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4-6 学年対抗サバイバル戦

 ついに、一年対抗サバイバル戦の日がやって来た。


 学園は大々的に飾りつけられており、華やかだ。それにスカウトや見学人が、こぞって学園の闘技場に押しかけている。露店も沢山出ており、大規模なお祭りの雰囲気だ。

 学園の裏手にある森の中でサバイバル戦が行われるが、闘技場には魔術で映写するモニターがあり、決まったポイントは常に見られるようになっている。ここに映る場所で、自分の実力をアピールする者が多いだろう。

 来賓としては、王弟のアドリアンが来ていた。一番上の貴賓席で、微笑みながらゆったりと眺める姿には王族の威厳がある。彼はふだん芸術文化維持に務めているが、魔術にも造詣が深いらしい。


 クラウスと共に、彼に挨拶してきたミレーヌが、リーナベルにぽつりと呟いた。


「アドリアン様って、なんだか不思議な、甘いにおいがするのよね……」

「甘いにおい?何のにおいか分からないの?」

「そうなの。しかも夜会とか学園でも、どこかでそのにおいを嗅いだことがある気がして……思い出せないのが、すんごくモヤモヤするのよ〜!」

「すっかり警察犬みたいになってるわね、ミレーヌ……。まあ、一応クラウスには伝えておいた方がいいんじゃない?」

「そうね。あっ、でもクラウス、いなくなっちゃったのよ。今日のサバイバル戦出ないんだって!」

「えっ!?」


 リーナベルは仰天する。

 今日は学園の成績にも大きく関わるイベントだし、王太子として国民に実力をアピールする機会でもあるというのに。


「な〜んか……企んでる気がするのよね〜……」

「それは確かに……。最近コソコソしてるもんね。今日は、ジルは普通に出るみたいだったけど。あっ!そろそろ班分けが発表されそう!」


 担当の教師が前に立ち、大きな貼り紙を掲示し始めた。生徒たちがワッと集まる。

 今日のイベントはチーム戦だ。基本四〜五人前後のチームに分けられ、チームでの総合得点を争うのだ。


 魔術の実力が特に高い者は、集中しないように各班にバラけてリーダーとされる。成績優秀者枠だ。

 ジルベルトは間違いなく、その枠に入るだろう。

 さらに、リーダーがあまりに強すぎる場合は、ハンデとして班の人数が減ることもあるらしい。


 サバイバル戦のルールは次の通りだ。


 背中に魔力で付着させたバッジを奪い合い、班全体での総合獲得数を競う。バッジに触れると奪ったことになるので、とにかく背後を取られないように魔術を使って戦うのだ。

 既製の剣などの武器使用は不可。しかし、魔術は使い放題。何でもありだ。例えば土の剣を魔術で作り出して、振るうのはOKなのである。

 持っているバッジの数は胸の部分に浮かび上がった数字で表示される。最初に表示されている数は自分のバッジの分だけなので、「1」だ。バッジをたくさん獲得している者から奪うと、総取りが可能。例えば獲得数が「5」の人からバッジを奪うと、自分に獲得数「5」が加算される。ただ、獲得数が多い者はそれだけ強者であるため、奪いに行くリスクも高い。

 バッジが奪われてしまった者は脱落となり、相手のバッジを奪うことができなくなる。しかし、残ってチームメンバーの戦いを助けることは可能。相手のバッジが奪えなくなるだけで、魔術で敵への攻撃もできるのだ。

 そして、班全員のバッジが「0」になってしまうと、完全にリタイアとなる。その班は全員そこで終了だ。


 サバイバル戦というだけあって、噂ではかなり激しい戦いになるらしい。控え室には光魔術を使える神官がたくさん待機しており、リタイアして戻れば、軽度の欠損程度ならすぐに治癒してもらえるようになっている。

