雪と星の物語
雪の精に友達はいない。
だって、彼(彼女?)が笑ったりため息をつくと、周りにあるものすべてが白く凍っちゃうからね。
住みかである樹の虚の中、おんぼろの薪ストーブで柘榴のお茶を淹れながら、雪の精は呟いたよ。
「友達が欲しいなぁ」
別に淋しかった訳じゃないんだ。
この世にあるものは、すべからくひとりで生まれひとりで消える。
そんな事、野生の雪の精なら誰でも知ってる。
ただ、どんなものか知りたかったのさ。
一緒に北に渡る雁の群れ。小川を並んで泳ぐハヤ。
雪の上ではしゃぐ熊の仔や、転げまわる人間のこどもたち。
とりわけ、夜に人間の家を窓から覗くと、赤々と燃えた暖炉の脇で、小さなベッドにくっついて潜り込んだ双子の男の子に、ママが優しくキスをしてたよ。
雪の精はそんなの知らなかった。
いつもひとりだからね。
ママを作るのは無理だって知ってる。
だって、雪の精はもういるんだもの。
ママは雪の精が産まれる時にはもういなきゃいけないんだ。
とは言え試しに雪だるまでママをこさえてみたのさ。
とても優しそうにできたけど、眠る彼(彼女?)にキスはしてくれなかったよ。
繰り返し言うが、淋しかったわけじゃない。
この世に生あるすべてのものはひとりで生まれてひとりで消える。
そんなの常識だからな。
ただ……そう、つまらないよな。笑っても泣いても相づちを打つ相手がいないってのはさ。
そんな事を考えながら、赤と緑のタータンチェックの毛布を巻いて、雪の精は今日も出掛けた。
別に寒くはないけれど、毛羽立った毛布は雪の精のお気に入りだった。微かに乾いた干し草の匂いがしてね。彼(彼女?)の知らない、夏の匂いみたいな気がしたんだ。
フクロウ森の一番高い杉のてっぺんで、今日はどんな雪を降らそうか考える。
昨日も一昨日も、さらさらと砂糖の様な粉雪だった。
今日は少しシャクシャク系でもいいかもしれない。シロップをかけたら美味しそうなやつだ。
さぁ降らそうかと息を吸い込んだ時に、天から声が響いてきた。
「よう、兄弟。せいが出るな」
兄弟なんて呼び掛けられた事なかったから、雪の精は最初、自分が話しかけられたんだと解らなかった。
「よう、こっちだよ。ここだ」
あたりをキョロキョロ見回すと、それは空でキラキラ光る星だった。
一番目立つ三連星だ。
星たちはキラキラ笑いながらこう言った。
「お前が雪を降らせる前や後は、空気がチリチリ凍るだろ。そうすると、俺たちの光は倍になって、そりゃあ綺麗に光るのさ」
そんな事知らなかったから、雪の精はポカンと口を開けたよ。だって、星はキラキラ光ってるのが当たり前だと思ってたからね。
「空を見上げる生き物達は、冬の星座が一番綺麗だと褒めそやす。俺たちも春や夏や秋の星座に自慢できるってもんさね」
さも嬉しそうに言われて、雪の精は真っ赤になった。
だって、今まで誰かに褒められた事なんてなかったんだ。
「お前の降らす雪も、夜は月の光を浴びてキラキラ光るだろう? だから兄弟みたいなものかと思ってそう呼び掛けたんだが、…迷惑だったかね?」
雪の精は首をブンブン横に降ったよ。
嬉しさの余り、窒息しそうだった。
そんな様子に星たちはにっこり微笑んで、「ああ、良い夜だね」と語り合う。
それから、雪の精と星たちは、色んな事を話す様になった。
雪が降った後に暖かく晴れると、美味しい楓糖が取れる事。
雪が深く積もった冬の後は、桜が綺麗に咲く事。
怠惰な北極星は、いつも寝てばかりいる事。
三連星は実は三つ子ではない事。
やがて西風が春を連れて来るまで、星と雪のお喋りは続いた。
だから、その年は雪がたくさん降って、子供たちは家の中で遊ばなきゃならなかったが、
…まぁ、それくらいは仕方がないやね。
おしまい
楓糖にルビがふれるのが嬉しくて載せました。
メープルシロップ情報はローラ・インガルス・ワイルダーの「小さな家」シリーズより。
あれの初刊である「大きな森の小さな家」は、絶対グルメ本だと思う。
と言うか、私にとってはそのものでした(笑)。




