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父親の会

 今日はアレクシスとシャルリアの婚約を祝って、四人の父親が集まっていた。いつものメンバー、ジルベルト、クラウス、フェルナン、ランスロットである。女性陣の方は、楽しくママ会をしているらしい。きっと平和に盛り上がっていることだろう。こちらの父親会は、残念ながら平和ではなかった。開始早々、フェルナンが出来上がってしまったのである。


「おれはっ……!おれはぁ、嬉しいんだよっ!ジル……!お前んとこの、アレクシスがぁ……シャルを貰ってくれるって、いうからさぁ!お前も父親だから、分かるだろぉ!」

 

 フェルナンはもともと下戸である。今はもう、呂律が大分怪しい。彼は酔いやすい上に絡み酒なので、大変厄介だ。

 フェルナンの絡みに対し、ジルベルトは真顔で答えた。

 

「俺はリリーの婚約が決まった時、全然嬉しくなかった」

「お前ェ!!空気読めよぉ〜〜!!」


 フェルナンが毛を逆立てた猫のように怒っているが、ジルベルトは全く構わない様子だ。しかしこれを聞いたクラウスが、心配そうに尋ねた。

 

「ジル、まさか……まだ、エインスとリリーアンの結婚に、反対してるの?」

「まさか。もう婚約して、随分長いし。エインスのことは、昔からもう息子だと思っているから」

「なら、良かった。僕の息子の命が、まだ危ういのかと……」


 七歳のエインスがリリーアンに婚約を申し込むと言い出した時は、息子が鬼神にやられるかもしれないという恐怖で竦み上がった、国王クラウスである。

 片隅で焼酎をぐびぐび飲みながら顔色を全く変えずに、ランスロットが話を戻した。

 

「でも良かったな、フェルナン。シャルリアのこと、ずっと心配してたろ」


 フェルナンは据わった目で大きく頷き、俯いて言葉をこぼした。

 

「僕はさ……シャルが、ほんっとうに……ほんっとーーーに、碌でもない男とばっっかり遊ぶようになってから……シャルの気持ちが、全っ然、わかんなくなって。ずっと……辛かったんだよぉ……」

「まあ、そうだろうな……」

「でも……アレクシスを、連れて来て……真っ赤になりながら、どぎまぎしてるシャルを見たら……ぜーんぶ、分かった。ああ、僕の娘は……随分とひどい拗らせ方を、してたんだなぁって……」


 これにはクラウスも、眉を下げて言った。

 

「フェルナンの血筋を感じるねぇ……」

「厄介な血筋だな……」


 ランスロットの補足も無視して、フェルナンは話し続けた。

 

「アレクシスのことはさぁ、信頼してるよ。小さい頃から、いーっぱい、頑張ってる姿を、ずぅっと見てるし……なんたって!ジル、お前の息子だ……。あの目を見てたら、ぜーったい、浮気とかしないって、分かるし……」

「そこは、信頼して欲しい。アレクは昔からずっと、シャルリア一筋だったから。あの子は、シャルリアのためだけに……これまで全ての婚約話を一瞥もせず、蹴っていたんだ」

「これまた、ジルの血筋を感じるねぇ……」

「ある意味、厄介な血筋だな……」


 感動したフェルナンは、涙をぼろぼろと零しながら大きく何度も頷き、立ち上がってハイボールのお代わりを頼んだ。

 

「頼むぞ!ジル……!今日はぁ、飲むぞぉ!!」

「待て待て、待て!それ以上飲むな!!」



 ♦︎♢♦︎



 結局フェルナンは、間も無く潰れてしまった。シャルリアが収まるべきところに収まったのが、よほど嬉しかったのだろう。フェルナンは長年、シャルリアのことでいつもキレていたので、これで安心だ。

 残った三人でまったり飲み直しながら、クラウスが言った。

 

「しかし、まさか最初にアレクシスが結婚するとは、夢にも思わなかったね?」

「ああ。そこは驚いた。俺の息子は、相当シャルリアに逃げられたくなかったらしい。アレクがあんなに焦っているのを見たのは、俺も初めてだった」

「ま、大丈夫だろ。もう吹っ切れたんだろうしさ。まあ、ずーっと仲良しだったローランとネリーは、なんか最近拗れてるけどな〜……」

 

 ローランはランスロットの長男、ネリーはフェルナンの次女である。人見知りで内気なネリーは、小さな頃からずっとローランのあとばかり付いてまわっていた。小さな頃から相思相愛だったので、随分と早くに婚約させたのだが、最近ちょっと二人がすれ違っているようなのだ。

 これにはジルベルトが唸った。

 

「フェルナンの血筋は、必ず一回は拗れないといけない呪いでもかかってるのか…?」

「まあそこには、ランスロットの血も働いてると思うよ」

 

 にこにこと笑うクラウスに、ランスロットは自分の胸を押さえた。

 

「うっ。確かに俺、息子のことどうこうとか、全く言えない……!」

 

 拗れに拗れた自分の結婚の時、散々クラウスにお世話になったランスロットである。

 ジルベルトはウィスキーを口にしてから、少し呆れた声を出した。

 

「それはそうとクラウス、お前のとこの双子は大丈夫なのか?」

「あ〜。もうね、全然ダメだよ。お見合いの釣り書き見てる暇あったら、研究したり畑いじったりしてるし」

「もう十七の、王族だろ……」

「ニコラはともかく、ミレーヌそっくりなディアナが嫁入りするとなったら……クラウス、荒れそうだな」

「それもある。正直、父としては全然結婚してほしくない」

「しっかりしろ」


 ジルベルトはお酒が入っていても、至極真剣にツッコミを入れている。

 

「この国の命運は、まさにエインスの肩にかかってるよ!ははははは!」

「うえ……エインスが、気の毒になるわ〜……」

 

 この時、全然関係ない場所にいたエインスは――――急な胃の痛みを感じ、胃薬を飲んでいたとかいう話である。

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