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1-5 魔術陣の構築

説明回です。

 さて、事故が起こるのは雨の日だと判明している。本当は晴天の日でも毎日騎士団の鍛錬場に見学に行きたいくらいだが、それでは目的が果たせない。

そこで、夜の時間と、晴れの日の朝の時間は、暴走した魔術からジルベルトを守る手段の構築に費やすことにした。

 日中は基本的に令嬢教育を受ける。しかし、幸い前世で大学まで教育を受けた記憶がある。この世界で、しかも十一歳のリーナベルが修めるべき学問レベルならば楽勝だ。マナーとダンスに関してはもともと優秀で、既にほぼマスターしていた。

 結果を残せば、教育に充てられる時間を減らしていくことは可能かもしれないし、交渉の余地ありだ。


 ここで話は変わるが。

 リーナベルはゲームのように傲慢で我儘だったり、陰湿で残忍だったりはしないものの、以前から風変わりな令嬢であった。

 前世の影響だろうか、幼少時から魔術陣の構築に夢中になり、本や論文を読み漁っていたのである。

幼いリーナベルが書いた魔術陣を見た時、父親は顔を青くして、「これは内緒にしようね」と言った。

今にして思えば、それほどヤバい代物を作っていたのであろう。

 父はリーナベルが危険に晒されることを恐れて、内緒と言ったのだ。今ならその意味がわかってしまう。この世界と比べて、前世の学術レベルが高すぎたのだ。


 魔術の発動に必要な魔術陣は、魔法の発動のための計算式を幾何学的に表したものである。その効果と出力は、魔術陣がいかに計算され尽くしており、美しくつくられているかにかかっているのだ。


 リーナベルの前世は、数学科に在籍する大学四年生であり、奇しくも幾何学をこよなく愛するマニアだった。配属前から研究室に入り浸っていたし、それなりに才能もあったと思う。修士課程への進学が決まっており、将来は大学で研究を続けることを目指していたのである。

それ故に、魔術陣の研究はリーナベルにとって垂涎(すいぜん)ものであった。


 この世界では算術がそこまで発展しておらず、魔術陣の研究は主に経験則に基づいて行われているだけだった。前世の数学知識を応用すれば、魔術陣の発展の余地は無限大であったのだ。これぞ、リーナベルが有する前世チートである。

 つまり、無意識に幼い頃から前世チートを使って、ヤバいレベルの魔術陣を構築していたのだ。それを使わない手はない。

 この世にまだ存在しないほど強力な魔術陣を構築して、魔術の暴走からジルベルトを守るのが最善手であろう。


 ただし、リーナベルには問題があった。


 魔術には、人によって属性の適性がある。

 魔術陣を構築するだけなら勝手にいくらでもできる。ただしそれを実際の魔術として発動するには、その属性に対する適性が必要なのだ。


 悲しいことに、六つある属性のうち、リーナベルには風しか適性がなかった。

 風は重要な属性ではあるが、貴族ならほとんど適性を有しているものだ。圧倒的にしょぼい。

 そして、風の属性は防御に不向きである。


 その代わりと言っては何だが、リーナベルの魔力量は異常に多く、貴族令嬢の平均の十倍ほどあった。

 このためリーナベルは、王太子の婚約者候補で最有力だったのだ。魔力量が多い人間からは魔力量の多い子供が生まれやすい。貴族では重要視されることである。


 属性は火、水、風、土、光、闇の六つ。

 それぞれの属性には直接効果と付与効果がある。

例えば火の直接効果とは、火を実際に出すこと。そのままである。

 一方、付与効果とは人や物に対してその属性の魔術を使用した時に現れる効果で、例えば火なら、武器に付与すれば攻撃力増強、破壊力増強などの効果が現れる。


 風の属性は付与効果が豊富で、その点では優秀だ。

身体の機能を高めることによる身体強化、瞬間移動、それから自己治癒力を高める回復力促進などがある。中でも身体強化は、騎士には必須のスキルだ。数は少ないが、平民で風の適性を持っていればだいたい騎士を志すと言われるほどである。

 しかし、これらは魔術に対する防御手段としては全く使えないのだ。土属性なら防御力増強の効果があるのに……土属性に適性がないことを恨む。


 そして何より、風の属性は直接効果がしょぼい。使用する魔力量に対して、出力される風が弱いのだ。コストパフォーマンスが悪いとも言える。

一応風の刃を作ったり、暴風を起こして攻撃することはできるが、かなり無駄な魔力量を費やすことになる。


 ここまで話したことの例外として、魔道具を使えば、あらかじめ込められた他人の魔力を使用し、自分に適性のない属性の魔術を使用することができる。

 しかし魔道具に込められるのは、未だ生活レベルの魔術どまり。人々の生活を豊かにしているのは確かだが、戦闘での使用には向かない。大量の魔力を魔道具に込める技術がまだなく、実戦レベルに至っていないのだ。

 貴族令嬢として、万一襲われた時用に土壁を構築できる魔道具を、一応持ってはいる。だが、一度試しに発動してみて、人との距離を取る程度にしか使用できないことがわかった。

 魔道具にも当然魔術陣が刻まれているし、発展の余地はあるのだが、それを今すぐに実戦レベルに引き上げるのは無謀だろう。時間が足りなすぎる。


 というわけで、取れる手段は一つだ、とリーナベルは考えた。


 風魔法の直接効果――風の出力を限界まで上げる新しい魔術陣を構築し、この無駄に多い魔力量をつぎ込んで風の盾を作る。出力のゴリ押しで炎の上級魔法を相殺するのだ!

 散々論理立てて出たのは、なんだか脳筋な結論だった。


 ともかく方針も決まったので、急がなければ。


 論文と計算式、魔術陣の書き込まれた紙に囲まれて、リーナベルが四苦八苦する日々が始まった。

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