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4-9 王太子の暗躍(※クラウスサイド)

クラウス視点です。

「C地点に敵1。ジルベルト、迎撃。同時にD班をB地点に誘導」


 リーナベルよりも濃い青色の目が、ゆらゆら揺らめいている。その輝きを遮る伊達眼鏡は、今日は外されていた。

 長めの白銀髪がさらりと落ちかかる。

 彼の前には大きなテーブル。そこには舞台である森の地形が網羅された、巨大な地図が広がっている。

 上にはチェスの駒が置かれ、それを動かしながら、彼は戦況を全て掌握していた。

 ランスロットは、無数のモニターが光る薄暗い部屋の中で、静かに状況を操っていたのだ。


 ――こういう時、彼は本当に頼もしい。


 クラウスはぞくりとしながらも、ランスロットの指示を念話で各自に飛ばしていく。


「K地点に敵2。アドルフとエリク、迎撃」

「了解。ジルから念話だ。T地点に敵1。闇魔術使い。強敵」

「了解。マクシム、T地点に移動後足止め。ジルベルトは引き続きF地点に向かいつつ、各班を撃破」

「やはり、闘技場のモニターに映る地点は避けているな……」

「ま、そのお陰で誘導できている部分もあるけどな。アドルフとエリクはM地点に移動。現在F班はP地点で交戦中。引き離せ」


 F班――――フェルナンの班には、敵の狙いである可能性のある女性陣をひとまとめにした。クラウスが王族の権限を振りかざして、秘密裏に班分けに介入したのである。

 クロエが狙われている可能性もあったため、仕方がなくミレーヌとリーナベルに対する接近を許した。守るべき標的は、一箇所に集まっていたほうが守りやすい。

 リーダーにフェルナンを選んだのは、彼の魔術の発想力、創造性と実力を買ったからである。他の女性陣の力も上手く活かして戦うだろうと、クラウスは踏んでいた。もちろん、F班には念話のできる騎士を張り付かせているし、モニター上でも追っている。何かあればすぐに転移で駆けつけるつもりだ。


 ジルベルトは初め、自分がリーナベルたちを守ると言い張ったが、彼には単独で動いてもらう方が効率が良かった。

 彼は派手に動いてバッジを大量に集めつつ、一年生徒を次々に退避させてもらった。会場はすっかり彼の活躍に注目して、大いに盛り上がっていた。サバイバル戦自体を中止にしてしまっては、敵を全員捕らえられない。ある程度は、イベント続行中の演出をする必要があった。

 ジルベルトはバッジを集めつつ、気配察知と広域盗聴で戦況を伝え、時には魔術の打ち損じと見せかけて敵の威嚇・誘導までこなしていたのだ。一体、どこまで規格外なのか。本当に、絶対に敵には回したくない男である。


 クラウスは念話でランスロットの指令を飛ばしつつモニターを監視。観客席全体の盗聴を行いながら待機していた。今のところ客席側に怪しい動きはない。そして――――


「クラウス、T地点に転移。強者に対して苦戦してる。俺たちで捕縛」

「はい、了解」


 危ない地点に随時転移で飛び、交戦する。本日の王太子はこのようにして、忙しなく暗躍していたのである。


 クラウスとランスロットが転移した先に、敵の姿はなかった。

 騎士のマクシムが倒れている。かなり負傷していた。


「申し訳……ありません!闇魔術の気配遮断が強力で、完全に捕捉できず……!」

「ご苦労。任せてくれて良いよ」


 クラウスはアメジスト色にキラキラと光る魔術陣を描く。金の髪が魔力でサラリと揺れた。彼が魔術を発動すると、美しい紫の蝶が無数に出現した。

 ――気配の遮断などの闇魔術も含め、相手の魔術を「転移」させることで消去してしまう魔術陣だ。これで結界を張ることもできる。リーナベルがクラウス専用に作ったものだ。あまりに繊細な操作が必要であり、ジルベルトにも扱えない。

