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25 思い切る時2

 洋太は沙菜のアパートを訪ねている。

 二週間ほど前に沙菜にプロポーズして、受けてもらったばかりだが、今は両親を前にして座っている。もちろん沙菜との結婚の了解をもらうためだ。背広を着ていることもあってなかなかに居心地が悪い。

 沙菜の両親の表情は対照的で、父親の方は明るい表情で、母親の方はやや渋い顔をしている。隣の沙菜は緊張した面持ちで座っている。

 しばらくの沈黙の後で洋太は話し始めた。

「今日は、僕らの為にありがとうございます」

「うん。沙菜から話は聞いているよ」

 沙菜の父が話し始めた。

「お店で随分お祝いされたそうだね」

「はい。予想外の事で、驚きました」

 隣の沙菜を見ると微笑んでいる。

 人生で見ず知らずの人たちにあんなに祝福されたことは本当に嬉しかった。あるかどうかわからないが自分もその立場になったら是非お祝いしてあげたい。

「あの、これ」

 洋太は持参したケーキを差出した。地元の人気のケーキショップで買って来たものだ。

「ありがとう。頂きます」

 そう言うと沙菜の母は箱を持ってキッチンへ向かい、沙菜はその後を追った。

 しばらくすると二人は皿に乗ったケーキを持って戻って来た。

「はいどうぞ」

「ありがとうございます」

「ここのケーキ屋さん美味しいって評判よね」

 沙菜が隣に座ると言った。

「うん。そうらしい」

 話しながら洋太の背中を汗が流れ落ちる。

 どう見ても沙菜の両親は洋太からの言葉を待っている。


「あの、僕は沙菜さんと出会えて本当に良かったです」

 洋太は意を決して話し始めた。

「一緒に居られて本当に幸せです」

「それは私もよ、あなたと出会えて幸せです」

 沙菜の両親は二人を優しく見守っている。

「まだ、僕らが若いと言うのは分かっています。だけど、きっと沙菜さんを幸せにします。どうか結婚させてください」

 洋太が頭を下げると隣の沙菜も一緒に頭を下げた。

 沙菜の両親は、その姿を見て顔を見合わせてうなずくと、沙菜の父が話し始めた。

「もちろん。私たちに異論はないよ」

「ええ、そうよ」

「ありがとうございます」

 洋太はそう言うと沙菜と見つめ合った。

「まあ、あとは時期と住むところかな。母さんは沙菜が一人暮らしすることになるのを心配しているから。よくよく検討して欲しいんだ」

「はい、それについてはこれからしっかりと考えます」

「何か当てはあるのかな」

「いえ、今のところは。父にも相談してみます」

「うん。お父様にもよろしく言ってください。そのうちこちらからもご挨拶に伺いますから」

「はい」


 アパートを辞して洋太は一人家路についた。ネクタイを少し緩めると少し緊張がゆるんでほっとした気分になる。なるほどドラマで見たシーンはこういう事かと納得した。

 旅館に戻ると、まず父親に報告し、その後見守ってくれていたスタッフにもお礼と感謝を伝えた。


            ◆


 翌朝、洋太と沙菜は洋太の父親に声を掛けられた。

「ちょうどよかった。二人とも少し良いかな」

「何、父さん」

「うん。二人が無事将来の約束が出来たところで、一つ提案があるんだ。自宅をリフォームしようと思う」

「え?」

「実は前から考えてはいたんだけど、いよいよ実行する時が来たなと思って」

「う、ん」

「それで、まあ、二世帯住宅にして、沙菜さんがここで暮らしやすい様にしようと思う」

「だけど、いいの? 母さんの」

「ああ、それは大丈夫。母さんだってお前たちの幸せの方が大切だと思うよ」

「ただ、準備も含めて時間が要るんだけどね」

「お義父さん……。本当にそんなにしていただいて良いんですか?」

「大丈夫。大丈夫。家自体は先代が立てたものだから結構古いくてね、どの道あちこち入れをしないといけないんだ。沙菜さん、これでご両親に納得してもらえるか確認して欲しい」

「わかりました。本当にありがとうございます。今日早速話します」


 午後には話が伝わったらしく、沙菜の母親が仕事の合間に洋太の父の所へ来て、お礼を言っていた。

 その様子を沙菜と一緒に見て、どうやら話を進めても良さそうだと洋太は安堵した。

「ねえ、もう一つ確認が必要なんだけど」

「なあに?」

 沙菜は母親と洋太の父が話している様子をニコニコと笑って見たまま返事をした。

「君、若女将と呼ばれることになると思うんだけど……」

「うわっ。本当に?」

「そりゃそうだよ」

「よく分かってないけど、頑張ります」

 そう言うと沙菜は両手をグッと握り締めた。

「それで、あなたは何になるの?」

「まだ、会社の役員というわけでもないから、若旦那?かな」

「えーっ。『わかだんな』って今でも言うの?」

「どうかな。わかんないや。普通に名前で呼んでもらっていいんだけどね。どのみち結婚してからの話だし」

 沙菜は顔が真っ赤になった。

「結婚……とか、サラッと言わないで」

「えー。今更?」

「今まではどこか他人事に思ってたけど、急に実感が湧いてきて……恥ずかしいの」

 洋太は沙菜を抱きしめたくなったが、残念ながらここは事務所だ。

「俺は、楽しみだな。これから、間取りとか考えたり、家具とか選びに行くのとか。あ、そういえば、ねえ、良かったら母さんの着てた着物要らない?」

「え? 良いの?」

「沙菜が嫌じゃなきゃ良いと思うよ。身長は沙菜の方が少し大きいけど大丈夫でしょ。着物を着る練習もしなきゃだろうし。父さんも反対しないと思う」

「うん。ありがとう……。ふう。緊張してきた。私、大丈夫かな」

「もう遅い。でも、一緒にがんばろ」

「うん。そうだね。よろしくね。洋太」

「こちらこそ、よろしく」

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