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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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ドッペルゲンガーと夕食を

 幼い頃から他人の目が気になって仕方ない。おかげで服も大学も趣味も全部他人の目で決めていた。


 今日も友達とランチしたが、食べたいものなど思いつかず、友達と合わせた。いつもこんなんだ。ランチで食べた麻婆豆腐は胃もたれしたが、夕方になってどうにかスッキリしてきたところ。一人暮らしのアパートに帰ると、不法侵入者がいた。


「は?」


 それだけでなく、私とそっくりの女だった。地味な栗色の髪に、アースカラーのシャツにジーンズ。アクセサリーもつけず、メイクもナチュラル。無難を絵に描いたような。


「あなた誰? どういう事?」

「私は鈴木優香よ。あなたのドッペルゲンガーなの」

「はあ?」


 ますます分からない。が、目の前にいる優香はどう見ても私そのもの。


 中身は同じではないよう。意外と自己主張しはじめ、腹が減ったと泣いてきた。


 仕方ない。なんだかわからないが、目の前で自分そっくりの女が泣いているのも気分が悪くなってきた。優香の要望通り、近所のファミレスへ。


 最近のレストランは自動化されているようで、席に案内するスタッフがいるだけで、注文も配膳もバッシングも会計もスタッフと対面せずできるようだ。


 特に配膳ロボは人気らしい。ファミレスの通路を駆け回り、子供たちに騒がれていた。まるでアイドルのよう。人間が配膳していた過去が懐かしいぐらい。


 そっくりな私達が入店しても不思議に思われなかった。みんな配膳ロボに視線が集中。配膳ロボは時々歌を歌ったり、客を褒めたり、プロのエンターテイナー。


「私はミートソースのスパゲッティにするわ」

「あんた決めるの早いね?」


 優香は食べるものをすぐに決めた。


「早く決めなよ。あんたこそ、いつまでも他人の目を気にしていたら、私が乗っ取るから」

「それは怖い……」

「本当に食べたいものは何よ?」


 自分とそっくりな優香に問われると、無視できない。私は自分のお腹に相談し、フレンチフライトとサラダ、それにデザートのプリンも頼んだ。


 いつもだったら、他人と合わせてしまうのに。


「そうだよ、それがいいよ」


 こうして優香と二人でもくもくと食事をした。自分そっくりの優香とは無駄に会話する必要性も感じなかった。


「やっぱりお腹いっぱい。プリン一緒に食べようよ」

「わかったよ。実は私はプリンが大好きなんだよ」


 プリンは優香と分け合って食べた。


 その後、優香と別れたが彼女と会う事は二度となかった。もちろん、優香に乗っ取られる事もなく、普通に生活していた。


 たまにファミレスに行くと、優香の姿を思い出すが。


「まあ、やっぱり自分の好きなものを食べるのが一番だね」


 またフレンチフライとサラダ、それにプリンも注文する。


 相変わらず他人の目を気にしてはいるが、ファミレスに行けば自由。自由に好きなものを食べられる。こんな時間があるからこそ、他人と食事しても大丈夫な気もする。人に合わせるのも、今は苦痛でもない。


『お客さん! ステキにゃ!』


 今日も一人でファミレスへ行く。配膳ロボのわざとらしい電子音が響いていた。


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