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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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ドッペルゲンガーとお弁当を

 空だけは綺麗に晴れている。雲はふんわりと綿菓子のよう。風も心地よく、いいお天気。


「はぁ」


 それなのに、笹木杏の顔は曇っていた。校舎裏で一人で弁当を食べていたが、見上げた空に余計に憂鬱になってきた。


 いわゆるぼっち飯だ。杏は去年からいじめにあっている為、教室で弁当を食べられなかった。


 せっかく母が杏の好物の唐揚げや海老フライを入れてくれているのに、味がしない。石でも舐めている気分だ。


 いじめのきっかけは些細なことだった。杏のSNSが人気になってしまい、調子に乗っているとか、自慢しているとか根も葉もない噂をたてられ、いじめに発展。SNSにも誹謗中傷が多く、もう辞めたいぐらい。いじめっ子も嫌い。味方してくれない先生も嫌い。誹謗中傷してくるフォロワーも嫌い。


「そうだよ、杏は悪くない」

「は?」


 顔を上げると「自分」がいた。驚いた。もっていたフォークも落としそうになる。


 顔も声も髪型も全部「自分」だった。制服の着方も同じ。その上、母が作った弁当も横取りし「美味しいわ」と笑顔。どう見ても「自分」だが、どういうことだろう。ドッペルゲンガーという存在かもしれないが、今のところ、杏は死んではいない。


 とはいえ「自分」はよく知っている。これ以上馴染みのある人物はいない。


「そうだよ。私は悪くない。いじめっ子連中大嫌い」


 おかげで愚痴がこぼれた。


「でしょう。あんな奴らいなくなればいい。杏は悪くない」

「そうだよね!」


 ということで愚痴、悪口で盛り上がった。「自分」ともすっかり仲良しになってしまい、毎日校舎裏で弁当を分けっていた。


「唐揚げは一個ずつだよ」

「いいじゃん、私に二個よこせ」


 なぜか「自分」の要求はエスカレートしていき、性格も悪くなってきた。目の色も暗く、言葉遣いも乱暴だ。


「この弁当は私のもの」

「はー?」


 そして「自分」は弁当を横取りし、食い尽くしてしまう。特に唐揚げの咀嚼音が耳につく。


「私は悪くない。いじめっ子が悪い。SNSが悪い。社会が悪い。政治が悪いんだ」


 開き直り、弁当をがっつく「自分」を見ながら、違和感を持ち始めた。まるで醜い心を見せられているみたい。


「私は悪くない!」

「本当?」


 つい反論してしまった。


「全部、誰かが悪い? 言い訳していない?」


 本当の敵はいじめっ子ではないかもしれない。こんな風に正当化している「自分」の心が敵なのかもしれない。


 実際、「自分」と愚痴や悪口を言い合っていても、何も解決していなかった。傷を舐め合っているだけ。目の前に見える景色が、どんどんくすんでいく。


「う、うるさい!」


 その瞬間だった。「自分」はギャーギャー騒ぎながら、煙のように消えてしまった。


 その日から校舎裏で弁当を食べるのはやめた。教室で食べている。


 いじめは相変わらず解決していないが、本当に自分が悪くないのなら、堂々としていればいい。


 いじめっ子に陰口を言われても無視し、背筋を伸ばし、笑顔で母が作った弁当を広げる。


 それにクラスメイトの全員がいじめに加担している訳でもないと気づいた。学級委員や副委員はこっそりパンやジュースをくれたこともあった。副担任には相談ものってくれていた。母も毎日弁当を作ってくれている。


 よくよく教室を見渡せばぼっちで弁当を食べてる子もいる。


「ね、一緒にお弁当食べる?」


 気づくと、そんな子に声をかけていた。


 もう「自分」とお弁当を食べる日は来ないだろう。不思議と寂しくない。二度と「自分」に会えなくても、悪くない気がしてた。

 

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