3-6 決死の捜索(※ジルベルトサイド)
ジルベルトは、リーナベルが事件に巻き込まれたことを確信した。
そこからの彼は、もう手段を問わなかった。
クラウスと騎士たちに念話で最低限を伝えた後、すぐにリーナベルの作った大規模魔術陣を発動する。
クラウスから何度も念話が届いたが、応答する時間も惜しかった。
こんな時、師であるルシフェルに頼りたかったが、あいにく彼はいま学会で、国外に行っている。
ジルベルトはすぐに、王宮全体を標的とする広域の同時盗聴を行った。後先考えないくらいに、出鱈目な魔力量を注いでいく。
怪しい者が、いるはずだ。
外部と会話している者。
不自然な場所にいる者。
心拍の乱れている者。
『ゲーム』でも、拉致の手引きをする内通者がいた。この日を念のため警戒し、何度も何度もクラウスとシナリオを確認していたから知っている。
尋常じゃない情報量を処理し、脳が焼き切れそうに熱くなるのがわかったが、構わなかった。
「――――――――いた」
瞬時に転移する。
この夜会時に、王宮でも人気のない場所から戻る足音をさせ、心拍を乱している女。
暗闇から女官の姿を確認し、その首筋にナイフを伝わらせた。
「お前だな」
「……ヒッ!!!」
女の身体が強張る。ミレーヌ付きの女官だった。きちんと身分のある、貴族の女だ。
「リーナをどこへやった、吐け」
「……っ」
「一刻も早く吐け――――死ぬより、惨たらしい、苦しみを味わいたくなければ…………」
結論を言うと、女官はクロだった。
玄人ではなかったため、少し脅したら間もなく引き渡しの場所を吐いた。
ただ、その場所が厄介だった。
『クラウス、ルンドラ港だ。移送手段は船だ!――――これから転移で向かって、その船を突き止める。念話で座標を送ったら、複数転移で騎士を送ってくれ』
一方的な念話を流す。
王太子本人にとんでもない無茶を言っているのは承知だが、彼ならやってくれると確信していた。
時は一刻を争っている。
船がもし国境付近に近づけば、国の防衛のための結界に阻まれて魔術が届かない。転移もできなくなるのだ。
港は遠く、何度も転移を繰り返さなければならなかった。かなりの時間がかかる。間違いなく、敵方に闇魔術の使用者がいるはずだ。
ただし、座標の不安定な海上に直接転移するのはリスクがあまりにも高い。犯人ならばもっと着実な手段を取るだろう。船が接岸しているうちに、船内へリーナベルを運び込んだはずだ。
辿り着いた港でまた広域盗聴を繰り返したが、手がかりが得られない。港が広く船の数が多すぎる。
その時、ピアスにリーナベルの危機を知らせる合図が届いた。
――――リーナが、危機に陥っている。
ジルベルトは急速に身体が冷えるのを感じた。
必ず駆けつけると約束したのに。
早くしなければ。
早く。
リーナ。
リーナ!!
藁にもすがる思いで、自分の魔力の気配を追う。
魔力の気配は、当然だが――――自分のものが、最も感知しやすい。
リーナベルには、今日会った時に馬車で少量だけ、ジルベルトの魔力を流していた。
こんなことに、なるなら。
躊躇っている場合ではなかった。
自分の欲が知られようと軽蔑されようと、何だろうと良かった。
意地にならずに、気持ちを話しておけば。
彼女の安全だけを、第一に考えておけば。
リーナ!!!
ジルベルトが最大限に神経を研ぎ澄ませた時――――かすかに、自分の魔力の気配がした。
瞬時に、それめがけて転移する。
海に落ちようがなんだろうが構わない。リスクに構っている場合ではない。
飛んだ先は暗闇。
船の中だった。
どさりと転げ落ちるようにして、床に投げられる。
魔術上での座標を念話で飛ばした。クラウスならこれでわかるはずだ。
もう一度盗聴を行う。
膨大な音声に集中していると、ある時、知っている声がした。
――――自分がその声を、聞き間違えるはずがない。
「リーナ!!!」
近くに転移する。もう一度クラウスへ、投げつけるように座標を飛ばしておいた。壁に耳を当てると、部屋の中、向こう側にリーナベルがいるのがわかった。
いた!
いた!!リーナだ!!
ジルベルトは強化した剣をがむしゃらに振りかぶり、壁を破壊した。
しかし、そこで見た景色は。
――――彼の理性を全て吹き飛ばすには、十分なものだった。




