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6-9 黒幕へ迫る

 突然の急展開に、貴族たちの騒めきはいよいよ止まらない。夜会はもう、大混乱だ。


 国王はいつもの厳しい表情で、静観している。

 実は国王には、事前に説明が為されていた。今回起こすクーデターの阻止は静観すると、約束されていたのである。

 さらに、それを成し遂げた時の褒賞まで、書面で確約されていた。クラウス直筆の手紙を持って、ランスロットが全て交渉したのだ。


 大混乱の中、そこで一人の人物が歩み出てきた。

 彼は至極落ち着いており、小馬鹿にしたように大袈裟に手を上げながら進み出てきた。


「やれやれ、いつから夜会は断罪の場になったんだ……?クラウスよ……随分と無粋じゃないか?」


 王弟、アドリアン。

 彼は金の巻き髪を揺らし、人好きのする笑顔で進み出てきた。しかしその紫の瞳は、全く笑っていない。大柄な彼が進み出てくると、威圧感がある。


 会場の奥から、その様子を厳しい眼差しで睨みつけている者もいた。ローニュ帝国の第二皇子、イヴァンである。


 そこで、クラウスが再び朗々とした声を響かせた。


「まだ終わりではありません!オーレリアに指示を出していた者がいます。私の大切な婚約者であるミレーヌが証言しているのです。その者は、いつもオーレリアと同じ、甘い匂いをさせていたと。そして、その匂いの元は、帝国製の麻薬だった!その者の名前は……」


 クラウスが、目の前の叔父を睨みつけて言った。


「アドリアン・フォン・オーベルニュ。貴方だ」


 アドリアンは、その笑みを一切崩さなかった。しかし、貴族達はもはや悲鳴に包まれた。

 王族が、夜会で、王族を断罪する。これは前代未聞の、異常事態である。


「王族の僕が貴方の罪を詳らかにしても、説得力が薄いでしょう。権力争いのようになってしまうのも、望ましくない。ここからは、私の側近であるジルベルトに引き継ぎます」

「承知しました、殿下」


 ジルベルトが一歩前に進み出る。リーナベルを後ろに庇ったまま、彼は話し始めた。


「恐れながら。アドリアン様。貴方はオーレリアを通じて、多くのものを害そうとしてきた。クラウス様を中心として、その婚約者であるミレーヌ様。そして俺や、俺の婚約者のリーナベルのことをです。禁忌薬を用いたドラゴンの襲撃事件、リーナベルの拉致事件、学園のサバイバル戦での騒ぎ。全てに貴方が関与している証言と、状況証拠があります。貴方はオーレリアと繋がっているだけじゃない。隣国とも繋がっていますね?」


 ジルベルトが厳しい声で問い詰めたが、アドリアンはどこ吹く風だ。


「知らん。そこの女が、勝手にやったことではないのか?」

「アドリアン様!!!」


 金切り声を上げたのはオーレリアであった。


「ひどい、ひどいです!私にたくさん、命じたではないですか!確かにクラウス殿下たちの洗脳には、失敗してしまったみたいだけれど……!!貴方の役に立つと思ったからやったのに!!……何度も、私を愛していると、おっしゃってくれたではないですか!!私を、王妃にしてくれると……!!」

「黙れ」


 放たれた声には強い威圧感があった。圧倒的な重みに、叫んでいたオーレリアが震えながら膝をつく。その目からは、絶望の涙が流れていた。


 アドリアンは軽く笑い、手を広げて貴族達に呼びかけた。


「随分とお粗末な推理だと思わないか?全て、ただの希望的観測だ。証言など、いくらでも偽造できる。状況証拠?くだらぬ。甘い匂いとやら……根拠のない言いがかりに至っては、特にくだらぬ。王族を断罪するというからには、ちゃんとした物的証拠はあるんだろうな?もしも動かぬ証拠がないなら、不敬罪で捕らえられるのは貴様の方だぞ。覚悟はできているんだろうな?ジルベルト……そして、クラウス!!」


 アドリアンは強気の姿勢を崩さない。やはり、こう来たか。

 ジルベルトの目配せを受け、リーナベルは四次元魔術陣を描き始めた。


「動かぬ証拠がお望みですか……。ところで皆様。ご存知の通り、クラウス殿下と俺は毒を仕込まれました。しかし……それは、ただの毒ではありませんでした。その毒には、盗聴の……しかも、念話すら聞き取る、高度の追跡盗聴の魔術が仕掛けられていました。そして共に、隠蔽魔術も仕込まれていた。……この魔術を仕込んだ人間は、明らかにこの毒殺未遂に関わっている。王太子の命を狙った、共犯者です」


