エピローグ
来週はいよいよ、クラウスとミレーヌの結婚式だ。
国を挙げての慶事とあって、国中がお祭りのような祝賀ムードに包まれている。
クラウスはクーデターを未然に防いだことで国民からの支持も一層厚いものとなり、次の治世は安泰だと言われていた。
そして、一時期捉えられていたミレーヌであるが。ミレーヌに助けられた人々は彼女を見捨てておらず、彼女を解放するための運動を続けていたらしい。上に上がってこないように隠蔽されていたが、平民の支持はいまだに彼女に集中していたようだ。
ミレーヌの悪評を広げていた貴族も、一掃された。彼女は「黒薔薇の聖女」として、国を挙げて歓迎される王太子妃となったのである。
リーナベルの才も国中に轟き、「黒薔薇と白薔薇」という恥ずかしいネーミングは国中に……主に民達に広まることとなってしまった。恥ずかしいが、仕方がない。先ほど露店を除いたら、黒薔薇白薔薇クッキーなどの便乗商品がたくさん売られており、仰天してしまった。入れるものなら穴に入りたい。
さて、来週はクラウスとミレーヌの結婚式であるが、その次はジルベルトとリーナベルの結婚式がある。二人の結婚式は、もう二ヶ月後に迫っていた。
リーナベルは、今日はウェディングドレスの最終調整に来ていた。
試着して現れたリーナベルを見て、ジルベルトが目元を赤く染め、感嘆の声を上げる。
オフショルダーの上半身は精緻なレースで覆われており、煌めくスパンコールと真珠が縫い付けられている。リーナベルのほっそりした首や美しいデコルテが強調されていた。
Aラインのスカートは裾にいくにつれて、繊細な刺繍の密度が高くなっていく。後ろは長い長いトレーンとなっており、美しい刺繍に、やはりスパンコールと真珠が縫い付けられていた。彼女が歩いた後に、キラキラと光が流れていくようである。
公爵家で受け継がれてきたティアラとネックレス、ピアスは豪奢なダイヤモンドがふんだんに使われていた。上品なデザインは、白銀の髪を持つリーナベルの清楚さにぴったりだった。
「リーナ。すごく綺麗だ……!!」
「本当?嬉しいな……」
「妖精にも、女神にも見える……。奇跡みたいに可愛い」
「ほ、褒めすぎよ?」
「………………こんな綺麗なリーナ、誰にも見せたくない。大々的な式は止めたい………………」
「……ジル、公爵家と侯爵家の婚姻でそれは無理よ」
「うん………………」
ジルベルトはリーナベルを抱きしめて、額にキスをした。化粧を崩してはいけないので控えめだ。
リーナベルはおかしくなって、ふふっと笑った。
「どうかした?」
「ううん、なんか不思議だなと思って。私、最初はとにかくジルを助けたいだけだったのにな……。ジルを事故から救えれば、私がどうなってもいいやって」
「うん、初めはそうだったね」
ジルベルトも目を細めて笑った。出会った頃を思い出しているのだろう。
「それが、今はこんなに運命を変えて。シナリオを乗り越えて……。大変なことも沢山あったけど、こんなにジルに大切にしてもらって、しかも結婚式を控えてるんだもんね?不思議だなぁって、思って」
「おれは、運命だったと思ってるよ?」
ジルベルトはリーナベルを真っ直ぐ見た。彼の言葉には、いつだって嘘がない。
「リーナ、俺を見つけてくれてありがとう。あの時、助けてくれてありがとう。俺は本当に幸せだ……」
「私も、幸せよ?」
「それに、覚えておいて」
ジルベルトはリーナベルの手を取って、キスした。琥珀は逸らされず、真っ直ぐにリーナベルを捉えたまま。
口角が上がり、不敵に笑った。
「これから、もっともっと幸せにするから。……覚悟してね?」
その微笑みは、壮絶に格好良かった。
――ああ、今日も推しの笑顔が最高です………………。
推しを助けることに全力を注いだ悪役令嬢のシナリオは、終わった。
しかしシナリオが終わっても、彼女の人生は続いていく。
愛を信じ、彼との未来を信じ、この先の人生を共に歩いていく。
彼女の物語は、まだまだ始まったばかりなのであった。
fin
これにて完結です!お付き合いいただきありがとうございました!!




