17 クリスマスデート
洋太と沙菜は長崎に来ている。
クリスマスデートを兼ねて何軒かカフェやレストランをはしごして、内装や食器などを勉強するつもりでいる。
まずはバスを降りて駅にある世界チェーンのカフェに入る事にした。
いきなり注文の仕方が分からず困ったが、店員さんは親切に教えてくれた。
入口に並べてあるスイーツはおいしそうでついつい頼みたくなる。ほかの店舗を回ることを考えると、そうそう買えないのだが。
内装はシンプルで、アースカラーと言うらしい、落ち着く感じがする。
沙菜はラテを美味しいを連発しながら飲んでいた。楽しそうだ。
洋太が飲んでいるコーヒーは種類がいくつもあって、良く分からないのでおすすめを頼んだ。自分の知らない世界と言うやつを目の当たりにさせられ、洋太はため息が出た。
「どうしたの」
「うん。何と言うか。圧倒されてる」
「素敵なお店よね」
沙菜は相変わらず機嫌が良い。
二人は店を出ると路面電車の停留所へ向かった。
前回来た時と同じ系統の電車に乗り、中心街へ向かった。
今回は前回には行かなかった中華街へ行って見ることにした。
路面電車を降りてアーケードとは反対側に道路を渡り、少し歩くと立派な朱色の門が見えて来た。
門をくぐると、なるほど異国情緒があり面白い。
土産物店も中国らしい雰囲気で、普段は見ることの無い中国雑貨などを見て回った。
中華料理店は意外とあって、どの店の前を通っても中華料理の良い匂いが漂っている。と言うか、中華街全体にいい匂いが漂っている。
お腹が空いて来た。
中華街を出てアーケードに入ると、お目当ての喫茶店へ向かった。
九州で一番古いと言われているこのお店は大正時代の創業だという事だ。
店の前に行列が出来ていて、20分ほど待って店に入れた。
このお店は長崎発祥の料理も提供していて、それを食べるのが今回の目的の一つだった。カレーとカツとナポリタンスパゲティそれにサラダがワンプレートに乘っている。沙菜は女性用のセットを頼んだ。
高校生が食べるにはちょっと値段が高いのだが、出て来た料理はボリューム満点で、値段の分はさらに乗っている様に思えた。
内装は個性的で年季が入っていて、いかにも『昔からやっています』感がある。壁にはサイン入りの色紙がたくさん貼ってある。
最初に入ったカフェの内装は計算して作られている様に感じたが、ここは結果的にこうなりましたという感じがする。
料理は美味しい。目の前で沙菜もぱくついている。
デザートはこのお店が発祥の名物を頼んである。他の客が食べているのを見て、その量にびっくりして1つだけ頼んだ。
「んー美味しー」
出て来たデザートをスプーンで口に運んで味わうと、沙菜はふにゃりと笑った。
「ほんとだ。美味い」
「優しい味ねー」
味はカスタードの様だが、ミキサーでクラッシュアイスが混ざっているのでシャリシャリしてさっぱりしている。
洋太も沙菜も、とても気に入った。
「美味しかったねー」
「うん。美味しかった」
二人は店を出てアーケードを歩いているが、前回も来ているのでもう初回ほどの珍しさは感じない。
こうして沙菜と手をつないで歩いていると、それだけでも楽しいのではあるが。
海岸に公園があるの事を洋太はチェックしていたので、沙菜を誘ってみるとすぐに「行く!」と返事が返って来た。沙菜らしいなと思いつつ路面電車の停留所へ行き、乗り込んだ。
その公園は有名な観光地のすぐ近くに整備されていて、きれいでしかもかなり広い。
岸壁はきれいに整備され、公園の端の方にはヨットハーバーになっていて、それに面した所にレストランやカフェが並んでいて、海外にいる様で、かなりおしゃれだ。
すぐ目の前の対岸には造船所があり、ドックに船が入っている。
洋太の地元とは違い、港なので海の景色が全く違っている。
「ここ、すごーい」
歩きながら、沙菜が洋太の腕にしがみついて来る。
「すごいね。こんな所があったんだ」
洋太も感心した。
ヨットハーバーの前の店はオープンテラスなっていて、洋太はそこで給仕している店員の服装に目が留まった。
白シャツに、黒のベストとズボン、ひざ下くらいまでの黒の前掛けをしていた。
「かっこいいね」
沙菜は洋太の視線に気が付くとそう言った。
「うん」
「洋太も似合うと思うよ」
「だと良いんだけど。憧れるな」
バスの時間までまだ余裕があったが、寒いので駅前に戻ることにした。
駅前のモールに入り、ウインドウショッピングをして回った。
どこもかしこもキラキラしていて、スイーツの甘い匂いが漂っていた。
バスに乗り込むと、沙菜は隣で眠ってしまった。
どうも、乗り物に乗ると眠くなる体質らしい。
バスは途中、橘湾に隣接した高台の展望所に停まる。
そこからみる橘湾は太陽に照らされてキラキラと眩しく光っていた。長崎とは違う見知った景色。
手をつないだまま隣で眠っている沙菜を見る。
こんなに綺麗な景色の中で愛おしい人と一緒に居られることは幸せこの上ない。
バスが最寄りのバス停へ到着して、沙菜をアパートまで送った。
ドアの前に着いて、鍵を開けて玄関に入ると沙菜が振り向いて話しかけて来た。
「ねえ洋太」
「ん?」
「今日はありがとう。楽しかった」
「こちらこそ、ありがとうだよ」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
沙菜は洋太の胸に顔をうずめると、目を閉じて顔を上げる。洋太は唇を重ねて抱きしめる。
しばらくして、沙菜は体を離し、にっこりと笑うと
「またね」
と言った。
家に着くまで心臓がドキドキしていたが、作務衣に着替えて表に出ると、落ち着いて来た。
(さあ、やりますか)
洋太は気分を切り替えて旅館の奥へ入って行った。




