二人のミートソース
「え、奢ってくれないの?」
そう言われた。
マッチングアプリで出会った女とカフェに行き、帰り際の台詞がこれだ。
俺としてはたいして面白い女でもなかったし、これっきりでブロックしようと思っていたが、この台詞。
「は? ブスのくせに奢って当然って思ってるわけ?」
ぱしん!
女に殴られた。
俺は赤くなった頬をさすりながら思う。女ってコスパ悪い。とはいえ、もう三十歳だし、婚活でもしようと思ったがこの有様。もっとも昔から正直すぎるとか、一言多いとか、性格悪いと言われていたから、別に良いが。
あんなブスの事は忘れよう。別に家事も一人でできるじゃないか。料理だってパスタを食べれば良いのだ。
最近は米不足もあり、パスタを食べるのにハマっていた。十分ぐらいできるし、市販のパスタソースをあえるだけで簡単だし。
俺は夕飯の買い物のため、スーパーへ向かう。あのブスに殴られた頬はまだ痛いが、忘れよう。女に頼らなくたって料理ぐらい簡単だ。
こうして家の近くのスーパーへ向かい、パスタソースを選ぶ。
たらこやペペロンチーノって気分じゃないな。こう肉が入ってるミートソースの気分。ちょうどうちの冷蔵庫に粉チーズも余ってるし。粉チーズの賞味期限は来週だ。やはり今日はミートソースだ。ゴロゴロとした肉の上に雪のように降る粉チーズを想像したら、腹は絶対にミートソースになってしまった。変更は出来そうにない。
しかし、ミートソースはなぜか二人分のしか売っていない。缶詰や瓶入りのも売っていたが、一人暮らしだと余りそうで買いたくない。
「いや、二人分ばっかりなんだよ……」
ついつい愚痴も出てくるが、企業側の気持ちもわかる。二人分で売った方が圧倒的にコストは低下できるだろう。
まあ、仕方ない。企業努力を過剰に求めるのも良くない。俺は二人分のミートソースをカゴに入れた。
ふと、近くにいた若い夫婦も同じ商品をカゴに入れているのに気づく。二人分か。確かに夫婦の場合はこの商品に過不足はないだろう。
夫婦二人でミートソースを食べている姿も目に浮かぶ。そういえばミートソースは口元が汚れるし、女はあまり外で食べたがらない。家で気を許した人間だけと一緒に食べるもの……。
急に俺のカゴの中にあるミートソースが目につく。このミートソースは一人分余るだろう。タッパーに適当に入れて保存しておこうと考えていたが。
女なんてコスパ悪い。奢れとか言ってくるし、女の権利だけ主張してくるヤツばかり。アプリで知り合った女もそんなのばっか。
でも、一緒にミートソースのパスタを食べる相手を探そうって思えば、ちょっと楽しいかも?
「そうか、そうだな」
俺は少し笑い、スーパーのレジに向かう。一緒にミートソース食べる相手を想像すると、気持ちも明るくなってきた。女だって色々いるはずだ。奢れとか言う人間ばかりでは無いと願う。
マッチングアプリはまだまだ辞める機会は無さそうだ。