 時を操る光魔術は、時間を戻すことで欠損も治してしまえるのだ。

 そのため、相手の即死や致命傷を狙うような攻撃でなければ、基本的に何をしてもいいという恐ろしいルール。何とも魔術大国らしいイベントだ。

 リーナベルは風属性しか使えず、自分自身がしょぼくて頼りないため、正直かなりビビっている。


 ちなみに、レア属性である闇魔術と光魔術は使用禁止である。

 あまりにも有利すぎるので、ということらしい。

 まあ、闇を除いてもジルベルトは四属性に適性があり、常人でない戦闘技術を持つので、強者であることには間違いはないだろうが。


「ねえリーナ。そろそろ人がはけてきたから、班分けを見に行きましょうよ!」

「そうね。知り合いと一緒だとありがたいんだけど。……ん?なんか、やたらザワザワしてない?」

「何かあったのかなぁ?行こ行こ!」


 リーナベルはミレーヌと一緒に掲示を見に行った。そして班分けを見た瞬間、ざわつきの原因を知った。それは、一行目に書かれていた。




 A班 ジルベルト・オルレアン

               以上




「ジ……ジルが………………ぼっちだ…………!!!!」


 リーナベルの叫び声が、響き渡ってしまった。

 学園入学後の、初の大イベントで、一人班。

 …………ぼっちであった。


「ぶふーっ!!!ジ、ジル……!つ、強すぎて、ぼっち班になってる!!あはははっ」

「ちょっとミレーヌ!笑い事じゃないわよ!可哀想でしょうが!!」

「だって前代未聞じゃない!?1年のサバイバル戦で一人なんて、聞いたことないわ。だって一応、新入生の交流を深める目的もあるのに……!」

「そ、そうよね……。ジル、可哀想……」

「さ、さすが戦闘ゴリラだわ……ふふふっ!」

「ミレーヌ!もう!!」


 新入生の交流も兼ねたイベントで、ぼっちとは。

 可哀想すぎるジルベルトを励ましたかったが、先程から見当たらない。クラウスと一緒にいるのだろうか?

 いや、それよりもまず、自分の班を確認しなければ。リーナベルが思い直した瞬間、ミレーヌが驚いた声を出した。


「あっ!ちょっと、リーナ!私達一緒の班よ!!って、うわ……これはやばいメンバーだわ……」

「嘘…………えっ」


 二人はそのまま、その場で固まってしまった。



 ♦︎♢♦︎



「F班、集まったか?面倒だし、僕はもう敬語なしで行くからな。じゃあ各自、簡単に自己紹介と適性属性を。……一応、リーダーなんで、僕から」


 班での打ち合わせの時間がやってきた。

 先陣を切ったのはF班の成績優秀者枠、リーダーのフェルナンである。


「フェルナン・ルフェーブル。適性属性は火・水・風・土。魔力量は貴族男性平均の五倍相当。オリジナルの複合魔術が得意だ。はい次」

「ええと、リーナベル・ノワイエと言います。適性属性は風だけです……。すみません。魔力量は貴族女性平均の十倍もあるけど、多分あまり役に立ちません……。一応、身体強化は得意です。次どうぞ」

「はい!ミレーヌ・シャルタンです!適性属性は水と風です!!魔力量はとってもしょぼいですっ!!解毒と回復と、植物の成長促進だけは得意です!!次どうぞっ!!」

「は、はいっ!!クロエ・ベルナールと申します……っ!適性は土と光なんですが……今日は光は禁止なので、使えるのは土だけです……!魔力は平均です!ご、ごめんなさい……!ええっと、あの、土で!足止めが、できます!!」


 リーナベルは頭を抱えてしまった。

 ――申し訳ない……。さっきから眉間のシワが、ものすごいのだ。フェルナンの、眉間のシワが。


 リーナベルが入っていたのは、フェルナンが率いるF班であった。


 とりあえず、面子がカオスだ。攻略対象と、悪役令嬢二人と、ヒロインが全員ひとまとめってどういうこと?勿論ゲームでは、こんな展開はなかった。何者かの作為を感じる。

 そしてこの班、フェルナンへの負担があまりにも大きすぎる。女性メンバーが、揃いも揃ってへっぽこすぎるのだ。

 秘匿情報が多すぎて、ひたすらちょっと強めの身体強化しかできないリーナベル。二属性持っているミレーヌも、戦い向きの魔術はからっきしだ。そしてクロエはピカピカの初心者である上に、光魔術が封じられている。周りの他の班と比べても、明らかに戦力不足である。


 ゲームでのフェルナンルートは、比較的優秀なモブに囲まれて、ヒロインのクロエを全面的にフォローしながらイチャイチャしていた。しかしこんなメンバーでは、イチャイチャしている場合ではない。間違いなく、悪役令嬢が足を引っ張っている……。

 ――二人の恋路を邪魔して、これでは本当に悪役ではないか!


