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白猫の恋わずらい  作者: みきまろ
第1部
12/100

12 左遷のわけ2

*****




「おまえら、兵舎50周はどうした」


「ただいま走っているところであります!」

「兵舎の外とは言われなかったので、兵舎の中を!」

「そしたらたまたま話し声が聞こえて」

「決して、答えが気になって追いかけてきたのではありません!」


「おま・・・なっ・・・」


敬礼をして背筋を正す面々。

赴任した当時は敬礼それすらできなかった。

3か月かかって、ようやくさまになってきたのだ。


「ふっ・・・どんな理屈だよ・・・」


ウーリーから手を離し、額に手の平を当てて宙を仰ぐ。

まったくもって馬鹿馬鹿しい。

兵舎の中を走る奴があるか。

“気になって追いかけてきたのではない”って、追いかけてきたと明言しているようなものだろう。


「ぷ・・・くく・・・ははっ、仕方のない奴らだ」


笑いがこみあげてくる。

肩の力が抜けた瞬間だった。

髪や髭を隠し、他人を拒絶してきた。

ルゥのおかげで、顔をさらすことはできたが、まだ壁があった。

それが今、取り払われた。


「た、隊長が笑った・・・」

「全開の笑顔・・確かに凶器だ」

「やべ、俺惚れる」


最後の奴の台詞には、周りの隊員もざっと引いた。

俺だってご免だ。


「そんなに仏頂面してたか? ・・・してたな。すまないな」


「いえいえ、この間からね、ちょこちょこ微笑んではいたんですよ。

 気付いてましたか?」


隊員が避けた後方に、ギュンターがいた。

どうせこの男がこいつらを連れてきたのだろう。

今は補佐官とはいえ、元隊長だ。


「雨降って地固まるってやつかい?

 よかったな、シギ」


「ももももも申し訳ありませんんんんん!」


噂の出どころはこっちだったか。


「いいさ。まぁこうなったら自分からしゃべったほうがいい。

 シギの言ったことはともかく、ウーリーの話はほぼ本当だ。

王女の誘いを断ったのがまずかったんだ」


しがない商家の三男坊だった。

体だけはでかく丈夫に生んでもらったから、手っ取り早く職につこうと軍に入った。

元々向いていたのか上司がよかったのか、たいした苦労もなく戦果をあげ、20代後半で国王直属の隊に入った。

男ばかりの騎士団にいたころはよかったが、近衛騎士として目立ったのが悪かった。

友人もできたが、敵も多かった。そんなところに隣国の王女の護衛話が舞い込んだ。


「ウーリーさんとは何の関係が?」


「元はこいつの仕事だったんだ。

 それを面倒くさいとかなんとかいってたまたま廊下で会った俺に押しつけやがって。

 それまでほとんどこいつとは面識はなかったんだぞ」


「面倒くさがったんじゃない。

 占いで、王女の国の方角が僕にとって凶と出たから避けたまで。

 あの日僕と君が出会うもの占いでわかってた。

 君にとっては幸福のカードが出てたんだが・・・おかしいな」


「幸福・・・? もしかしてそれでやけに俺と王女をくっつけようとしてたのか?」


「そうだよ。一般的に見ても逆玉の輿じゃないか。

 それをまぁすげなく断るもんだから、王女の自尊心プライドが許さなかったんだろうねぇ」


食後のお茶をすするウーリー。

押しても引いても権力を使ってもダメとわかった王女は、最後は俺の部屋に忍んできた。

とんだ自尊心プライドだ。

きっちり断ったが、泣きながら部屋を出た王女の姿を、近衛団長に見られたのが運の尽きだった。

それまで同情的だった友人も、冷たい目で俺を見るようになり、謹慎処分の上、辺境への赴任通知がきた。


「俺は誓って一切王女には手を触れていない。

 誰も信じてくれなかったがな。

 あのとき、団長さえいなければまだ言い逃れできたものを。

 なんであの日に限って宿舎にいたんだか・・・いや、王女があんな時間にこなければ・・」


「僕が占ったからだな」


「は?」


「王女に頼まれたんだ。カールと幸せになるにはどうすればいいかって。

 王女と君とで占うとうまくいかなかったけど、君の幸せに絞って占ったら、あの日あの時刻に部屋を訪れればいいと出た。

 王女はいそいそとでかけていったぞ」

 

「俺の幸せって・・おかしいだろう。

 団長に見られて、シギが言ったように王女をもてあそんで捨てたって噂がたった。

 査問会じゃ、王女や王女の侍女が嘘八百ならべたてやがった。

 結局冤罪で辺境ここに飛ばされたんだぞ。

 なんでそれが俺の幸せなんだよ」


「わからん。でも僕の占いは当たる! 絶対いいことがある!」


「ああ、そうかい。

 同僚には嫉まれ、友人にはさげすまれ、国王様にまで見限られた

 貴様の占いは大したもんだな!」


「・・・ブルクハルト王は見限ったわけじゃない。

 王女の趣味は結構有名だったからな。

 気に入った男を国に連れ帰っては、自分のハーレムを作ってたらしいぞ。

 でも外交上の問題もある。あのまま王都にいたら、強制退役させられてたんじゃないか。

 辺境への赴任は王の温情だな。きっと1年もしないうちに呼び戻されるだろう」


「・・・そうなのか?」


そんな話があるとは知らなかった。

王女のハーレム?

