表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/103

4-8 推し、ラスボスになる

「やってくれたな……!!」

「こっちの台詞だ」


 悔しそうに唸るフェルナンに、ジルベルトは淡々と返した。今まで聞いたこともないほど、声が冷え切っている。


「……うわっ!!数、すご……!!」


 殺気に対する恐怖で固まっていたミレーヌが動きを再開し、ジルベルトのバッジに表示された数字を見て戦慄した。


「ご、ごじゅうよん……!?」


 クロエも驚愕する。54。ジルベルトの獲得バッジ数は、確かにそう表示されていた。

 一年生は合わせて八十人程しかいない。

 つまり、F班が脱落させた以外の生徒は、ほぼ全滅していることになる。


 それも、ジルベルト、()()()()()によって。


 ――――完全に魔王。完全に、ラスボスである。


「ちょうど良い。どうせ倒すつもりだった。あんたのメダルも総取りしてやる!!」

「やれるものならやってみろ。お前のことは元々気に入らなかった」


 フェルナンが吠え、ジルベルトもそれに応じた。



「「絶対 倒す」」



 二人の男の声が重なった瞬間、二人共に大きく移動し、激しい戦いの火蓋が切られた。


 フェルナンは瞬時に数多の刃を生み出し、ジルベルトへ一直線に放つ。

 それをいとも容易く避けながら、炎の膜で迎撃するジルベルト。

 二人の間に、激しい爆発がいくつも起こった。

 氷柱がフェルナンに多数襲い掛かり、彼は退避した。すんでのところに落ちた氷柱は地面を大きく抉って、突き刺さっている。

 突然煙幕が起こり、中から光の速さでジルベルトが飛び出して、魔術製の剣に派手な炎をまとわせ振り下ろした。


「あぶなっ!!」

「フェルナン様!!」


 ミレーヌが水魔術で消そうとするが、炎が強すぎる。

 クロエの土壁がなんとかフェルナンを守り、彼は退避した。


 リーナベルは全員に身体強化をかけ続けているが、ジルベルトに隙なんて生まれそうにない。

 フェルナンが生み出す多種多様な攻撃を、ジルベルトは容易く無効化し、かつ苛烈な攻撃をしかけてきた。

 炎が舞い、水飛沫が上がり、風が吹き荒び、土が荒れ狂う。


 もはや、二人の戦いには誰も手を出せなかった。


 創意工夫して攻撃するフェルナンに対して、ジルベルトは圧倒的な速さと激しさで彼を追い詰めていく。

 初めは何とか渡り合っていたが、消耗が激しく、地力のあるジルベルトが優勢だ。


 ――多分もう、やられる……!!


 女性陣が戦慄した瞬間、フェルナンが大きな怒りを含んだ声で叫んだ。


「おい!!!僕と戦ってるときくらい、僕に集中しろよ……!!!さっきから、一体何を相手にしてる!?」

「お前に言う義理はない」

「むっかつくんだよ!!そういうところが、本当さあ……!!!」


 二人が再び動き出し、最後の攻防が始まろうとしたその瞬間。

 それは、唐突に止められた。



「はい。終わりね」



 澄み切った声がして、二人の魔術が真ん中でかき消えたのだ。

 ――――正確には、闇魔術の結界によって、魔術自体を「転移」させられて、無効化された。


「クラウス!?」


 ミレーヌが驚いた声を出す。

 澄み切った声の主は、この国の王太子クラウス。透き通る金色の髪が、サラサラと風で靡いていた。

 彼が勢い余った二人を、軽く押さえている。あの苛烈な魔術戦を制圧したとは思えない余裕さだ。


「ん。ミレーヌ。助けに来たよ?」


 クラウスはジルベルトに剣を渡しながら、こてりと首を傾げて笑っている。


「ジルベルト、お前、熱くなりすぎ。敵の本命が来そうだから、もう退避な〜」

「は?兄様!?」


 続いて聞こえた声の主に、リーナベルは仰天した。

 それは、この舞台にいるはずのない三年生の兄、ランスロットだったからである。

 しかも、兄は眼鏡を外していた。本気モードの兄は、普段かけている伊達眼鏡を外すのである。

 隣でクラウスが冷静に話し始めた。


「今は一時的に結界を張ってる。外からここには入れないが、あと五分ほどで恐らく破られる。予定通り、僕は彼女らを連れて転移するね。終わったら念話。負傷しても、すぐ知らせて」

「わかった。ランスロットはどうする?」

「俺も残るわ。敵残り三人、そのうちリーダー格一人。H地点とN地点で騎士たちが足止めしてるけど、相当強いぞ」

「女性陣、サバイバル戦は中止だ。安全なところへ転移するから、集まってね」


「僕と戦いながら、ジルベルト様が他の何かを探ってるのはわかってたけど――――狙いは、うちの班の女性陣なのか?」


 フェルナンが、横から会話に入った。


「そうだよ。『本物の敵』が、彼女らのうち誰かを狙ってる。三人のうち誰かはわからない。君はどうする?」

「なら僕も、残って戦う……!!」

「フェルナン様!?大丈夫なんですか!?一体何がどうなって……!?」


 突然の状況変化で戸惑い、不安でいっぱいになったクロエが叫んだ。


「僕は大丈夫だから。クロエ、頼むから逃げて」


 フェルナンは優しく笑ってみせた。クロエは今にも泣きそうだ。

「とにかく従いましょう」と言ったリーナベルに肩を支えられて、クラウスの横に立った。


「ジル、私の魔術陣が必要になったら、ピアスに連絡して」

「リーナ、大丈夫だよ。必ず守るから」


 ジルベルトもまた、力強く笑ってみせた。

 リーナベルも不安でいっぱいだ。今回は知らないうちに、どれだけ守られていたのかわからない。本当に、大丈夫なのだろうか。

 でも、もう時間がないようだ。


 瞬間、向こう側から異質な気配を感じた。

 時間切れだ。恐らく結界が破られたのだ。

 詳しい情報がわからなくても、『本物の敵』がいるのだと、確かにわかった。


「じゃあ、行くよ!!」


 合図と共に景色がかき消えて、続けて何度も空間が捻れるのを感じる。相当遠くに転移しているのを感じた。

 ミレーヌは、不安そうにクラウスの服を掴んでいる。リーナベルは、震えるクロエを守るように抱き締めた。



 こうして、サバイバル戦は突然中止した。

 ――――そこからは、本当に命懸けの戦いが始まったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