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1-11 魔力暴走事故

「うわああ!!」

「退避しろ!暴走してる!!!」


 鍛錬場の向こうのほうから、突然悲鳴が響き渡った。

 悲鳴のした方角を素早く見ると、遠くで退避する騎士たちと、恐ろしいものが見えた。

 激しく燃え盛る炎が波打って、意志を持った生き物のように暴れている。


 龍だ。

 十メートルはあろうかという大きさの、炎の龍だった。

 それはうねりながら、めちゃくちゃな軌道を辿って鍛錬場内を蹂躙している。暴走する魔力により大きな砂塵が立ち込めて、視界が一気に悪化していく。


 リーナベルはすぐさま風魔法を自身にかけた後、三次元魔術陣を描き始めた。

 しかしその一瞬の間に、炎の龍は信じられない速度でジルベルトたちの方角へ向かって突進してきた――――速すぎる!!

 騎士たちは次々に防御壁を張って回避していったが、一人の騎士見習いの回避が間に合わず、炎の先がその身体をかすっていった。


「ああああ!!!!」


 彼は倒れ込む。かすっただけで相当な火傷を負っている。ジルベルトはすぐに彼の元へ転移し、身動きできない彼を庇うように構えた。一度は通り過ぎた龍が軌道を変え、すぐさま彼らの方に舞い戻って来る。ジルベルトは瞬時に巨大な土の防御壁を展開した。龍がそれに激突し、金属が削れるような不協和音が鳴り響く。防御壁はみるみるうちに削れ、今にも崩れ落ちる寸前となった。

 リーナベルの、三次元魔術陣が完成するまでにかかる時間は、約七秒。まさにギリギリのタイミングだった。魔力で魔術陣を描いている間は、瞬間移動が使えない。これでは彼を庇って死ぬこともできない。


 ――――間に合え!間に合え!!


 必死に魔力を込めて巨大な魔術陣を描き切ったと同時に、リーナベルはジルベルトの前に躍り出た。


「リーナベル嬢!?」


 背後から驚愕したジルベルトの声が聞こえる。


 ――――間に合った!

 大丈夫。私が絶対に助ける!!


 土の防御壁が瓦解した瞬間に、三次元魔術陣を起動する。圧縮された巨大な暴風が炎の龍に突撃した。魔術と魔術がぶつかり合う。威力が拮抗し合っている。


 ジルベルトがどうなったのか全くわからない。巨大な魔術同士がぶつかり合う轟音で何も聞こえない。後ろを振り返る余裕なんて、微塵もなかった。


 魔力を込める手の皮膚がブチブチと破れ、血が吹き出すのがわかった。

 それでも手は緩めない。

 炎の魔術の威力が、想定していたものより遥かに強い。暴走した結果なのか、論文にあった上級魔術の最大出力を大幅に上回っていた。

 今は足止めできているが、こちらももっと出力を上げなければジリ貧だ。このままの状態を続ければリーナベルの魔力の限界が先に来てしまう。

 リーナベルは全身の魔力を絞り出すように練り出した。


 ――――もっと、もっと、もっとよ!!!


 出し切った魔力を、一滴残らず、一気に魔術陣にぶち込む。瞳孔が開き、青い目が爛々と光った。


 ――――飲み込め!!!!!


 瞬間、爆音が響き渡り、暴風が爆発的に膨らみ上がった。炎の竜を頭から飲み込んでいく。

 突進する炎がみるみるうちに暴風の中に消えていった。そして炎が消えたとほぼ同時に、暴風もフツリと消えてしまった。


 気づけば、底無しだと思っていた自分の魔力がもうなかった。

 辺りに静寂が満ちる。


 ……私、ちゃんと、できた…?


 傷だらけのリーナベルの視界はもう定まっていない。足に力が入らない。自分の身体じゃないみたいだ。意識が朦朧とする。

 

 これが、魔力枯渇か。

 ――――ああ、私、死ぬんだ…。


「リーナベル!!」


 瞬間、逞しい腕に支えられた。心地よい香りに包まれる。あたたかくて、安心する。

 もう目は見えなかったけれど、それが誰かなんてすぐにわかった。


 ――――よかった…。


 貴方を助けられてよかった。

 ずっとそれだけが願いだった。

 嬉しい。

 嬉しい。

 私はどうなっても良かったの。

 死んでも良かったの。

 最初からずっと、そのつもりだった。


 リーナベルは急速に遠ざかる意識の中で、精一杯微笑んでみせた。


「ジルベルトさま…たすけられて、よかった……」


 リーナベルの世界は、そのまま暗転してしまった。

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