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ランスロットの結婚 3

一年後。

ランスロットとセレスティナの結婚式は、盛大に行われた。

国民人気の高い第二王女の結婚式であるので、その規模は相応に大きいものとなった。セレスティナは王家では軽視されていたけれども、彼女はその愛らしさと純粋さで人を惹きつけてやまず、臣下や国民からの人気はとても高かったのだ。


エンパイアラインの、銀糸の縫い込まれたウェディングドレスに身を包んだセレスティナは、可憐な精霊のような愛らしさだった。

ランスロットは彼女が愛おしくてたまらずに軽々と抱き上げて、砂糖を溶かして煮詰めたような甘い声で言った。


「ティナ、今日からは、ランスって呼んで。敬語もなるべく、なくすこと。……幸せにするからな?」

「わかったわ、ラ……ランス」

「赤くなってかわいーな……ティナ、愛してる」

「私も、大好き!!」


二人が熱烈なキスをすると、押し寄せた観衆もドッと湧いた。



♦︎♢♦︎



大仰な披露宴が終わった後、こじんまりとしたお祝いの場がノワイエ家で設けられた。

正式な式と宴では、参列者と言葉を交わすこともままならない。セレスティナの負担を考え、少しはホッとできた方が良かろうと、ランスロットがそう決めたのだった。侯爵家でのお祝いの夜会は後日、改めて開かれる。

侯爵家の人々に加えて、お忍びでやってきたクラウスとミレーヌ。ジルベルトとリーナベル。そしてフェルナンとクロエの夫婦がやって来ていた。それぞれに、幼い子供も連れてきている。日中はおチビさんたちは預けられていたので、一様に揃った様子は可愛らしいことこの上ない。

それから、クーデター阻止の時に随分と世話になった、ルシフェル。彼は当時と全く変わらない姿で、今日も若々しい。

ルシフェルの横には、セレスティナの親友であるアリア・フルニエ子爵令嬢が座っていた。彼女だけが「本当の友人」だと、セレスティナはよく話している。彼女はリーナベルの一番弟子として、魔術陣研究に勤しんでいる才女だ。前世の記憶持ちで、『推し』のルシフェルに憧れて想いを寄せているのは側から見ていて明らかなのだが、なかなか素直になれずにいるようだ。


「セレスティナ、良い式だったね。幸せそうで本当に良かった」


クラウスが笑顔で言った。その目はもうずっと前から、人間味を帯びていて優しい。セレスティナの降嫁には、随分手を貸してもらった。

クラウスは20歳で戴冠し、既に若き国王となっている。隣で料理に夢中になっているミレーヌは王妃だ。最小限の護衛でお忍びが許されているのは、騎士団の副団長であるジルベルトがこの場にいるからである。


「王族の式だからと派手にしていただいて。ランスロット様に申し訳なかったです」

「それは気にしなくて良いよ。ランスロットは稼いでるからね」

「いやぁ、あの規模の式だと、セレスティナちゃんが一番大変だったわよね?王族って、本当大変よね…」


ミレーヌがげっそりした顔で言った。日中の式では隙のない美貌の王妃の顔をしていたので、まるで別人だ。


「昼間は可愛い甥っ子ちゃん達に会えなくて寂しかったから、今夜顔を見られて嬉しいです!」

「ぼくもセレスティナちゃんの、ドレスみたかったな。とってもかわいかったでしょう?」

「エインス!今度着て見せてあげるから、大丈夫よ!」


スラスラと喋り出したのは、クラウスとミレーヌの長男であるエインス。もうすぐ4歳になる。ミレーヌ譲りのダークブロンドに、美しい紫の目をしている。『ミニクラウス』と周囲に言われるほど、クラウスと瓜二つの顔立ち。早くも優秀さの片鱗を見せているものの、ミレーヌに似て愛嬌はたっぷりだ。

下には双子がいるが、今は別室で寝ている。二人はまだ1歳なのである。名前はニコラとディアナ。クラウスと同じ色彩を持つ、男女の双子である。


「あんなに仲睦まじい様子を見せつけられると、僕たちも負けていられないよね?ミレーヌ」

「いやもう十分でしょ……」


ミレーヌは、"さくっと男児を産んでお世継ぎ催促から逃れる"との宣言通り、23歳にして2人の男児を設け、さらに可愛い姫まで産んだ。有言実行の女である。

クラウスがそれを異常に積極的に推進したことは、否めないが。「僕忙しいから帰るね。お世継ぎは、何よりも大事だからね」と満面の笑顔でクラウスが早く帰っていく度に、ランスロットの残業は増えた。これからその分を返してやると、ランスロットは密かに決意している。


