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13 合宿免許と長崎デート

 洋太の父の腰の調子が以前から良くないのだが、最近悪化して車の運転をするのすらきついことがある。どのみち高校は今年度で卒業するので父が学校側に掛け合って許可をもらい、洋太は夏休みに普通免許を取りに行くことになった。


「どこの自動車学校に行くの」

 学校帰りに沙菜が聞いて来た。

「長崎で合宿免許で行こうかと」

「合宿免許?」

「うん。自動車学校に二週間合宿して詰め込みで免許をとれる」

「そうなんだ。じゃあ、合宿の間は合えないんだね。長崎。私も行ってみたいなー」

「えーっと確か」

 洋太はパンフレットを開いてスケジュールを確認した。

「一日だけ休みの日があるよ」

「ほんと。じゃあ、その日にデートしようよ。お母さんに話してみる」

「わかった」

 沙菜は日帰りを条件に長崎へ行っても良いと両親から許しを得た。



 自動車学校は山の上にあり、周りは住宅地でほかに何もない。免許取得に集中するには良い環境だった。

 合宿に来る前に、旅館の駐車場で父に運転を少し習っておいた。オートマチックの車は思ったより操作は簡単だと思ったが、車に慣れるまでには至らなかった。

 とは言え技能教習はそれほど手こずる事無く進んだが、縦列駐車だけは何度やっても緊張した。

 父にコツを電話で聞いてみたが、慣れだという答えだった。父はマニュアル免許で、その場合にはもう一つ坂道発進と言うハードルがあったそうだ。

 学科は呪文を唱えられているようで、眠くなるのを堪えるのが大変だったが、学科試験自体はクリアできた。

 一週間で仮免許が取れ、そして迎えた最終日、卒業認定をクリアして無事卒業となった。


 仮免許の取得を控えた休日。駅前で沙菜が乗って来るバスを待った。

 新幹線が開通して再開発された長崎の駅前はホテルが立ち並び、周囲の景観も含めて設計されている整った街だった。洋太は是非駅周辺を散策してみたいと思ったが、今日はさすがに時間がない。

 やがて、沙菜の乗ったバスがロータリーに入り、バス停に停まるとドアが開いた。

 降車口の前で待っているとやがて沙菜の姿が現れた。トントンと弾む感じで沙菜がバスのステップを降りて来る。沙菜はすごくおしゃれをしていた。地元の温泉街で沙菜がこんなにおしゃれをしたのは見たことが無い。とても可愛くて洋太は見とれてしまった。

「おまたせ」

 沙菜はニコニコ笑っている。

「すごくかわいい。びっくりした」

「うふふふふ。いつもは人目があるから目立たない様にしてるから。今日は頑張ったよ」

「うん。似合ってる」


 今回は沙菜と二人でファミレスに入ることを決めている。アニメで見たファミレスで食事するシーンは洋太の憧れだった。

 沙菜も地元に居た時には外食はほとんどしなかったので、ファミレスに行った記憶はないそうだ。


 二人は路面電車で中心街へと移動する事にしたが、初めての路面電車は乗り方がさっぱり分からず、二人で路線図の前で固まっていると、親切な地元の人が声を掛けてくれた。

 路線の系統は複数あり、駅前から中心街へ行くのが便利な路線を教えてくれた。

 料金は定額の後払い方式だった。


 アーケードの入り口の停留所で電車を降りて道路を渡ってアーケードの中を歩き始めた。

 すると、沙菜がスッと腕を絡めて来た。

「いつもは絶対無理だもんねー」

「誰に見られてるのか分かんないからなー」

 アーケードの中は二人にとって、もう異世界と言ってよかった。話には聞いていても実際に見るのが初めてのチェーン店が揃っている。洋太には世界的チェーンのハンバーガーショップですらおしゃれに見えた。

