お粥なら食べられる
悪い事は重なるものだ。
失恋、失業が重なる事はよくあるだろうが、病気、怪我にも遭い踏んだり蹴ったり。
どうにか退院はできたが、家に帰っても全く食欲がない。
運の悪い事に各種請求書も届き、それを見ているだけで胃が痛い。どっと食欲が失せるが。
そうは言っても人間というのは不思議なもの。こんな時でも腹が鳴る。
揚げものや濃い味付けのものは食べたくない。派手なスイーツも、高級な肉も今は身体が受け付けない。
一応一人暮らしのアパートを出てコンビニに行ったが、弁当もパンもスイーツも主張が強すぎる。
世の中は健康的な人が住みやすいようにできているから仕方ない。ふんだり蹴ったりの女に似合う食べ物など無いと思ったが。
「あ、お粥。これだったら食べられそう……」
レトルトのお粥と目があった。真白で味付けは塩のみ。添加物も何も入っていないらしい。
「ま、これだったら食べられるな……」
カゴに入れ、レジに向かう。
今はこんなお粥しか食べられない。仕事も健康も何もない。彼氏も失った。
それでも。
ずっと、永遠にそうとは限らない。未来の事は誰にも分からない。だったら、自分に都合よく考えても悪くないはず。
いつか、どん底の時、一人で食べたお粥の話が笑い話になるかもしれない。
その時、一緒に笑える人がいれば、もっと楽しいと思う。
そんな空想をしつつ、レトルトのお粥を買う。
とりあえず今日は早く帰ってこれを食べよう。こんなお粥なら食べられる。未来の自分の為にも、このお粥はちゃんと食べよう。




