死にゆく君へのメッセージ
強い死の描写があります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。
僕の側には死神がついている。
青白い顔でジッと見つめている。
死神は黙って僕が眠りにつくのを待っている。
真っ暗な部屋。
ここに閉じ込められて、どれくらい経ったのだろうか。
死神が側に佇むまで、一滴の水すら飲んでいない。
助けは……来ないだろう。
僕の事に気がついてくれる唯一の人とは、別れたばかりだったから。
────絶望の檻。
孤独がこんなにも辛く感じたのは、君と出会ったからだ。
君がいなくなって初めて、僕は大切な存在だと思い知らされたんだ。
闇がどんどん深まっていく。
そして佇む死神の瞳が、赤い輝きを増してゆく。
────後悔の淵。
こんな事になるなら別れる前に「ありがとう」 と、素直に感謝を伝えるべきだった。
もう遅い。
もう間に合わない。
もう僕の生命の灯火は、暗闇の中に消えようとしている。
揺らめくように動き出す死神。
手に持つ死神の鎌を振るう前に、伝えてもらえないだろうか。
怒鳴ってごめん、僕は……と。
────僕は死んだ。
────僕は死んだはずだ。
────死神の赤い瞳が僕を見つめている。
そうか……死にゆく僕のために、神様として死神は応えてくれたのか。
────僕は望んだ。
冥土の土産にひとつだけ持って行けるものを。
僕は────迷わずに決めた。
死神は僕の伝言を届けてくれたようだ。
絶望も後悔も消え、心残りはない。
これで────いいんだ。
他の誰にもやりたくない。
たとえ……僕の事など、とっくに忘れていたとしても。
僕の気持ちは、きっと届く。
さあ、死神よ僕を黄泉路へと案内してくれ。
僕が望んだのは────
────彼女が生きること。
僕が冥土へと持ってゆくのは、彼女の死。
死にゆく僕が、死にゆく彼女の死を道連れに旅立つ。
僕の気持ちは、きっと届く。
僕が彼女へ送る最後の伝言は「生きて」 だった。
僕の気持ちは────必ず届く。
優しい死神が僕の望みを叶えたのだから、間違いない。
死にゆく僕の心臓は、病床の彼女へと届いたことだろう。
僕の側には死神がついている。
絶望の檻は漆黒の闇の中へと溶けて消えた。
怒鳴ってごめん。
死ぬ間際になって、初めて僕は君が感じていた恐怖を知る事が出来たよ。
僕は自分が間違っていたと気付けて……幸せだ。
今度は間違えないよ。
だから君は生きるんだ────
────僕の事は忘れて幸せになるんだ。
真っ暗な部屋。
そこに僕はもういない。
絶望の檻から助けてくれたのは、僕と彼女の「死」 だ。
僕は死んだ────
────僕は満足だった。
お読みいただきありがとうございます。公式企画作品6作品目となります。
今回はメッセージ性の形を変えてみました。推理に関しては文章を読み進めていく中で、自然に考えていただけたのならいいなと思いました。
今までの投稿作品とはテイストを変えて、少し詩的な感じで仕上げてみました。