05 旅立とう。
劣化版のマジックカバンを紐で腰に巻きつける。
その中に、できるだけ詰め込む。
やはりすごい。
劣化版とは思えないほどに入る。
最近のものはどれだけ入るのだろうか。
ポーションを多数。
傷を癒す、病気を治す、痛みを収める、呪いが解けるポーション。
これらはすべて新しいものだと言う。
効果も抜群だった。
森の中を移動し、あちこちに隠していた旅の準備品を回収する。
占い師と一緒に集めて、隠したものを何ひとつおいていきたくはない。
食料は果物や干し肉。
村のあちこちから拝借……何か問題でもありますか?
竹筒に湧き水をくみこみカバンに入れる。
竹筒もそこそこ大きく、3日ほどは持ちそうだ。
もらった本も持った。
あとは、小さなナイフを回収したら森を出る。
きっと運が良かった。
こんなときだけ、神は味方になってくれるのか。
ネイビーは情報を得るため、週に1回ほどの頻度で村に潜んでいた。
情報は生きるために必要なものの一つ。
昨日も森から下りた。
人があまりこない集会所に身を隠す。
いつもは感じないが、今日は人の気配を感じる。
耳を澄ますと、男性二人の声が聞こえる。
「見つけました。森のどこかに潜んでいるようです」
「そうか。ファビオよ。あれはこの村を不幸にするに違いない。心得ているな?」
ファビオは父親の名前だ。
もう一人は……声を聞く限り村長だ。
「もちろんです。無色はこの世に必要ない。あいつも神さまのもとにいけるから満足でしょう」
その一言で、ネイビーの中で何かが切れた。
(……満足?ふざけるな!!お前は子供を何だと思ってる!?最初は喜び、必要がなくなったらゴミ扱い……わたし達はお前らの都合の良いおもちゃじゃないんだよ!!)
ムカついた。
心の中で今までの怒りをぶちまける。
森にいって少しだけぶちまこうと今思った。
深呼吸して怒りを収える。
見つからないようにそっとその場を離れ、森の中にあるものを回収していく。
いつでも旅立てる準備はできていた。
ただ、最後のきっかけが掴めなかっただけ。
………この村から出ていく怖さがあった。
だけどもう大丈夫。
ここにいたら死んでしまう。
だったら村をでていってやる。
森の奥、一番の大木があった。
その大木の根っこには、寝泊まりできそうなほど大きな空洞がある。
その空洞に手を差し込み、隠していたものを引きずり出す。
占い師が選んでくれた大切なナイフ。
体格の小さいネイビーでも使えるようにと、探し出してくれたもの。
9歳のネイビーには、まだ少し大きいが使える。
真ん中に青い宝石がはまったナイフ。
それを持って、村から反対方向に走る。
村の光がほのかに見える。
この森には、だいぶお世話になった。
占い師に、ありがとうを言いたかった。
色々な思い出と同時に、涙が溢れてくる。
ナイフを握り、また走る。
一度振り返ると、隠れ住んでいた場所の一つに明かりが見える。
森の中に数か所、寝床を確保していた。
見つかったのは村から一番近いところだった。
次はもう少し慎重に決めなくては。
足をまた走らせる。
この村には、もう戻る気はない。