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5-5 悪役令嬢はヒロインを助けたい

 リーナベルのところにやって来たフェルナンは、それまでと顔つきが変わっていた。

 彼はそれまでと違い、強い意志を秘めている目つきをしていたのだ。


「リーナベル。心配かけてごめん。僕はもう大丈夫だ」

「フェルナン……」

「ジルのお陰で目が覚めた。僕は、どうしてもクロエを助けたい。協力して欲しい」


 フェルナンはリーナベルに頭を下げる。リーナベルは慌ててそれを上げさせた。


「フェルナン!止めてよ。クロエちゃんを助けたいのは私も一緒なのよ!!」

「……そうだよな。ありがとう」

「あのね……私としては、脅されている線より、『心属性』による洗脳の線を疑っているの。フェルナンの見解はどう?二人で一緒に調べていけたら、助かるわ」

「僕も、洗脳の方が可能性が高いと思う。クロエは正気じゃない。冷静に考えると……行動が、ちぐはぐなんだ。それに脅されているのなら、あんなに『いつも通り』の表情をできないと思う」


 リーナベルは強く同意した。クロエに最も近いフェルナンがそう思うなら、やはり洗脳なのだろう。


「ルシフェル先生の協力を取り付けて来たの。フェルナンと知識を共有するように言われたのよ。今から始めていい?」

「ああ、すぐに始めよう」

「結界を張る。守りは気にするな」

「ありがとう、ジル」


 内容の秘匿性があまりにも高すぎるため、今日はジルベルトが護衛に付いてくれた。クラウスの指示で、騎士としての仕事扱いになっている。二人はすぐに議論を始めた。



 ♦︎♢♦︎



「――――まとまったな。判明している情報を確認していこう」

「ええ」

「一点目。洗脳魔術の魔術陣、ターゲットとなる身体の部位や魔力の流れは一切不明」

「つまり、ほぼ何もわからないってことね。王宮の禁書庫を当たれないかしら」

「クラウス様に掛け合おう」

「それしかないか……多分、許可が降りるまで時間がかかるから、早く相談ね」

「あとは……昔の魔術だから、特殊な呪文や、草木に含まれる魔力を利用している可能性が考えられる。昔は魔術をかけるときに呪文を唱えたり、薬を併用したりしていたと聞くからな」

「この間の、魔術歴史学の授業でやっていたもんね。草木のことについては、ミレーヌに相談しましょう」


 黒板に書き出した情報について、取れる手段を考えていき、書き加えていく。


「二点目。洗脳をかけるためには、『心』か『身体』が大きく弱っているという条件が必要」

「クロエは……前者の可能性が高いわね」

「見た限り身体にダメージを負った形跡がないからな。心の方は――――確かに、クロエは何かに怯えて、確かにずっと追い詰められていた。これは、早く聞き出さなかった僕の落ち度だ……」

「それは、今言っても仕方のないことだわ」

「そうだな……。とにかく、その条件を満たさなければこちらを洗脳することはできない。僕たちは自衛できる」

「このことは全員で共有しておきましょう」


 洗脳は効果が強大な分、満たさなければならない条件も多いようだ。これは、ルシフェルがかつて他国で目にした文献に書いてあった情報。自衛するためには大きな手がかりである。


「三点目。解呪の条件は、少なくとも洗脳をかけた術者の同席が必要、か…………。くそっ、これは厄介だな」

「オーレリア様が犯人だと仮定すると、彼女をどうにかしないといけないのね」

「術者が死亡した場合は、洗脳の解呪は不可能になるみたいだ」

「まるで、人質だわ……。下手にオーレリア様に接触したら……敵に気取られて、彼女自身が消される恐れがあるってことよね」

「オーレリア様本人は、このことを……知らないだろうな。やっぱり、彼女は本当の黒幕じゃない。裏で指示している者がいるんだろう」

「彼女への接触は、兄様に任せるしかないわね。いま婚約に向けて両家が動いていて、もうすぐ正式に結ばれるから」

「それは……。ランスロット様は大丈夫なのか?」

「仕方がないわ。兄様は、私が言っても聞かないもの。任せましょう」

「……歯がゆいが、僕たちは接触を避けよう」


 解呪に術者の同席が必要とは、厳しい条件だ。研究所の地下に眠っていたいくつかの文献にあったため、確かな条件なのだと思われる。昔も、この条件が解呪のネックだったようだ。


