6-1 推しとの別れ
――どうして。
信じているのに。
未来を誓い合ったのに。
あの事件が起こるまでは、大丈夫だったのに。
リーナベルの頭は真っ白だ。
ジルベルトを見ていられない。
他の女の子を庇うように立って、リーナベルを睨みつけるジルベルトなんて、見ていられない。
ジルベルトに守られているクロエが、可憐で凛とした声を出した。
「リーナベル様。幼い頃に命を助けたことを盾に、無理に婚約を迫ったとジルベルト様に聞きました!そんなの、ひどいわ。結婚は、本当に愛する人と結ばれるべきです」
この子は何を言ってるんだろう?
滅茶苦茶だ。
ジルベルトに、聞いた?
ジルベルトは、そんなこと絶対に言わない。
「そんな事実、ないわ。ジルとは、ちゃんと想いあってるもの……」
リーナベルは自分の声が震えてしまうのが情けなかった。クロエはこちらをはっきりと睨みつけている。
……ジルベルトは、こちらを警戒し続けていた。今まで向けられたことのない、冷えた眼差し。
「ジルベルト様ご本人がそう言っているんです。リーナベル様!どうかジルベルト様を解放してあげて!婚約を破棄してください……!!」
「な……!!」
ジル。
ジル、どうして何も言わないの……?
貴方まで、洗脳されてしまったの?
魔道具が効かなかった?
ねえ、ジル……。
涙が一筋こぼれ落ちる。
それでも、リーナベルは奮い立った。
信じると決めたから。
ジルベルトに誓ったから。
「ジル、お願い。答えて。どうしてしまったの?婚約破棄したいなんて、嘘よね?……信じてるの。貴方を、愛してるの…!!!」
リーナベルの決死の言葉に対して、ジルベルトは暗い顔で一言しか返さなかった。
「ごめんね」
それは、さよならの合図だった。