 今飛ばしているのは、魔術陣消去の結界を蝶の形にしたもの。相手のにおいや魔力の気配を追って、敵を追尾する機能がある。


 紫の美しい蝶が少し先までヒラヒラと一箇所に集まっていき、消えていくと同時に、負傷している敵の姿が露わになった。敵の気配遮断効果が消去されたのだ。

 白いローブで顔が見えないが、帝国の魔術師で間違いないだろう。


「ああ、怪我で動けなかったんだ?随分と近い場所にいたね?」

「くっ……!!」


 途端に相手は自暴自棄になって、大量の火球を繰り出してきた。クラウスの剣の一振りによって繰り出された、炎の美しい翼がそれを相殺する。

 いや、打ち消すどころか――――威力が高すぎて、相手をそのまま襲った。


「ぐあああっ!!!」


 殺さない程度に痛め付ける。

 クラウスは優雅にそこに立ったままで、擦り傷一つ負っていない。

 リーナベルの魔術陣を使いこなすクラウスは、魔術師としてもはや圧倒的な強さであった。


「ランスロット」

「あいよ」


 ランスロットが準備していた土魔術を発動すると、空中に砂が出現してあっという間に土の巨人が現れた。

 巨人が相手を囲い込むようにがっちりと覆い、捕捉する。


「はい、完了」

「お前の土魔術は、本当に恐ろしいな」

「はは、こりゃうちの親も、妹を隠すよなぁ」


 これは幼いリーナベルが遊びの延長で作った、動く土人形の魔術陣。それをランスロットは極めていた。


「さあ、怪我人を連れて戻って、作戦を続けようか?」



♦︎♢♦︎



 こうして、クラウス達が暗躍すること約三時間。

 ジルベルトは可能な限り、ほぼ全ての生徒のバッジを奪って脱落させた。また、九人入り込んできた敵の魔術師は次々と捕縛され、既に残り二人となっていた。

 残りの二人は騎士が応戦しており、ジルベルトは気配を遮断してF班を見守っている。

 もう少しでチェックメイトだ。


 ――――しかし、そこで。

 リーナベルの『浮気』に、キレたジルベルトが暴走した。


「おいー!!ジルベルト、完全にキレてるじゃん。あいつ目的忘れてないか!?」


 ランスロットが額を覆って天を仰いだ。

 ジルベルトとフェルナンは本気の交戦中だ。そう、あの恐ろしい騎士は、リーナベルのこととなると一気に馬鹿になるのだった。


「いや、それでもちゃんと並行して、盗聴と気配察知をかけてる。逐一念話で状況を知らせてるよ。敵に向かって、魔術で威嚇もしている。あいつの思考回路って、一体どうなっているんだろうね?」

「いや、それはそれで怖いわ!」


 クラウスは親友の有能さに感心している。ランスロットは妹の騎士(ナイト)の規格外さに、ドン引きしていた。

 しばし交戦が続き、手間取っている騎士の手助けに二人が向かおうとした時。


「…………待て!ジルベルトから念話。H地点に新たな強者出現。光属性持ちだ!」

「やっぱ本命がいたか。フェーズ4に移行だな」

「すぐ向かおう」


 瞬時にクラウスとランスロットは転移する。

 クラウスは守るべき者達を覆う「転移」の結界を張った。これで大体の魔術を無効化できるし、敵が入ろうとしても、強制転移させることで入って来られないようにしている。


 さらに、クラウスはジルベルトとフェルナンの間に転移し、二人の攻撃魔術を消去してみせた。



「はい、終わりね」



 その涼やかな声で、ジルベルトとフェルナンの『喧嘩』は終わった。

 相手には光魔術の使い手がいる。結界は持って五分と思われた。

 急ぎで分担を決め、クラウスが女性陣を遠くまで転移させたのだった。



♦︎♢♦︎



「すぐに三人来る。騎士はやられた。死者は今のところなし。青ローブの奴が光属性使い。恐らく敵のリーダー格だ。俺が応戦する。他の二人を頼めるか」

「了解だ」

「わかったよ」


 冷静にフェルナンとランスロットに役割を振る。それからジルベルトは、フェルナンをちらりと見た。


「足を引っ張るなよ」

「当然」


 ジルベルトは、本当は理解していた。

 フェルナンは相当な強者だ。実際に手を合わせてみて、良く分かった。

 例え魔術の出力を抑えていても、本気のジルベルトに応戦できる者なんて数えるほどしかいない。リーナベルの規格外な魔術陣を使っているからだ。しかし、フェルナンは自力でジルベルトと渡り合ってみせた。


 共闘するのは、正直心強い。

 彼がリーナベルをそういう目で見ていないのも、頭ではわかっている。

 ただ、面白くないだけだ。

 魔術の研究で仲良く話す二人の友情の間に、自分は入り込めないから。――――拗ねて、いただけだ。これでは、まるで子供である。

 切り替えなくてはいけない。


「……二人とも、頼んだ」


 敵が瞬時に三人現れた。

 青いローブが一人と、白いローブが二人。


 三人は黙ったまま、直ちに魔術陣を展開した。

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