4-11 激化した戦いの代償(※ジルベルトサイド)
ジルベルト視点です。
ジルベルトは苦戦を強いられていた。
青ローブの男は、全力全開のジルベルトでも撃破が難しい相手だったのだ。
しかし、それにしては――――戦いの技術や剣の軌道そのものは、拙い部分や荒が目立ち、ちぐはぐだった。恐らく人体を弄ることで無理やり魔力量や魔術出力を高め、戦力を増強している。普通の人間では、まずないだろう。
「お前達の目的はもう果たされない!今なら見逃すと言ったら引くか!?」
転移と魔術による攻撃を繰り返し、戦いながら叫ぶ。応答は期待していなかったが、敵は簡潔に答えた。
「引かない。引けない。」
ジルベルトは、その答えに舌打ちする。
敵の第一目的は、リーナベル、ミレーヌ、クロエのうち誰か、または全員の拉致であったはず。クラウスの立てた予想だ。
敵の初動を見る限り、その予想は当たっていた。
しかし、クラウスの打った手はそれを上回ったのだ。
彼は事前に敵の動きを予想し、人員を配置した。また、班の構成員をいじり、最初の転移先を指定した。
そしてイベント開始後は、ジルベルトを中心に騎士達を使いながら、ランスロットに戦況を操らせた。
敵に目的の人物の居場所を探らせる暇もないまま、可及的速やかに敵を制圧したのだ。
しかし、敵は引かないらしい。
どうやら第二の目的は、こちらの戦力を削ること――――つまり、一人でも良いから殺すことのようだ。
そのためにあんなに大人数を投入したのだろう。ほぼ制圧してしまったが。
しかしそれにも関わらず、敵は、「引けない」と言った。
恐らく、結果を出さずに国に帰っても未来がないのだろう。
つまり彼らは今、なんとしても一矢報いたいという、やぶれかぶれの状態で戦っていることになる。こうなった相手は、何をしてくるかわからない。
途端、ランスロットの叫び声が聞こえて、ジルベルトは一瞬気を取られた。
大きく負傷したようだ。
あの用心深い男が、一体どうして――――。
そう思ってしまった、一瞬の隙だった。
敵が大規模な魔法陣を描き切るのを、許してしまった。
――――あれは!!!自爆魔術だ!!!!
その特徴的で禍々しい魔術陣は、この国には存在しないものだった。
拉致事件の検証で何度も調べていたから、ジルベルトには偶然分かった。
――こちらを巻き込んで、諸共自爆する気か!!!!
ジルベルトはすぐに、転移による退避をしようとする。が、しかし、それは叶わなかった。
最悪のタイミングで、時間を停止させられたのである。
――身体が動かない!!
光の超高等魔術!?
帝国の研究は、まさかそこまで――――!?
高速で頭が動くが、身体は微塵も動かない。
相手の身体が風船のようにボコボコと大きく膨らみながら、こちらに向かって吹っ飛んでくるのをただ見ているだけだ。
――やられる!!!!
「させるか!!!」
少年の声が響いた。
間に割り入った少年――――フェルナンのローブが大きくはためいた。
ガガガガガ!!!!
フェルナンは、自らの爆発魔術で相手の攻撃を相殺しながら、防御結界を展開した。
「っ!!!」
防ぎきれなかった爆発の波動で、フェルナンの左肩が吹っ飛んだ。それでも魔術を緩めない。
さらに、小さな爆発が彼の腹に穴を開けた。
ジルベルトは停止したまま、ただそれを見ているしかできなかった。
そうして、相手はようやく――――消滅、した。
「ぐはっ……!!」
「フェルナン!!!」
ようやく動き出したジルベルトが、慌ててフェルナンを支える。ジルベルトも大怪我だらけだったが、それどころではない。
フェルナンはどこからどう見ても、明らかに致命傷を受けていた。
「フェルナン!おいしっかりしろ!いますぐに神官のところに転移する!!」
「――――はは……、ざまぁ……ないね……」
魔術で止血しながら転移するが、フェルナンは虫の息だ。ヒュー、ヒュー、と空気が空回りする音がした。
あまりにも出血量が多すぎる。左肩は大きく抉れ、その左腕ごと消滅していた。横腹に空いた穴も、大きかった。
「神官!!致命傷だ!!すぐに光魔術を!!」
救護室に転移したジルベルトは彼を抱きかかえたまま、ぶつけるように叫んだ。現場はおおわらわになる。
「いい……これだけの、欠損……たすからない……わかって、る…………」
「……っ!!何故……!何故、俺を庇った……!!!」
あれはジルベルトのミスだった。相手の力量を見誤ったのだ。
自分をあんなに毛嫌いしていたフェルナンが、命をかけてまで自分を庇った理由が、ジルベルトにはわからない。
頭が煮えたぎるようにぐるぐるして、上手く働かない。
――どうして。
何故。
こんな……。
「ぼ、く…………ずっと……あんたが、うらやま、しくて…………でも、ほんと……は…………あこがれ、て……た…………」
「フェルナン!おいフェルナン!!諦めるな!!気をしっかり持て!!」
神官たちが彼を取り囲み、光魔術がフェルナンにかけられる。しかし、欠損部位が大きすぎて戻らない。出血が止まらない。
ジルベルトは叫びながら、フェルナンの出血口を抑え続けていた。もう腕は真っ赤に染まっている。
「なあ、たのむ…………よ……リーナ、ともだち、なん……だ…………クロ、エ、は……たいせつな……こ…………なん、だ…………」
「待てフェルナン!!いま二人を呼んでいるから!!」
「ぼくの……かわ、り…………まも、っ、て…………」
フェルナンはそう言ったきり、意識を失ってしまった。




