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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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弁当の領域

 例えばSushiという言葉。これはあの酢飯の寿司を指す言葉だが、日本食全般を指す国や地域もあるらしい。カップラーメンや日本のスナック菓子をSushiとして売られている海外のマーケットの画像を見た事がある。


 言葉を一つとっても辞書通りにいかない。その国の文化的な背景を見つつ、その言葉の領域を判断しないといけない


「雲川って少食とかいってぶりっ子じゃね?」

「大したルックスでもないのにウケる」


 最近、私、雲川結衣は学校でいじめられ、ぼっち飯をしていた。原因は少食。元から胃が弱く多く食べられず、弁当を残していたらクラスに派手女達に目をつけられ、ある事ない噂をたてられ、いじめられた。必然的に教室で弁当を食べる事もできず、校舎裏のベンチに座って食べていた。


 少食と一言といっても色々な背景がある。単に美容目的でダイエットしているものもいるだろうが、私のように胃が弱いものもいる。そうSushiという言葉のように辞書的に判断してはいけないのだ。言葉は、想像以上に領域が広く、人によってもさまざまだ。


 そんな事を考えながら母が作った唐揚げ弁当を食べる。中学生ぐらいの子供は確かに成長期だが、量が多過ぎてげんなりしてくる。弁当箱の唐揚げがご飯の方まで浸食して、とても食べられない。


「はあ、困った」


 かと言って残すと母はうるさいし。悲劇のヒロインみたいに被害者をしながら攻撃してくるから、超めんどう。


 中学生という事もあり、思春期。親への反抗心も隠せない。


「うん?」


 ちょいど困っていたら、同じクラスの栗沢エナが近づいてくるのを知る。


 エナもちょっと浮いている。祖父がフランス人というが、目がクッキリと大きくまさにフランス人形のよう。もっともそのルックスでファンもいるし、気も強いのでいじめを受けたりはしていなかったが。


 エナも校舎裏で弁当を食べるらしい。私の存在なんて無視して弁当を放りげていた。エナがルックスがいいので背筋を伸ばして弁当を食べているだけでサマになるが、その中身は驚いた。なんとスライスしたフランスパンにオイルサーディンの缶詰め。缶詰め丸まる一つだ。


 本当に弁当? おやつにも見えた。あまりにも手抜き?


「なに?」


 私があんまりにもじろじろ見ているので、エナは睨んできた。


「それ弁当?」

「手抜きじゃないから。じいちゃんが作ったんだから。フランス式はそうなの!」


 起こりながらフランスパンを齧っている。彼女がなぜ一人で弁当を食べているか察する。この弁当で人から何か言われたのだろう。たぶん手抜きとか愛情不足とか。確かに日本式の弁当に慣れた私は驚くが、少食派としてはこっちの方がいい羨ましい……。


「どうせ愛情不足とか手抜き弁当とか言いたいんでしょ? そんな弁当でうちの家族の愛情測るのやめてくれって感じ」


 エナは頬を膨らませる。私のような反抗期というより拗ねてるみたいだ。


 でも確かにエナのいう通りだ。こんな弁当一つで愛情は測れない。愛情という言葉もSushiのように領域がある。弁当もそうだ。日本式の弁当が正義でも何でもない。


「ねえ、ウチの弁当と交換しない?」

「は?」

「実はさあ」


 事情を話すと、エナは面白がる。


「面白い。そんな事でいじめられてるの?」

「他人事だと思って」

「まあ、いいか」


 エナは私の弁当箱から勝手に唐揚げを一つ取り、もぐもぐと咀嚼する。


「うーん、不味くはない?」

「そっかあ」

「まあ、いいか。交換してやる」


 その日からエナと弁当を交換するようになった。フランスパンと缶詰めの手抜きに見える弁当と肉料理いっぱいの日本式の弁当を。


 しばらく二人で弁当交換なんてやってたら、共犯っぽい。何も悪いことはしていないのに、隠れて食べるエナの弁当は妙に美味しく感じた。


 見かけは手抜きだが、エナのじいちゃんがわざわざ作ってくれるという弁当は、私の胃にピッタリだった。


 一方、部活や勉強にアクティブに頑張っているエナは、私の弁当がちょいどいいらしい。


 そんな事をしながら、別に弁当なんかで愛は測れないと思う。娘達は陰でこっそり弁当交換をやっていても、毎日のそのクオリティは全く変わらない。


 私とエナの関係も全く変わらず、一緒に弁当を食べても単なるクラスメイトという域を出ない。


 そんなものかも知れない。


 Sushiと同じように愛情も友情も人それぞれ領域がある。


「あ、今日は缶詰めじゃなくてゆで卵とポテトチップス?」

「そっちもカツ丼弁当かあ。けっこう重いなぁ」


 そうは言っても日々の弁当の内容で盛り上がり、少しずつ仲良くなっていたりする。別に私達には共通点もないし、劇的なエピソードもないのだが。


 そんなエナとは何故か一緒にいる事も増え、十年来の友達となった。今度、私はエナの結婚式のスピーチを頼まれてしまった。


 ちなみに料理が苦手なエナは、夫に全部やって貰うらしい。主婦とか妻という言葉にも領域があるらしい。


 それはともかくエナの結婚を祝福したい。結婚=幸せという狭い領域だと思ってもいいよね?

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