ドッペルゲンガーと昼食を
いつも昼食は適当だ。在宅でWEBデザインの仕事をしているし、小学生の子供もいる。手を抜かない方が無理だ。
石塚トモミはパックご飯を温めると、卵と醤油を落とし、がっとかき込む。食べるというよりは飲むという感じだったが、午後からもずっと仕事。今も仕事、家事、教育、住宅ローンのことなどで頭がいっぱいだ。
「ご馳走さま」
そう言った瞬間だった。家に不法侵入者がいた。
「は?」
トモミの目は大きくなる。果たして不法侵入者と表現していいか不明だったなら。ドッペルゲンガーといった方がいいかもしれない。彼女はトモミとそっくりだった。
シャツにジーンズ、軽くまとめた髪も同じ。その上、この家の間取りも把握し、図々しくトイレまで借り、飼い猫のフウコの背中まで撫でている。人見知りしやすいフウコが彼女に気を許している。
「ということは、あなたは私!?」
「そうだよ」
「なんで? ドッペルゲンガー? なんで、ここへ?」
自分が目の前にいるのは妙な感覚だったが、彼女は目を釣り上げていた。
「ちゃんと昼ごはん食べてよ! 自分のことも優先して!」
「ミャー!」
なぜかフウコも同意している。意味がわからないが、彼女はキッチンにたち、昼ごはんを作りなおしてくれた。それはナポリタンだった。冷蔵庫の中にある食材で作れる料理だが。
「食べよう、トモミ!」
「ミャー、ミャー!」
なぜか押し付けられたが、トマトケチャップと焦げたソーセージの匂いに逆らえず、フォークを握ってしまった。
色も綺麗だ。ソースのオレンジ色とピーマンの緑、それに粉チーズの白が美しい。
「いただきます」
一口食べると、トマトケチャップの甘さが広がる。ちょっと焦げた部分が苦く、それも案外後を引き、気づいたら完食してしまった。
「自分だけど、私って料理うまいよな」
「でしょう? 自分の為にも料理しなよ!」
なぜか彼女は怒りながら、一緒にナポリタンを食べた。
「美味しかった。ありがとう」
そう言うと、彼女は無言になり俯く。明らかに怒っていたが、少し悲しい目をしてた。
そうか、思えば家族に料理を作っても「当たり前」とされ、お礼を言われたことはなかった。
「そんな、お礼とか今更だからね!」
口を尖らせ、文句を言っている彼女を見ていたら、本当は誰かからお礼や感謝をして貰いたかったのかもしれない。
家族のためだからと、自分を後回しにしたものは無数とある。それで納得していたが、ただ一言だけ「ありがとう」さえれあば心は救われたのかもしれない。
「ありがとう。いつもありがとう。あなたがいてくれて嬉しいよ。助かってるよ」
「うっ……」
彼女は一瞬、泣き出しそうな顔を見せ、消えていった。残っているのは空っぽのナポリタンの皿だけ。
「ミャー?」
フウコの鳴き声が響く。この声もどこか寂しげだった。
その後、トモミは相変わらず仕事や家事で忙しくしていた。家族からもお礼や感謝もなく、ただ「当たり前」の風景として流れていく。
「あー、忙しい」
午前中の仕事が終わり、昼ごはんを食べることにした。パックご飯は辞めた。冷蔵庫の余り物でナポリタンを作った。
キッチンにケチャップとソーセージの焦げる匂いが広がっていく。その匂いだけでも美味しそう。
「うん、この出来栄えは良さそう。たまには自画自賛してもいいよね?」
「ミャー?」
フウコの鳴き声が響いていた。




