今日でも下界では――
ある大罪人が命を落とした。
人類史上、彼以上の大罪人など存在しえないだろう。
なにせ、彼は文字通り最後の一人に至るまで人間を殺しつくしたのだから。
そんな大罪人が命を落とし、天界にある裁きの場へと現れた。
堂々たる神様とその周りに控える天使。
さらには彼に殺された億を超す人々が裁きの場へ集まり怒声をあげる。
「僕の子供はこいつに殺された」
「俺の妻はこいつに殺された」
「私の夫は――」
異口同音。
対象こそ違えど、人々が言っていることはつまり愛する人を殺されたということ。
そして――その後に自分も殺されたということ。
「静粛に」
天使の言葉で魂達は黙りこくる。
何せ、ここは神様の支配する場なのだ。
自分達が主張しなくとも、必ず正義は成されるだろう。
そう確信をしながら固唾をのんで成り行きを見守ることにしたのだ。
「罪人よ」
そして、神様が問う。
「何故、お前は人間を殺しつくした」
すると、罪人は神様に向かって堂々たる様子で答えた。
「そうしなければ、他のあらゆる命が滅びるからです」
その言葉と共に。
虫の音が鳴った。
まるでラッパのように。
獣の声が響いた。
まるで歓声のように。
さらには鳥たちが羽ばたいた。
まるで割れんばかりの拍手をするように。
そんな中で罪人はさらに告げる。
「人類が滅びなければ。きっと、他の命は全て滅びたでしょう。だから、私は――」
あれほど居たはずの罪人に殺された魂達の声は『他種』の命の声に搔き消されてしまった。
その光景を存分に見つめ、神様は静かに判決を下した。
*
今日も下界では様々な命が日々を必死に生きている。
――某種族とは違い、決して環境を壊さずに。