 ジルベルトが本題を切り出した。アドリアンは笑っている。


「それが何だ?……盗聴?……隠蔽?……明らかに『闇属性』の魔術ではないか!私には、闇に適性などない!ははは……早速、無関係だと証明されたな?」


 ジルベルトはアドリアンに構わず、周囲を見回して演説し始めた。


「お集まりの皆様。私達は盗聴を仕掛けられていたために、洗脳された演技をしていたのです。クラウス殿下は正気なので、ご安心ください。……さあ、それでは、ご覧ください!!今からその魔術痕を分析し……術者を特定する魔術を、発動します。我が婚約者のリーナベル・ノワイエが、皆様にはっきりと、証拠をお見せします!!」

「……何だと?」


 アドリアンの顔がピクリと引き攣った。すかさずリーナベルが前に出る。


 三メートルをゆうに超える、青く輝く四次元魔術陣が構築されていた。幾何学の美しい紋様が、高層ビルのように規則正しく整列し、彼女の背後に集結している。

 見たこともない景色に圧倒され、貴族達がおののいた。


「……いきます!!≪術者特定≫!!」


 リーナベルが魔術を発動した。

 青い魔術陣の紋様が折り畳まれて収束していく。一点に結ばれた青い光が移動し、魔術痕のあるクラウスとジルベルトの頸に集中した。

 その光は増幅し、膨張し、大きく強く光り輝いた。

 やがて増幅した光は――――真っ直ぐに、アドリアンの元に向かって行った。

 逃れようのない青い光が、術をかけられた2人とアドリアンを結んでいる。


「二人に毒を介して仕込まれた、盗聴の闇魔術は……アドリアン様、あなたが発動したものです!!」


 リーナベルが高らかに宣言した。

 貴族のどよめきと混乱が一気に爆発する。

 そこに、ルシフェルが追い討ちをかけた。


「逃げても無駄だよ、アドリアン。この術者特定の魔術陣に嘘はない。これは真正の魔術だ。私が魔術研究者の名をかけて、保証するよ!後で、第三者の研究者を交え、検証しても良い。……もう、諦めなさい。アドリアン。君に闇魔術の特性があると、私は…………知っている」

「ルシフェル、貴様……!!!」


 ルシフェルの宣言に、いよいよ会場は阿鼻叫喚に陥った。

 ジルベルトの配下である複数の騎士が、すかさずアドリアンを囲い、即座に魔術を封じた。もう逃げられない。


「まだだ!貴様の言ったことが全部本当だという証拠などない!!」

「証拠は揃っています。この魔術で、全て揃いました!あなたは闇魔術に適性があることを、隠していた。とすれば、これまでの計画が全て可能なのです。王宮から洗脳魔術の魔術陣を持ち出したのも、ドラゴンを誘発する禁忌薬を仕込んだのも。オーレリアに洗脳をさせるため転移させたのも、盗聴を仕掛けたのも――――全て、貴方にしか可能ではなかった!」

「ハハハハ、なるほどな……クックック…………」


 冷静に突きつけるジルベルトに対して、アドリアンは壊れたように笑い出した。


「ハハハ…………ハハハハ!それが、本当だとして。私が一体、何をしたかったと、言うのかな?」

「貴方の目的は、現政権と王太子の求心力を下げ、高位貴族達を混乱に陥れ、国の地盤を分断させること。さらに可能であれば、王太子クラウス殿下を暗殺することも視野に入れていたはずです。貴方の目的は――――王位。そしてそのための、クーデターですね?」

「……クックックッ…………」


 アドリアンは、俯いて小さく笑っている。不気味だ。

 ジルベルトはリーナベルを抱き寄せて守りながら、続けた。


「ここに告発します!貴方はクーデターのために、帝国と取り引きをしていた!貴方は我が婚約者である、彼女……リーナベルの類稀なる才能を、その身柄ごと帝国に引き渡すのを引き換えに、自らのクーデターを援助してもらう約束を取り付けていた!!そのために、彼女の拉致事件を手引きしましたね?学園のサバイバル戦で捕らえた帝国の魔術師達が、貴方に情報を流されて彼女の身柄を狙っていたと、既に証言している!!」


 ジルベルトの表情は怒りと殺気に満ちていた。リーナベルの身柄を狙っていたのは帝国だが、それを手引きしていたのは目の前のアドリアンなのだ。全ては、自らの野望を成功させるために。ジルベルトとクラウスが、命がけで調べ上げたことであった。


「さらに貴方は、クラウス殿下の婚約者であるミレーヌ様を邪魔に思う教会派とも繋がって、彼女の立場を弱め、亡き者にすることをも狙っていましたね。そちらの証言も、集まっています」

「ハハッ、私が……小娘達の、命を狙っていたと。だから……何だと言うんだ……」

「往生際が悪い!!証拠は既に揃ったと言っているんだ。もはや、逃れようはないぞ!!アドリアン・フォン・オーベルニュ!!!」


 ジルベルトがよく通る声で宣言すると、アドリアンのまとう空気がガラリと変わった。


「ハハハ……ハハハッ!お見事……!お見事だよ、ジルベルト。そして……クラウス!!君は本当に優秀だ!!優秀で――――本当に、目障りだ…………」


 ぞくりとするような昏い声が、会場に、響き渡った。

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