1-1 推しとの遭遇
【コミカライズ企画進行中!!】
ムーンライトノベルズで連載終了している作品に新規エピソードを盛り込み、大幅に加筆修正して更新して参ります。こちらは全年齢作品です。
毎日19時に定時更新を行いますので、初めましての方も含めて宜しくお願い致します。
――――――あ、推しだわ!!!!
侯爵令嬢リーナベル・ノワイエはその人を見た瞬間、頭に誰かの声が鳴り響き、世界がひっくり返ったような衝撃を受けた。
その人とは今日、婚約者候補として顔合わせをしにきた麗しの王太子………………ではなく。
その横に物静かに控える、護衛の騎士であった。
リーナベルの目は、黒髪の彼だけに釘付けとなっていた。
金髪の王太子の方は、最早モブのようにぼやけていた。
というか、ぶっちゃけ目に入ってもいなかった。
――推しが、推しが生きている!!なんて素敵なの!!!
また声が響く。リーナベルはただただ混乱した。『推し』って何?私、どうしてしまったの……?殿下の御前なのに。固まっている場合では、ないのに。ああでも。彼はなんて素敵なんだろう……。
リーナベルの頭は突然、響き渡る声と、入り込んでくる『推し』という情報と、そして自分の知らない記憶とで混濁し始めた。でもとにかく目の前の彼が素敵なことだけはわかるので、ぐらぐらする頭を抱えながらも目は釘付けなままだ。
――ジルベルト様だわ。まだお怪我をされる前のレアスチルだわ!なんて格好いいの!!!
声が響き続ける。『ジルベルト様』……?彼は、ジルベルト様と言うのかしら?
どうして私は、彼の名前を知っているのかしら?
ああ、何だか意識が朦朧としてきた。
頭が痛い。割れるようだ。灼けていくようだ。
世界が崩れていく。足元から崩れていく。
――あ、倒れる。
「大丈夫ですか!?」
大きくよろめいた途端、今まで釘付けになっていたその彼の、逞しい身体に包み込まれるように支えられた。
――声までいいわ。完璧だわ。さすがだわ。ていうかやばい!!!私、いま推しに触れてない!?!?
ふわりと柑橘系の心地良い香りがする。
頭の痛みを堪えて、何とかよろよろと顔を上げると、その人と目があった。
きらめくような琥珀色の瞳は切れ長で。夜空のような漆黒の髪はさらりと顔に落ちかかっており、その影までも美しい。すっと通った鼻梁、うすいくちびる。無駄など一切ない、美しい頬のライン。長い髪を後ろで束ね、禁欲的な蒼の騎士服を纏っている。距離をあけて見た時は、無骨すぎずすらりとした印象が強かったけれど。いま触れている部分からは、その下にあるしなやかな筋肉を感じる。
心臓が大きく脈打った。全身の血がドクドクと鳴っているように錯覚する。
その人と目があったまま、リーナベルはあまりの素敵さに思い切り、"にやけた"。
貴族令嬢にあるまじき、ふにゃりと緩んだ顔だったに違いない。
「すき……………」
その言葉を最後に、リーナベルの意識は途切れた。