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雪と星の物語

作者: 天ヶ森雀
掲載日:2010/11/05

 雪の精に友達はいない。

 だって、彼(彼女?)が笑ったりため息をつくと、周りにあるものすべてが白く凍っちゃうからね。

 住みかである樹の(うろ)の中、おんぼろの薪ストーブで柘榴(ざくろ)のお茶を淹れながら、雪の精は呟いたよ。

「友達が欲しいなぁ」

 別に淋しかった訳じゃないんだ。

 この世にあるものは、すべからくひとりで生まれひとりで消える。

 そんな事、野生の雪の精なら誰でも知ってる。

 ただ、どんなものか知りたかったのさ。

 一緒に北に渡る雁の群れ。小川を並んで泳ぐハヤ。

 雪の上ではしゃぐ熊の仔や、転げまわる人間のこどもたち。

 とりわけ、夜に人間の家を窓から覗くと、赤々と燃えた暖炉の脇で、小さなベッドにくっついて潜り込んだ双子の男の子に、ママが優しくキスをしてたよ。

 雪の精はそんなの知らなかった。

 いつもひとりだからね。

 ママを作るのは無理だって知ってる。

 だって、雪の精はもういるんだもの。

 ママは雪の精が産まれる時にはもういなきゃいけないんだ。

 とは言え試しに雪だるまでママをこさえてみたのさ。

 とても優しそうにできたけど、眠る彼(彼女?)にキスはしてくれなかったよ。


 繰り返し言うが、淋しかったわけじゃない。

 この世に生あるすべてのものはひとりで生まれてひとりで消える。

 そんなの常識だからな。

 ただ……そう、つまらないよな。笑っても泣いても相づちを打つ相手がいないってのはさ。

 そんな事を考えながら、赤と緑のタータンチェックの毛布を巻いて、雪の精は今日も出掛けた。

 別に寒くはないけれど、毛羽立った毛布は雪の精のお気に入りだった。微かに乾いた干し草の匂いがしてね。彼(彼女?)の知らない、夏の匂いみたいな気がしたんだ。

 フクロウ森の一番高い杉のてっぺんで、今日はどんな雪を降らそうか考える。

 昨日も一昨日も、さらさらと砂糖の様な粉雪だった。

 今日は少しシャクシャク系でもいいかもしれない。シロップをかけたら美味しそうなやつだ。

 さぁ降らそうかと息を吸い込んだ時に、天から声が響いてきた。

「よう、兄弟。せいが出るな」

 兄弟なんて呼び掛けられた事なかったから、雪の精は最初、自分が話しかけられたんだと解らなかった。

「よう、こっちだよ。ここだ」

 あたりをキョロキョロ見回すと、それは空でキラキラ光る星だった。

 一番目立つ三連星だ。

 星たちはキラキラ笑いながらこう言った。

「お前が雪を降らせる前や後は、空気がチリチリ凍るだろ。そうすると、俺たちの光は倍になって、そりゃあ綺麗に光るのさ」

 そんな事知らなかったから、雪の精はポカンと口を開けたよ。だって、星はキラキラ光ってるのが当たり前だと思ってたからね。

「空を見上げる生き物達は、冬の星座が一番綺麗だと褒めそやす。俺たちも春や夏や秋の星座に自慢できるってもんさね」

 さも嬉しそうに言われて、雪の精は真っ赤になった。

 だって、今まで誰かに褒められた事なんてなかったんだ。

「お前の降らす雪も、夜は月の光を浴びてキラキラ光るだろう? だから兄弟みたいなものかと思ってそう呼び掛けたんだが、…迷惑だったかね?」

 雪の精は首をブンブン横に降ったよ。

 嬉しさの余り、窒息しそうだった。

 そんな様子に星たちはにっこり微笑んで、「ああ、良い夜だね」と語り合う。


 それから、雪の精と星たちは、色んな事を話す様になった。

 雪が降った後に暖かく晴れると、美味しい楓糖(メープルシロップ)が取れる事。

 雪が深く積もった冬の後は、桜が綺麗に咲く事。

 怠惰な北極星は、いつも寝てばかりいる事。

 三連星は実は三つ子ではない事。


 やがて西風が春を連れて来るまで、星と雪のお喋りは続いた。

 だから、その年は雪がたくさん降って、子供たちは家の中で遊ばなきゃならなかったが、

 …まぁ、それくらいは仕方がないやね。


                      

                        おしまい



楓糖にルビがふれるのが嬉しくて載せました。

メープルシロップ情報はローラ・インガルス・ワイルダーの「小さな家」シリーズより。

あれの初刊である「大きな森の小さな家」は、絶対グルメ本だと思う。

と言うか、私にとってはそのものでした(笑)。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 絵本の世界みたいで、勝手に絵を想像しながら読みました。ここでしか読めないのが、勿体ないですね!
[一言] 幻想的なタイトルにひかれてきました☆ 雪を降らすは「雪の精」なんですね! 言葉の言い回しなんかも、個人的には とても好きです(笑) 「雪の精」も「星」のお陰で一人じゃなくなり、 ハッピーエン…
[一言]  初めまして。読専の陸水六花と申します。  とっても可愛らしいお話ですね^^  話し言葉で書かれているためか、とても読みやすく、まるで自分が誰かから読み聞かせてもらっているような感覚を覚え…
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