五.半在
スマホを付けると、画面には大きな広告が映し出されていた。
「メモリアル社からついに発表!世の中の裏側も体験できてしまう〝犯罪〟の記憶体験!これは捕まってしまうの?NO!体験するだけだから無罪なのです!合法!みんな急いでGO!HOME!」
有名な役者、南町千士さんが広告塔を引き受けてくださった。こんなやばい内容のもの、誰も引き受けてくれないと思ったが、サイコホラー系の映画もたくさん出てくださっている南町さんだからこそできる仕事か。MEの普及率やネット上で上がってきていた次の記憶の種類の考察にも犯罪系は上がっていたので、待ち望んでいる方も多かったのかもしれない。一方で、犯罪を体験したことによって犯罪率が上がってしまうのではないかという問い合わせも多数見られた。私もこの商品を見たときの最初の懸念がそこであった。しかし、その懸念は発売から数か月で問題ないことが証明された。なんと、全国の犯罪率まで低下したのだ。一部の評論家たちは、ありえない、記憶を操作されている、などという意見も散見されたが、実際に犯罪を報道するニュースは減り、報道番組はわんことにゃんこのコーナーで溢れた。社長はこう言っていた。
「犯罪は、さまざまな欲求が形を変え、承認欲求という形で爆発したに過ぎない。だから先にその欲求を細かく満たすことで爆発を抑えられる。」
その理論を実現しているのがMEであり、メモリアル社の理念なんだと改めて感じた。最初は三割近くあった反対意見も、次第に二割、一割と減っていった。社長が作っているものは一種の宗教なんじゃないかと思うこともある。それくらいのカリスマ性を持つ人間であることも事実である。私もメモリアル社の一員として、もう少しこのMEのことを知った方がいいだろう。自己欲求ではなく、仕事として、一週間に一回はMEを使うようにすることにした。