3-4 悪役令嬢の危機
※女性が乱暴されそうになる描写があります。
リーナベルは、とても暗い場所でゆっくりと目を覚ました。
その瞬間、自分の状況を思い出してサッと血の気が引いた。
すぐに魔道具のピアスに魔力を流し、ジルベルトに危機を知らせるサインを送る。
一体どのくらいの時間、昏倒させられていたのかわからない。
かなりの時間をロスしてしまった可能性がある。
どうやら両手両足は縄でギチギチに縛られており、口には布がはめられていた。
完全に、拉致である。
よく見ると左手首に、腕輪のようなものがついていた。何かの魔道具だろうか?
試しに魔術陣を発動しようとしたが、不可能だった。魔術陣封じの魔道具なのかもしれない。
魔力自体は封じられていないため、ピアスは使用できたのが、せめてもの救いだろうか。
ゲームでも、王宮の夜会でヒロインが拉致される『イベント』があった。ミレーヌが狙われると思っていたため、自分への警戒を怠ってしまったのだ。
前もって『イベント』を警戒していたのに、これでは大失態だ。完全に自分の不注意である。
どうみても良くない状況に心が竦み上がるが、少しでも情報を集めるしかない。
時間が経つほどに状況は悪くなるだろう。
リーナベルはずりずりと這いずって動き始めた。
暗い、狭めの室内だ。隣の部屋と小さな窓が繋がっており、そこから薄い光が漏れていた。
小さな話し声が聞こえる。犯人グループがあそこにいて見張っているらしい。
外に耳を澄ますと、海の音がした。
恐らく船内だと思われた。ここは貨物室のような場所らしい。
王都は海に面していないので、王宮からはかなり長距離離されてしまったことになる。
それほど長く昏倒していたのか、転移などで連れて来られたのか、わからない。
ゲームでの、王宮の夜会における拉致イベントは、魔術師のフェルナンルートだった。ただし、あれは馬車で連れ去られていたと思う。
標的は、もちろんヒロインだった。彼女の光魔術の有用性を狙われて、拐かされるのだ。隣国が関与していたと、あとで文章の説明があったはず。
今回共通点があるのかは不明だが、頭に入れておく。
リーナベルは身体を引きずりながら、そっと窓に近づいた。気づかれないように覗き込む。
そこには四〜五人の男がいた。中年のガタイの良い大男と、ローブで身体全体を覆った細い男が中心となって話している。
ローブの男は魔術師のように見える。彼だけ存在が、どこか異質だった。耳を澄ますと、彼は隣国であるローニュ帝国訛りの言葉を話していた。
そっと観察していると、すぐにローブの男に気づかれてしまった。おそらく気配察知の魔術だ。やはり魔術師らしい。
ガタイの良い大男がこちらを振り向いて、下卑た笑いを浮かべた。
ガン!と大きな音がしてドアが開いた。
大柄な男が入ってくる。厭らしい笑いをニヤニヤ浮かべていた。
「お目覚めかい、貴族のお姫さんよォ?おい、こいつぁ上玉だなァ!ハッ、俺は役得だぜ!!」
「――――っ!!」
「可哀想になァ〜、お姫さんはこれから知らない土地で、奴隷のように使われんだぜ?まあ、その前に天国見せてやるから、安心しなァ、ヒヒッ!」
「おい、あんま喋り過ぎんな」
「ウルッセェなア!!」
「あとで俺たちにも順番回せよ!」
リーナベルは、全身の肌が一気にあわだつのを感じた。
この男たちで――――私を犯す気だ。
もつれながら何とか男から距離を取ろうとするが、手足が縛られているので敵わない。
魔術も使えない。手詰まりだ。
「おっとォ」
ガンッ!!
その瞬間、男に思い切り押された。
リーナベルはそのまま床に倒れ込む。
顔が床にぶつかって口が切れた。
あつい。
鉄の味がする。
「逃げんなよォ?雇い主はアンタの"令嬢としての価値をなくしておけ"と仰せなんでね」
そのまま床に首を押さえつけられた。
怖い。
どうしたらいいの。
わからない。
助けて。
助けて、ジル。
「声も出せねぇとこっちが楽しめねェな」
口に巻かれていた布を乱暴に掴まれてナイフで切られ、ゴホゴホと咽せこんだ。
「ゲホッガホッ……――――離して!!」
「おっと、無駄な抵抗すんじゃねェぞ」
ナイフを首に押し当てられてヒヤリとした。
身体が恐怖でガクガク震えるが、キッと睨み返す。
「楽しもうぜ?」
下卑た嫌らしい笑みがこちらを見下ろしている。
無理やり組み敷かれて肩を押さえられた。
口に汚い親指を突っ込まれ、ぐちゃりと動かされる。
鳥肌が、止まらない。
ゾワゾワする。
気持ち悪い。
気持ち悪い!!!
「止めて!!」
男は大声で笑いながら、リーナベルの服を下着ごと引き裂いた。
ジタバタと身を捩って逃げようとするが叶わない。
再度床に押さえつけられた。
「嫌!!!止めてっ!!!」
嫌だ。
怖い。
怖い。
気持ち悪い。
助けて。
助けて。
ジル。
ジル!!
太い手が彼女の胸に触れようとした――――その瞬間だった、
ドン!!!!
爆音と共に、前方の壁『全部』が、吹き飛んだ"。
「おい――――」
そこに、いたのは。
「その 汚い手を 離せ」
琥珀色の瞳を爛々と光らせて、怒り狂う獣だった。




