二.浸透
社長の大胆なスピーチは大きな拍手とともにMEの完成披露会は幕を閉じた。当初の予想よりもさらに大きく上回り、MEは瞬く間に国内に普及した。社長の意向で国内のみのサービス展開であったが、街中では至る所でMEの広告が打たれ、SNSでも芸能人、インフルエンサー、一般人もMEの話で持ちきりであった。予想以上の売れ行きに、もともとは店舗型でサービス展開する予定の事業であったが、家庭用ハードを生産し、ハード代を格安にしたことと、初回の記憶購入を無料にする作戦が功を奏したようであった。私自身、SNSなどの最新サービスにあまり興味はないので自分では購入していないが試作機を試させてもらったことがある。あれはフレンチのフルコースを味わう記憶であったが、本当にその場にいるような音、空気、実際に料理が目の前にあるような香りや味、触感など、これがただの脳への電気信号によるものだとは到底思えない体験であった。そう、仕組みとしては脳への電気信号であり、詳しいことは私にはわからないが装置による刺激で五感にまで作用しているようだ。使いすぎで頭がおかしくならないか心配である。———そこまで想定し、臨床試験を行った結果問題なことまで結果がでているようであるが———やはり私には使う気になれないなと思う代物であった。ただ、これで『個人の幸福度を最大化する』という社長の理念に近づくのであれば、とてもいいことだと思った。