03 優しいあなたが。
朝、誰も起こしにこなくなった。
(……それもそうか。だってわたし、無色だもんね)
こんな自分に嫌気が差す。
あの日から数日が立った。
兄妹にも話が通じたようだ。
「母さん泣いてたんだ。これ以上二人を悲しませるなよ」
「お姉ちゃん、あたしはもっとここにいてほしかったよ。でも、しょうがないんだ。お父さんたちが決めたことだから」
少し嫌味を言われながらもネイビーは、二人はちょっとはわたしのこと信じてくれたんだな、と少し安心した。
これは本当にわたしのせいなのだろうか。
もう分からない。
考えたくもない。
森で一人、自分への嫌味を言った。
たんなるうっぷんばらしだ。
「よし!」
自分にけじめがついた。
まずは自分にできることを探そう。
まず思いついたのは体力づくり。
逃げるにしても体力が必要だ。
あと食べられるものを探すための知識。
どちらも誰にも聞けない。
だからまずはできることを。
森の中をとにかく走る。
体力をつけるには走れ、といってもこれはネイビーの勘だ。
今日も朝から食べ物を探すが、なかなか見つからない。
森の中を走り回る毎日にも、だんだん慣れてきた。
少しだけ体力もついてきた気がする。
………あくまで気がするということ。
ふわっと視界が上に向く。
視界が真っ黒に染まった。
「ん……うーん……?痛っ」
ひざを見ると血がにじんでいた。
転んでしまったようだ。
ふと隣を見てネイビーは固まった。
隣に初老の女性がいたのだ。
目が合うと、女性がふっと笑みを見せた。
女性は村の占い師だった。
いつもにこやかに微笑んで、村民からも親しまれている。
「おはよう」
「はい、おはようございます」
占い師が話しかけたとき、ネイビーの心はかすかにとけた感覚がした。
しみると言うか、あたたかいというか。
ここ数日で、無色のネイビーの存在は知れ渡った。
そのせいで、ネイビーは村の中でもひとりぼっちだった。
「……どうしてわたしを……」
占い師は静かに、それでいて優しく話し始めた。
「私はテイマーじゃないので、どうすることもできません。しかし、困っている人を放るわけにはいかないでしょう?」
「そう……ですか…」
なぜだろう。
家族にも見放されたのに、今の占い師の言葉がすごく嬉しい。
気づくと、自然と笑みがこぼれていた。
「はい」
占い師は一つの鞄を渡した。
一瞬戸惑ったが、中をみてみる。
大きさよりも、たくさんものが入っていた。
「マジックカバンです。劣化版なので、そんなに入っていないかもだけど、中に色々と入れておきました。きっと、これから必要になるものを」
中の物をみてみる。
本当にたくさん入っていた。
本が数冊、魔物やテイマーについて、食べ物についても書かれていた。
ポーション、初級から上級まで数本入っていた。
小さめのナイフ。
占い師の顔をみる。
「……ありがとう、ございます」
この人は優しい人だな。
わたしと関わったところで、なにもないのに。