「セレスティナちゃんのウェディングドレス、本当に可愛かったわ。花の精霊かと思ったもの」

「リーナとの結婚式を思い出したな。またしたいね?」

「もう、ジルったら」


こちらは無自覚で仲の良さを見せつけている妹夫婦だ。ジルベルトの溺愛は変わらない……いや、悪化しているのではないかと思うことすらある。そのジルベルトの膝には、天使のように可愛い女の子が座っていた。


「はなよめさんは……はなのせいれい?」

「ふふ、そうかもね。花嫁さんは、それくらい綺麗なのよ。リリー」


二人の長女のリリーアンは2歳だが、おしゃべりが達者だ。白銀の美しい髪に、ジルベルト譲りの琥珀色の瞳を持っている。顔立ちはリーナベルと瓜二つ。公爵家と侯爵家が、その総力を持って溺愛する天使である。


「リリーも、いつか綺麗な花嫁さんになるんだぞー」

「リリーは、嫁になんかやらない…」

「いやジルベルト、お前が言うとシャレにならんから」


ランスロットは引き攣りながら、ジルベルトを嗜めた。騎士団長になるのも時間の問題と言われている鬼神が言うと、シャレにならない。他国との小競り合いが起きても、家族の元に帰りたいからと最速で片付ける男なのだ。戦争の抑止力になるのは良いが、このままではリリーアンの嫁の貰い手まで殲滅してしまう。

「二人の時間を楽しみたいから」と言ってなかなか子供を作らなかったくせに、いざできるとこれである。


「もうすぐもう一人産まれるのに、この調子で大丈夫なのか?」

「大丈夫、次は男の子なのよ」

「え、もうわかったのか?」


笑顔で頷くリーナベルは身重だ。安定期なので、今日は参列していた。


「黒髪に青い目の男の子なの。ジルが透視魔術で見たのよ」

「闇魔術の可能性は無限大です!師匠が魔術陣を書いたんですよ!」


弟子のアリアが息巻いているが、その恐ろしさも無限大である。透視魔術とやらが公表されたら、またドッと仕事増えそうだなぁ、とランスロットは思った。


「アリアが特に頑張っているのは、光魔術だけれどねぇ?」

「そ、そそそそれは別にっ!ルシフェル先生のためとかじゃ、全然、ないですからっ!!」


微笑みかけるルシフェルに、アリアが真っ赤になった。プシューと音がしそうなほどである。


「アリアって、相当難儀な性格してるよな」

「貴方が言うと重みが違うわね……フェルナン」


ぼそっと呟いたフェルナンに、リーナベルが答えた。確かにフェルナンは昔、生意気で天邪鬼なガキだった。今は落ち着いているが。


「お前もシャルを嫁に出したくなくて、さっきちょっと不機嫌になってたろ」

「うるさい、ランスロット。父親としては仕方ない感情だろ」


いや、前言撤回。落ち着いていないかもしれない。彼は家庭を守ろうと背伸びして、必要以上に落ち着いて見せているのだろう。


「ふふふ、フェルは、シャルのことが可愛くて仕方ないんですよ」

「当たり前でしょ、クロエ」


クロエとはとても仲睦まじくやっているので、何よりだ。子爵としてやっていける体裁を整えてから、二人は20歳で結婚した。長女のシャルリアはもうすぐ2歳。眠ってしまったので、ミレーヌたちの双子と一緒に別室にいる。


「最近は徹夜もしないで、シャルと一緒に寝てしまうんです」

「いや、寝た方が研究の効率が上がるって気付いたんだよね。シャルのお陰で」


フェルナンの研究がもたらす成果は、国に大きな利益を産んでいる。リーナベルの研究は国防に対する影響が大きいが、対してフェルナンの研究は、農業や工業に対する影響が大きかった。国に完全に縛られずに魔術研究所でのびのびやっているのが、二人には合っているようだ。


「皆、仲良しで良いわねぇ〜」

「私達もずっと、仲良しでいようね」


もう良い年なのに、相変わらず毎日お互いの魔力を纏っている両親がいちゃつき始めたので、ランスロットは遠い目になった。


俺、独り身で長いこと、この環境に耐えて良かった。

世界一可愛いお嫁さんもらえて、本当に良かった……。


セレスティナと婚約を結んでからも彼女に手を出さず我慢し、このバカップルが溢れる環境に身を置き続けることで、ランスロットは毎日血涙を流していたと言えよう。


隣にいる世界一可愛いセレスティナを見ると、こちらをじっと見ていたようで目が合い、世界一可愛い笑顔ではにかまれた。あまりの可愛さに、拳を握りしめてしまう。


「俺たちも、仲良くしような?ティナ」

「もちろん!ランス、嬉しい…!」


ランスロットは、極上の微笑みを浮かべたのだった。

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