↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミは誰?  作者: 阿久理ヒロミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/19

第四章 結 節一 姿と心

「お帰り、剛」

ベッドの上で目覚めた剛に、目を赤く腫らした侑芽を名乗る女が微笑む。

「戻って早々で悪いが食事を頼む。詳しい話はそれからだ」

クロが侑芽を名乗る女に言う。

「お水はそこに置いてあるから。ご飯もすぐ出せるように用意してあるから待ってて」

そう言うと、目を擦りながら侑芽を名乗る女がキッチンへと向かっていく。

侑芽を名乗る女の背中をクロは黙って見ていた。

腹に力が入らないな‥。

剛がゆっくりと起き上がり、ベッド横に置かれてあったペットボトルの水を一気の飲み干す。

ーーん?いい匂いがする‥これは侑芽が得意なロールキャベツだな‥。

「お待たせーーご飯できたよ」

呼ばれてキッチンに入ると、剛の予想通りダイニングテーブルの上にはロールキャベツとパン、サラダ、スープが用意されてあった。

「美味そうだなーー早速いただくよ」

ああ、この味だーー俺が好きな和風だしのロールキャベツ。生姜を入れた侑芽の味付けだ‥。

「美味しいよ。侑芽」

「‥えっ‥今‥なんて」

「んーー美味しいよと言ったんだよ」

「そのあとよーー名前」

「えっ?侑芽って」

「ーーああ!ずっとお前とか君だったから。もう私が侑芽だと信じて貰えないのかってずっと不安だった‥」

「そうだったのか、ごめんーーでも、今は見た目が違っていても、俺の目の前にいるのが間違いなく侑芽だとわかる」

「剛ーーうん!」

侑芽が頷きながら、涙を拭っていた。

侑芽の手料理を食べ終え、食器を片付けたダイニングテーブルに剛と侑芽が向かい合い、剛の隣にクロが座っている。

「それで向こうはどうだったの?」

「向こうの侑芽と一緒に無効の泉というのを探し続けた」

「無効の泉?ーーこの前、戻った時に剛が言っていたーー私の死を無効にする方法とかの事?」

「そうだーー無効の泉は見つけたんだけどーー」

「だけど?ーーいいわ、無理に言わなくてもーー剛を待っているうちに覚悟はできたから」

「侑芽‥‥‥すまない‥」

「剛が謝る事じゃないわーー向こうの侑芽もそう言わなかった」

剛が俯いて拳を握り締める。

「ねぇクロさん。私にはあと何日残っているの?」

「四十日だ」

「そう。それならーー九月十九日までって事よねーーそれだけあれば十分」

「ーーなにが十分なんだ?」

「決まってるじゃない。剛の最終試験よ」

「ーーどっちの侑芽も同じことを言うんだな」

「剛ったら、そんな悲しそうな目で微笑まないでよーー剛の試験合格は私の願いでもあるんだから」

そう言って微笑む侑芽は剛の知る侑芽自身だった。

「なんだ、もっと修羅場になるかと思ってここに残ったんだが、取り越し苦労ってやつか」

「そんな事ないわ。向こうへ戻ったら伝えて欲しいことがあるの」

「なにを、誰にだ?」

「向こうの侑芽にーー剛の事は任せて、全力で私がサポートするからって」

「そんな事ーーわざわざ言わなくても、向こうだって解っているだろう」

「それでもいいのーーバトンは受け取ったって事を伝えたいだけ」

「侑芽ーーお前‥」

剛が立ち上がり、椅子に座る侑芽の後ろに立つと、侑芽が振り返り剛を見上げる。

そのまま剛が顔を近づけると、侑芽は無言で顎を上げた。

この仕草はやはり侑芽だ‥。

剛の唇が侑芽の唇に重なっていく。

「ーー後は宜しく二人でやってくれーー伝言は伝えておくーーそれじゃあな」

クロが黒い霧となって姿を消していった。

「最終試験まで残り十一日ね。それまで剛は試験対策に専念して。他のことは私が全部やるから」

「頼むーー侑芽」

試験に向けた二人の生活が始まった。

自宅マンションから大学院と図書館の往復をする剛。

マスクをして通い慣れないスーパーで買い物をする侑芽。

二人の時間が過ぎていく。


「どうだ、順調か、剛」

同じ夏期セミナーに来ていた真矢が剛に話しかける。

「やれる事はやってるつもりだーーお前の方こそどうなんだよ、真矢」

「まぁ、ボチボチってところさーーこんな生活、早いとこ終わらせてみんなでパァっと騒ぎてぇよな、遼や瑞姫達も誘ってよ」

「いいぜ。その時は声をかけてくれよ」

「当然だろ。侑芽ちゃんも一緒にな」

「ああーーそうだな‥」


洗濯と掃除は終わらせたしーー後はここで今夜の食材を買って帰ればなんだけど‥ん〜今夜は何を作ろう‥。

侑芽はスーパーの中を歩きながら、献立を考えていた。

あっ!鯖が安い!ーーでもアイツ、面倒臭がって魚食べたがらないし‥いやいや、DHAは必要よ‥今夜は和食ね‥。

夕食の食材を選び、レジに並ぶ。

あの日以来、人からよく見られている気がするんだけど‥気のせいかな?ーー私の見た目って、髪が腰近くまであるって剛が言っていたけど、そのせい?‥。


「あ〜剛。今、鯖を見て嫌な顔したでしょ!ーー大丈夫よ、骨全部抜いてあるから。バランスよく栄養取らないとダメなのよ」

「侑芽、お前ーー最近、お袋みたくなってないか」

「それはね。剛が子供みたいなことするからよ」


参ったな‥結構、降ってやがる‥これじゃバス降りてからでもずぶ濡れ確定かーータクシーも行列だろうしな‥。

=剛。もう駅に着いた?=

侑芽からのラインが入る。

=ちょうど今、駅に着いた=

=良かった。どこにいるの?=

=改札を出たところ=

=じゃあ、そこにいて=

侑芽からラインの返信が来て、直ぐだった。

「剛!」

駅の改札を出たところに傘を持った侑芽が駆け寄ってくる。

「待っててくれたのか?」

「うん。しばらく雨予報だったしーーいつもこのくらいの時間に帰ってくるから」

「ありがとう。助かったよ」


八月二十日。

「いよいよ明日から本番だね」

「ああ。侑芽の大事な時間を使わせてしまったな」

「何を言ってるのよーーそんな事より二人の夢、剛にかかってるんだからね」

「おいおい、プレッシャーかける気かよ」

「へへーーでも剛ってプレッシャーあった方が力出せるタイプでしょ」

「コイツめーー侑芽には本当に感謝してる。ありがとう」

「ううんーー私こそありがとう、剛」

二人はベッドの中で抱き締めあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。