表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

今と過去と冷たい雨

 どうやら出迎えてくれた女性は、佐藤マリさんのお姉さん『佐藤麗華れいか』らしく、楓の通っている個別指導塾の先生らしかった。


 麗華れいかさんに招かれて、マリさんの部屋に訪れるとマリさんはマスクをして、上下セットの水色パジャマを着ていた。ベットの上で背筋を少し曲げ、背もたれに寄り掛かりながら、中間テストの勉強のために日本史の教科書を読んでいた。

 マリさんは俺が来ているのに少し驚いているようだった。

 麗華さんと比較すると、身長は160後半といった所。

 マリが茶色がかった黒のロング。

 れいかが透き通った黒のロング。

 うちの高校は、染めるの駄目だからお姉さんが染めているのだろう。


「わたしと同い年の妹がいるって言ってたからさあ。もしかしてっと思ってたけど、佐藤って苗字だからね確信持てなくて」

「そうだね佐藤多すぎるもんね」

「お姉さんって大学何年生だったけ」

「一応、2年生。休学してたんだって、姉さんは体あんまり強くなくて」

「そうなんだぁ」


 世間話を終え、楓が風邪の調子はどうかと聞く。

「うん、熱下がってるし。あとは咳だけなんで。2人に移しちゃうと悪いから……」

「あー、だいじょぶだいじょぶ。ここには馬鹿しかいないから。特にコイツなんて」


 庇うのは否定しないし、すべきことだとは思うが、何故にコイツは誰かを庇うのに俺すらも否定するんだろうか。


「果物持ってきたから、あとで食べよう!」

「うん!『後で』で良いけど、今日のノート撮らして」

「良いよ」


 俺は会話の世界から外れると、暇をつぶす為に部屋を見渡す。

 今になって『女子の部屋って初めて入るな』と思った。よくアニメに出てくる女子の部屋のように、ピンクで埋め尽くされたファンシーな部屋という訳ではなく、白を基調にしたシンプルな部屋――中央に脚の低い木製テーブル、テーブルの下にはクッション、出入り口側の壁には本棚と学習机、出入り口と向かい壁にはベッド――には紅2点、ベッドにいる大きなクマのぬいぐるみと、ベッドの左横に貼ってあるファンダイクのポスター。

 ファンダイク!? 

 サラーとかじゃなくて、ファンダイク!?

 いや良い選手だし、日本人と同じチームの時も多いけど。サッカー少年か何かか?確か、剣道部だったよな?


 会話の渦から完全に抜けていて、『コイツ、何しに来たんだ』と思われるのはしゃくなので、コチラから話を振ってみる。


「リバプールすきなの?」

 マリさんは少しだけ驚き、目を見開き、顔を紅潮させて「うん」と答えた。

「家族のだれか好きなの?」と聞くと、「そういう訳ではないけどー」とハッキリしない答えが返ってきた。

 会話に参加せず傍観していた、俺と向かい側の位置、マイさんのベッド側に座っている楓が、イタズラな笑みで何かをボソッと呟く。すると、見るからにマイさんの顔が茹で上がった様に真っ赤になっていく。その様子を楓は何かニヤニヤ笑っている。


 話を換えるように、珍しくマリさんが話を切り出す。


「なんで、栗林くん、高校ではサッカー部入らなかったんですか?」と顔の赤みが徐々に取れ出し始めたマリさんが質問する。

 珍しく楓が、ばつを悪そうな顔して下を向く。

「それは……。飽きちゃったからかな」


 今になって《《目的》》を思い出す。


 俺はマリさんに、前岡から仰せつかった、プリント提出について話すと直ぐにプリントをもらえた。足早に用件を済まそうとして学校へ向かおうと席を外すが、何故か楓に外で待ってるように命令された。

 

 玄関のドアを開けて、空模様を確認する。

 

 曇り空だった空は、さっきの物寂しそうだった楓の機嫌と呼応して雨をふらしていた。冷えた外で律義に命令を守っていた。5分くらいして、楓は玄関のドアを開け、門扉を開け、外に出てくる。傘でも借りたのだろうか。


 冷たい雨は非情にも降り注ぎ、行きとは違い、横に2人揃って歩いていく。


「あの娘、知らなかったのよ。アンタがなんでサッカー辞めたか」

「いや、どうでも良いことだよ」


 本当は少しだけ辛かったが、言わないことにした。


「ほんとうに悪気ないのよ。許してやって……」

「なんで、お前が謝るんだよ」

「いや、特に理由はないけど。……脚が」


 いつもの尖った態度は抑え目になっていた。妙に神妙で停滞した空気を感じたので。


 いや違う、話を続けさせない為に話の腰を折るように。


「どうせ、いつものお前の方が1億倍くらい酷いこと言ってるから、お前が気にするような話じゃないよ」と慣れない、人を庇うようなジョークでさえぎった。


「なによ、それ……」とやっぱり、いつもと違うテンションで楓は話をやめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