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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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ドッペルゲンガーと朝食を

 毎朝五時に起きる。顔を洗ったら、ヨガと瞑想で心を整え、風呂に入った後は鏡の前でアファメーションをしていた。


「私は私を愛しています。私はすごい。私はなんでもできる。私は素敵」


 そう唱えると、ぎゅっと自分で自分を抱きしめていた。


 これが佐藤紗代の毎朝のルーティンだった。アファメーションというのは、ポジティブな言葉を言うことで前向きになる効果があるものだ。主に自己啓発やスピリチュアル界隈で広められているメソッドだ。


 そう、紗代は自己啓発が好きだった。スピリチュアルにはそんなにハマっていないが、瞑想や引き寄せの法則の知識もあった。


 そんな紗代は転職エージェントの会社でカウンセリングの仕事をしており、時々、キャリア失敗組の相談も請け負っていた。クライアントの前では決して言えないが、彼らを見ていたら、危機感をもち、意識が高くなってしまった。


 この朝のルーティンが終わったら、会社の近くのカフェでビジネスや資格の勉強もする予定だ。


「さあ、メイクして出社しよ!」


 そして会社に出かけた。


 早朝の電車は比較的すいている。部活と思われる学生も多いが、満員電車よりは楽。運がよければ座れる。今日も電車に乗れることを感謝!」とボジティブ思考を無理矢理作る。本当は目の前で電車の座席を取られ、少しイラッとしたが。ヘルプマークをつけている人を押しのけている高校生も見えたが、常にポジティブ思考でいなければ。そう自分を律し、会社の近くのカフェへ。


 ここはビジネス街のためか、紗代と同じく仕事や勉強をしている人も多い。一応チェーン店の安めのカフェだが、しんと静かで店内BGMが耳につくぐらいだったが。


「は?」


 いつものお気に入りの隅の方の席に向かうと驚いた。注文したコーヒーやサンドイッチを落としそうになるぐらい。


 その席には自分そっくりの女がいたから。髪も明るい栗色、服もコンサバ系でまとめ、バッグや靴も似たようなコーディネート。単なるそっくりさんとは言いがたい。


「あなた、私?」


 思わず声をかけてしまった。彼女は頷く。


「ま、座ったら?」


 戸惑いつつも、彼女の正面に座る。服装だけでなく、顔だちも声もそっくり。これはドッペルゲンガーか。確かスピリチュアル界隈でも聞いたことがあったが、わからない。そっくりさんが揶揄いに来た可能性も否定できない。


「美味しいわ」


 彼女はホットケーキを食べていた。トッピングのクリームも入道雲のようにモコモコ。彼女は口元をベタベタさせながら、子供のように食べてる。


「太るから。そんなもん、食べるのやめてくれない?」


 もしドッペルゲンガーだとしたら、なぜこんなハイカロリーで健康に悪いものを食べているんだろう。解せない。紗代はもうそう言ったものは食べていない。確かに昔は好きだったが。


「いいじゃない。はは」


 しかも彼女はそういうと、カバンから漫画を取り出して読み始めた。悪役令嬢の漫画だった。キラキラ系の表紙が目立つ。


 本当に解せない。これも紗代が昔好きだったものだが、今はビジネス書や資格の本ばかり読んでいた。実際、紗代はカバンから習慣化のコツをまとめたビジネス書を取り出し読んでいたが、やっぱり解せない。彼女はどういうつもりでハイカロリーなホットケーキを食べ、悪役令嬢の漫画を読んでいるんだろう?


「紗代、そんなさ、自分で自分を愛さなくていいから」


 彼女は悪役令嬢の漫画を読み終えると、紗代の目を見つめて言う。


「セルフラブ、自己肯定感、自分を愛するって見返り求めているだけじゃん」


 紗代は何も言い返せない。実際、そうだった。意識を高く、何度も自分を愛するというアファメーションを言っていたが、自己啓発の本ではそうすると上手くいくと書いてあったからだ。自分を愛して金持ちになったり、成功する人も多いらしい。彼女の指摘は図星だった。


「それって取り引きじゃん? 本当に愛か? っていうか本当はみんな自分のこと大好きだよ。電車で目の前の席があいたら、真っ先に自分だけ座るでしょ?」


 彼女の問いには何の反論もできなかった。


 その後、毎朝、彼女とカフェで食事をするようになった。特に約束したわけでもないが、毎朝、カフェの同じ席に彼女がいた。


 毎朝、ハイカロリーなホットケーキと共に漫画を読んでいた。いつのまにか紗代もビジネス書や資格の本を読むのが馬鹿馬鹿しくなり、時々、漫画も一緒に読んだ。


「この展開、きゅんとしない?」

「わかる!」


 さすが同一人物だけあり、同じ漫画を読んでも気にいるシーンが同じで盛り上がってしまう。彼女と一緒に朝食を楽しむのもいい。そんな気がしている時だった。


「あれ?」


 彼女の姿が消えていた。いつもの場所にいない。


 首を傾げつつも、注文したホットケーキを一人で食べる。甘すぎる。砂糖と脂肪しかない。不健康極まりない食べ物ではないか。


 それでも、フォークが止まらず、口元をベタベタさせながら食べた。


「美味しいかも?」


 今日はビジネス書や資格の本ではなく、漫画を読もう。


 もう彼女には会えない気がする。なぜか胸に穴が空いたような感覚もするが、それでいいのかもしれない。


「うん、美味しいじゃん……」


 たまには意識高いのもお休み。こんな風にホットケーキを食べてもいい。漫画を読んでもいいはずだ。

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