「フェルナン……!へっぽこでごめんなさい!」

「ごめんなさい!!!!」

「ごっ、ごめんなさいっ……!」


 女子三人は一斉に頭を下げた。ミレーヌのごめんなさいが、一番元気いっぱいであった。


「いや、別に謝ることないだろ」

「ええ……?でもフェルナン……すごいけど、顔。眉間のシワが。それはもう」

「は?いや?このメンバーでできることを考えてただけだけど……。僕、そんな顔やばかった?」

「うん。え……集中してただけ?」

「そうだよ」


 フェルナンはきょとんとしている。どうやら彼は、怒っていたわけではないらしい。


「……よし、作戦会議を始めるぞ」


 フェルナンは三人を見回して凛々しい顔つきになった。きちんとリーダーシップを取る気らしい。

 あの捻くれ者がこんなに前向きになるなんて、感動ものである。

 ――恋って本当に、すごい……。リーナベルはすぐに母モードになった。


「このメンバーは各自得意分野がはっきりしている。だからとにかく分業するぞ。リーナベル!」

「あ、はい!」

「全員に全力で身体強化をかけ続けろ。身体強化は戦いの要だ。魔術全体の出力が上がるし、僕らは他のことに集中できる。魔力量も一番多いし、あんたの魔術陣は最適化されてるから一番適任だ。任せたからね。次、ミレーヌ!」

「はいはい!」

「怪我をした者の回復と救護を担当して欲しい。あと、霧を起こすことはできるか?」

「霧は得意よ!いつも霧を起こして植物に水をやっているの」

「上出来。救護の必要のない時は、常時霧を起こし続けて敵の視界を塞いで。次、クロエ!」

「はっ、はい!」

「僕が教えた魔術陣はもう覚えたよね?泥と地割れを併用。泥で覆った後、硬度強化の付与魔術で敵の捕捉と足止め。あとは砂をぶつけて目潰し。難しければ、どれか一つに集中で良い」

「全部できるようになりました!フェルナン様が、いっぱい練習に付き合ってくれたから……!!大丈夫です。できます。頑張ります!!」


 クロエはやる気満々だ。フェルナンは、心底楽しそうにニヤリと笑った。


「各自、自分の役割に集中しながら、相手の隙をついてバッジを取りに行け。攻撃と守りは、全部僕に任せろ。とにかく相手を派手に攻撃し続けて隙を作る。同時に、相手を撹乱しながら防御する。ちゃんと守るから、君達は自分のバッジのことは気にせず動け。今日のために魔術陣をたくさん作ってきた。舐めてる奴らに……目に物を、見せてやる」


 頼もしい。頼もしすぎる。

 ――男の子の成長ってすごい……。

 リーナベルは感動のあまり、もはや目頭を押さえていた。


「いいか?掛け声、行くぞ!打倒、舐めてる奴ら!!打倒……A班!!打倒、ジルベルト・オルレアン!!打倒、恐怖の魔王ジルベルトっ!!!!」

「「おーー!!!!」」

「おー…………?」


 一瞬で涙の引っ込んだリーナベルは。ぽかんとした。


 ――ちょっと……ジル……。

 魔王認定、されてるわ……!!

 まるでラスボスよ……!?!?


 リーナベルは、いつも自分を守ってくれるその頼もしい背中を思い出しながら、青くなった。


 そして、同時に思い出してしまう。


 その魔王を生み出してしまったのは、他の誰でもない、己であると。

 魔術陣開発でジルベルトをチートキャラにして、挙げ句ぼっちにさせてしまったのは、まごう事なき己であると。


 ――ジル……なんか……なんか、ごめんなさい!!!


 リーナベルは心の中で推しに土下座した。



 ――――かくして。


 打倒魔王を掲げた、ツンデレ率いるチームへっぽこ女子。

 F班の、快進撃が始まったのであった。

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