 長崎のアーケードは2本あって直角に交わっている。二つ足すと結構な距離になりそうだ。

 アーケードが交差した所で、スマホを取り出してファミレスを検索してみたが、どうやら普通のファミレスは長崎のアーケードの中には無かった。

 だけれども少し外れたところにイタリアンのレストランがあり、沙菜に画面を見せてみたら行ってみたいと言ったのでそこに決めた。


 目指す店に向かう間、二人は腕を絡めて普段よりくっついて歩いた。

 いかにも江戸時代からの老舗という古い木造の茶碗蒸し店のある角を曲がり。道が細くなって路地の様になった所にその店はあった。

 店内はレトロな内装で沙菜が喜んでいた。

 ランチタイムのパスタは価格もリーズナブルでとても美味しかった。

 洋太はレトルトのパスタしか食べたことがなく、お店で出されたパスタの味は別次元だった。

 一緒に頼んだ長崎名物のミルクセーキも一つ頼んで二人で食べた。

 沙菜は終始ご機嫌で「美味しい」を連発していた。


 それから色んな店を回り、あれこれ見て回っているうちにあっという間に最終バスの時間が近づいてきた。

 最終のバスが早いので、長居は出来なかったけれど予算も乏しい二人には長崎デートを満喫した。

 沙菜がお母さんへのお土産を買うのに付き合ってから、最初に降りた路面電車の停留所に戻り、また路面電車に乗って駅前に戻った。帰りはスムースに乗れた。

「今度は駅前も散策したいね」

「うん。また来よう。楽しかった」


 沙菜がバスに乗り、手を振っている。洋太も手を振り返す。

 残念ながら洋太は明日からまた自動車学校があるのだが、良い気分転換になった。


            ◆


 夏休み明けの朝、教室はざわついていた。

 洋太が教室に入ると、クラスメイト達の視線が一斉にこちらに向けられる。

 なんだなんだ、どうしたんだと思っていたら、沙菜も教室に入ってきたら同じようにみんなの視線が向いた。クラスメイト達は洋太と沙菜を交互に見ては、意味あり気に何か話している。

(付き合っているのはもう周知の事実なんだから、今更何なんだ?)

 洋太が首をかしげていると、唯と話していた沙菜がえーっと驚いた表情になって頭を抱えていた。

 やがて教師が教室に入ってホームルームが始まり、教室は静かになった。


 昼休みになり、洋太は何が何だか分からなくてモヤモヤしていたので、何事かと沙菜の席に行って聞いてみた。やはり皆の視線が刺さる。

「何事?」

 沙菜は周りを気にしながらバツが悪そうに顔を上げると、

「あのね、長崎でデートしてたの、誰かに見られてた」

 と言った。

「え?」

 周囲を見渡すと、まだ二人へ向けて意味あり気な視線が向けられている。

「あー。そういう事」

(二人ではしゃいでたの見られてたんだ)

 洋太は右手を顔に当てて天を仰ぎ、沙菜は机に肘をついて頭を抱えてた。

 周りのクラスメイトはニヤニヤしつつ楽しそうに二人を見ているのだった。


 数日後、沙菜は洋太の見知らぬ女子に囲まれてなにやら質問攻めに合っている様だった。

「彼氏が居る人は私たちと同じように苦労してるみたい」

「気兼ねなくデート出来る所が無いっていう事?」

「そう。それでね。私たちの長崎デートのこと聞きたいって」

「それで囲まれてたんだ」

「確かに、バス代は少しかかるけど、贅沢な事をしなければ、日帰りできるし、楽しめるかも」

「いい話聞けたってみんな喜んでた」

「夏休み明けですぐ恥ずかしい思いをしたけど、そういう風になるとは」


 沙菜ははすごく変わった。元気になって友達も増えて、とても活発になり、魅力的になって行く。そして、そんな彼女の事を洋太はますます好きになって行く。

 願わくば彼女とずっと一緒に居られますように。洋太はそう願った。

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