3 夏
定期テストも終了し、いよいよ夏休みに入る。
洋太の成績はいつも通りで真ん中よりちょっと下。
彼女は成績優秀だった。
「小田さんすごいね。勉強できるんだ」
「うん、ひきこもってるから勉強くらいは」
そう言うと彼女は窓の外に視線を移した。
「ああ、もう紫外線強いもんね」
「うん、それと汗も良くないんだ」
「そっか」
洋太と沙菜はずいぶん親しくなり、教室で普通に話すことが多くなった。
彼女の皮膚の状態も良くなって来ており、コンプレックスが解消されつつある様だった。
最近、彼女と話をしていると何やら教室の空気が怪しくなる。
クラスメイト達がこちらを見ながらヒソヒソと小声で何か話すからだ。
オホン。
洋太は一つ咳ばらいをすると、次の授業の準備を始めた。
「洋太、一緒に帰ろう」
教室から出るとみのりが声を掛けて来た。
「お、帰ろっか」
二人は正門を出て長い下り坂を歩き始めた。
「夏休みはどうするの」
「基本は家の手伝いしながら過ごすかなぁ。あと、釣り。まあ、毎年そうだけど」
「そっか」
「どこかに遊びにはいかないの」
「目の前に海あるしな。数分で行ける」
「夢がないなあ」
「観光地に住んでるとな。そっちだって同じだろ」
「ねえ、小田さんと仲いいんでしょ。噂になってるよ」
「ああ、なんかそうみたいだな。視線が痛い」
「その言い方から察するに、付き合ってはいないんだ」
「付き合ってないよ」
「どうやって仲良くなったの?」
「ああ、彼女のお母さんがうちの旅館で働いてるし、話すことが結構あって」
「え?」
「あれ、言ってなかったっけ」
「聞いてないよ」
「そっか。ごめん。でもそういう事」
「そう。それで……」
みのりはモヤモヤし始めた。
「小田さんのお母さん知ってるんだ」
「そりゃね、働いてもらってるし」
「あ、ごめん。変な事言っちゃった。ごめん先に帰るね」
「お、おお」
洋太はポカンとみのりを見送った。
「中田君」
後ろから声をかけられた。
「小松さんと仲がいいんだね」
またか。何で今日はこんな話ばっかりなんだ。
洋太は困惑した。
「幼馴染なんだ。小学校から一緒」
「そう」
「肌の調子はどう?」
「まだまだだけどずいぶん楽になった」
「よかった」
「わが故郷の温泉がお役に立って、大変うれしゅうございます」
わざとかしこまってみた。
「なあに、それ。へんなの」
彼女はクスリと笑った。
「はははっ」
(外したかな)
「小田さんてさ、都会から来たんだよね」
「うん」
「どう、ここの生活。田舎でつまんないでしょ」
「うーん。今はネットがあるしあんまりつまんなくは感じないかな。もともと肌のせいで学校以外なるべく外出しないようにしてたから」
「そっか」
「それより、肌に効く温泉があるのがすっごく嬉しい。夕日もうっとりするくらい綺麗」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
洋太は思わず彼女を見てドキリとした。
見ないようにしていたから気が付かなかったが、彼女はきれいな人だ。
「ただ、やっぱり夏は気分が落ち込むの。どうしても肌に良くない季節だから」
そうか、彼女はもう何年もこうして肌の状態に苦しんでいるんだ。
「お、俺に何かできることは無いかもだけど、は、話くらいは聞けるから。なんでも言って」
あれ、俺何言ってる?
「うん、ありがとう。そう言ってもらえるの嬉しい。ありがとう洋太君」
「うん、え?」
「じゃ。また明日ね」
沙菜は呆けた洋太にそう言うと手を振って歩き出した。
◆
心臓がドキドキして息が切れる。
(変な事言っちゃった)
私、どうしたんだろう。
みのりは自分で自分に驚いていた。
転校生の女の子と洋太が仲良くしているのを想像すると、胸が苦しくなる。
その子のお母さんが洋太の家の旅館で働いていることを聞いてモヤモヤする。
私、おかしい。