金髪紫瞳、容姿秀麗のウーリーなんて、出会ったその日のうちに拉致られそうだ。

占いというより、やはりごたごたに巻き込まれたくなくて俺に押し付けたんじゃないか。


「隊長、王都に戻るんすか」

「せっかく仲良くなれそうだったのに」

「俺の初恋がぁ」

「馬鹿、黙ってろよ」

「猫どうするんすか」

「隊長のねこ馬鹿ぶりを見るまでは帰しません!」


・・・なぜそれを知っている。スヴァルと話してたのを見られたか。


「僕が言うんだから間違いない。

 なんならいつ戻れるか占おうか?」


「貴様の占いなど信じられるか。

 帰還の命令はきていない。憶測で話をするな」


はじめは戻りたくて仕方なかった。

ルゥに出会い、隊員や村人とのかかわりが増えるにつれ、王都の華やかだが殺伐とした人間関係より辺境ここのほうが好きになっていた。


「任期はわからんが訓練の手を抜く気はない。

 50周と言ったら外周に決まっているだろう!

 さっさと行け!」


話は終わりだと言わんばかりに一喝した。


「うへぇ、覚えてたんすか」

「酷いっす」

「隊長も一緒に走ってみたらいいじゃないすか!」


「言ったな。俺に負けた奴は50周追加だ。

 そら、ついてこい!!」


半分照れ隠しで、先頭をきって走った。

俺を抜いたのはギュンターだけだった。


走り終え、2人して木陰にばたりと倒れる。

後続の隊員はまだ来ない。


「はぁっ、はぁっ・・・・。おまえ、本当にただの牛飼いか?」


「ははっ・・・・はぁっ・・・。

 隊長こそ、都会の気障な軍人さんかと思いきや・・・おっと」


「くくっ、それが本音か。

 まぁこれで俺も晴れておまえらの仲間入りだな。

 今まで以上にしごいてやるから、覚悟しろよ」


「お手柔らかにお願いしますよ。カール隊長」


差し出された右手を、しっかりと握った。


「・・・・今度は力比べっすか?」


ぎりぎりと握りこめば、ギュンターも負けじと握り返してきた。


「握力にはちょっと自信があってな」


「痛たたたたた! 降参っす!」


「これで1勝1敗だな」


「・・・隊長ってば、結構負けず嫌いっすね」


隊員たちがやってくるのと、ヨシばあさんが昼飯の支度ができたのを言いに来るのはほぼ同時だった。


「よぉし、追加50周はメシの後でいいぞ。

 寛大な隊長おれに感謝しろよ!」


「鬼!」

「悪魔!」

「脇腹痛ぇ・・・。メシなんて食えないっすよ」


ぶつくさ言う隊員たち。

結局午後の訓練はなくなった。

昼飯中に村人が駆け込んできて、逃げ出した牛の捕物を頼まれたからだ。

まったく、これで何回目だよ。柵の強化をしなければな。






「というわけで、言ってからはかえってすっきりしたよ。

 なんで隠してたのか・・・人間不信だったんだな、俺も」


「なーぅ・・・」


家路につき、ルゥ相手に麦酒エールを呑む。

月明りに照らされ、ルゥの毛は銀色に輝いて見えた。


「きれいだな。真っ白な毛も、赤い瞳も。

 おまえがきてから、俺の世界は変わった。

 おまえも、俺といてうれしいと思ってくれてたらいいな」


「なぅ!」


「ん?そうか?

 ははっ。ルゥがしゃべれたらいいのにな。

 おまえがどんなことを考えているのか知りたいよ。

 夢でもいいから、出てきてくれないか?」


思い描いたのはあの少女。

一度きりしか会っていないが、妙に印象に残っている。


「んぁ・・・・」


ルゥの口が何か言いたそうに動いた。


「無理なこと言うなって?

 年経た猫は人型になるというぞ。

 でもなぁ。実家で23年生きたという猫もとうとう人にはなれなかった。

 しゃべったとはいうがな」




*****




気持ちよさそうにお酒を飲むカール。

王都もいろいろあるんだね。

王女様ってどんな人だったんだろう。美人かなぁ。

王都にいたころは、カールの周りにはきっときれいな人がたくさんいたんだろうな。

こんなに格好いいんだもん、みんな放っておくわけない。


「ルゥがしゃべれたらいいのにな。

 おまえがどんなことを考えているのか知りたいよ」


えっ

私と話してみたいって本当?

人型になってほしいって本当?


でもきっと、本当に変化したら驚かれる。

驚くくらいならいいけど、気味悪がられたら?

カールに拒絶されたら、私はきっと生きていけない。






深夜。

窓の外に違和感を覚えて目が覚めた。


「この術の気配は・・・エメ女史か」


「フーーーーーッ」


カーテンの隙間から顔だけだすと、空中に浮く金髪の男がいた。


「悪いものではないみたいだね。

 詫びがわりに、祓ってやろうかと思ったんだけど。

 カールの幸福は君か。

 どんな事情があるか知らないが、バレたくなければ新月に気をつけろよ」


どういうこと?

問い返す前に、男は宙に掻き消えた。




ぐだぐだと長くなって申し訳ありません。

何回か書き直したんですけど(TT)。

あきらめてUP。

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