「四点目。解呪のための魔術陣は完全に失われている。というか、昔も成功例はほとんどなかったみたいだな」

「ゼロから構築するしかないわ」

「洗脳魔術をかける際の魔術陣を、予測して仮定するか?もしくは、クロエに残された魔術痕を分析して魔術陣を調べるか?どちらかを手掛かりにして、解呪の魔術陣を作るしかない。かなり時間がかかりそうだな……」

「自分達で予測するには情報が少なすぎるから……クロエちゃんを調べる方が、現実的だと思う」

「僕も同意見。洗脳されていることも確定できるし。魔術感知の効果を最大限に高めた魔術陣を構築して、クロエを調べるしかない。彼女に接近する役割は……僕がやる」


 フェルナンははっきりと言った。そこは譲れない条件だろう。リーナベルは、三次元魔術陣をフェルナンに習得してもらう覚悟をした。最大に強化した魔術陣で、フェルナンに魔術感知を行ってもらうしかない。


「魔術の効果を最大限にする手段には、心当たりがあるの。あとで実演して見せるわ」

「わかった。頼む」

「あと、解呪についての話に戻るけれど。やっぱり、呪文や薬の併用が必要になる可能性もあるかもね」

「昔の魔術についてよく調べる必要があるな。古文書を当たっていこう」


 失われている情報が多すぎるため、かなりの長期戦となりそうだった。二人で取り組んでいくしかない。ルシフェルは他国の文献をあたると言ってくれている。


「判明している情報は以上だな」

「それぞれ並行して進めていきましょう」

「第一優先は、クロエの魔術痕の分析だな」


 リーナベルとフェルナンは頷き合った。かなり難しい課題だが、やるしかない。それでも、一人よりはずっと心強い。協力していけば、乗り越えられるはずだ。

 話がひと段落したところで、ジルベルトが声をかけた。


「こちらではオーレリアの監視と護衛をする。クラウスは帝国の動きを抑えながら、王宮内を探っている。鼠探しは、俺も軍関係を中心に進めていく」


 皆それぞれ、自分にできることを進めていくことになった。お互い頷き合う。


「貴族の調べはどうなってる?」

「そこはランスロットの担当だ。あいつは頻繁に夜会に出入りして、怪しい貴族に取り入っている」

「オーレリア様のこともあるし、兄様の負担が大きいわね……」

「ランスロットは有能だ。大丈夫だよ、リーナ」


 ジルベルトが近づいてきてリーナベルを撫でた。

 議論の邪魔にならないように、今まで距離を置いて控えていたのだ。かつていじけて丸くなっていたというのに、堪えてくれているのだろう。よく感謝しなければなるまい。


「あと、クラウスからの伝言がある。さっき念話が届いた」

「何だ?」

「黒幕だが、オーレリアよりも上位の者の可能性が考えられると」

「え……筆頭公爵家より上位?それって、つまり……」


 つまり――――王族、ということだ。

 口に出すのも、憚られる。フェルナンは群青色の頭をくしゃりと抱えた。


「ちょっとそこまで行くと……僕たちに調べられることじゃないな……」

「そうだ。だから二人には、魔術関連に集中してほしいと言ってる。あちらの調べでも、脅しより洗脳による異変の可能性が高いと、結論が出たそうだ」

「わかった。そっちはクラウスが頼りね……」

「俺もランスロットも、可能な限り動く。それにミレーヌも、女性貴族の中から探りを入れると」

「ミレーヌ……大丈夫かしら」


 リーナベルは、ミレーヌとじっくり話すことを決めた。洗脳と聞いて、彼女もきっと、色々と不安になっているに違いない。


「皆でそれぞれ、自分にできることを進めていこう。必ず解決する。シナリオ通りになんて、進めさせない」

「わかった。全力を尽くすよ」

「頑張りましょう!」


 三人で気合いを入れた。

 必ずクロエを助けたい。彼女はもう、恐れていた『ヒロイン』じゃない。

 今はもう、大切な友人なのだから。


 こうしてシナリオ対策の新チームは、クロエを助けて犯人を追い詰めるため、動き出したのだった。

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