波濤
現代病といわれる病「うつ病」
この作品は、実際にうつ病と闘っている父親が描く闘病記です。
水平線が、辛うじて薄暗い空の果てに見える。
眼下には、遥か彼方から押し寄せてくる波が岸壁を削りながら波濤と化している。
夕闇は曇り空のせいでただの暗闇となり、先ほどから小雨が頬を打つ。
もう、半日以上こうして岩場に座り込んでいる。
Tシャツに薄手のジャケット、Gパンという出で立ちでは、さすがに少し寒い。
当ても無く、家を出てから3日。
ようやく辿り着いた場所が、本州の最北端のこの場所だった。
幸い、有名な観光地からは少し離れていて人気は無い。
吹きすさぶ風の音と、波の音。
時折姿を見せる名前のわからない鳥の鳴き声だけが、俺を取り囲んでいる。
寂しい場所だ。
寂しいゆえに、生きている事を感じてしまう場所だ。
今の俺に相応しいのか相応しくないのか・・・。
携帯の電源は昨日充電が切れたままだ。
特に誰からも着信が無いまま、充電は切れた。
今はもう、世間と俺を繋ぐものは何一つ無い。
ここに何をしに来たのか。
この場所に来るまで漠然としていた思いが、ようやく少しずつわかり始めてきた。
偶然にも辿り着いたこの場所は、俺が家を出た理由にとても相応しい気がしてきた。
俺は。
そう、俺は。
『死ななければならない』