、やっぱりかわいい! かわいいなッ

 俺以外には絶対にするなよ!・・・あれ? ルゥ?」


ぐったり。

失神してる?


「ルゥ! しっかりしろ! ルゥ!!」


ぺしぺしと顔を叩くこと3回。

目覚めたルゥに、がりっとひっかかれて俺の休日は終わった。




カール兄さんがどんどんあぶない人に・・・(笑)。

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