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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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懐深いチーズフォンデュ

 風邪引いた。


 まだまだ世の中はマスクしている人もいるし、病院に行くのも躊躇われ、ずるずると風邪を長引かせてしまった。仕事も在宅だが、鼻水垂らしながら納期までに仕上げた。


 それにしてもお腹が減った。冷蔵庫の中は賞味期限が近いパンやチーズ。冷凍庫の中は冷凍やさなど入っているが、どうも作るのが面倒くさい。


 買い物に出てもいいが、鼻水と咳が出ている状態で店に入るのも勇気がいる。今日はUberしかないな。


 そう決めたら時、チャイムがなった。マッチングアプリで出会って付き合い始めた彼氏だった。といっても向こうも私も恋愛が得意なタイプでもなく、いまいち盛り上がらない。


 それに歴代彼氏から振られた時の言葉も思いだす。「京子は俺がいなくても一人でなんでもできるでしょ?」と。実際そうだった。一人でなんでもやってしまう方が楽。正直、今の一人暮らしの方が楽。


「京子、風邪引いてるんだったら、ちゃんと倒れよー」


 彼氏はぶつぶつ言いながら、冷蔵庫の中を見る。


「ご飯作ってやるよ」

「はー?」


 思わず文句を言いそうになる。この彼氏、私より五歳も歳下なのでイマイチ頼りない。そういえば仕事は飲食店を経営していたが。


「でも冷蔵庫の中、ろくなもんないでしょ?」

「うーん。あ、これだったらチーズフォンデュ作れるぞ。ホットプレートないか?」

「あ、ある……」


 それはホームセンターで格安で売られているものを衝動書いした。たこ焼き機もついていて見た目はオシャレ。しかし、一人暮らしで出番はなく、ろくに使っていなかった。


「できるの? こんな余り物のパンとかで」

「できる、できる。チーズフォンデュはむしろ余り物処置にもってこい」


 彼氏は手際よくホットプレートを出し、食材を切り、チーズを小さなポットに入れ準備をし始めた。


 冷凍野菜と切った食パンだけでも、ホットプレートの上に乗せるとだいぶ華やかだ。余り物に見えない。ブロッコリーや人参、じゃがいもや豆も全部冷凍だったが、見た目は鮮やか。


 火をつけるとチーズをゆるゆると溶け始め、いい匂いもしてきた。ホットプレートの上に小さなチーズの池ができていた。


 チーズフォンデュ用のフォークがない。割り箸や普通のフォークを使い、野菜やパンをチーズの池に沈め、潜らせる。


 余り物のはずだが、こんな風に食べると、ちょっとしたパーティー気分だ。それにチーズは何でも合うみたい。懐深い。あつあつのチーズフォンデュで身体も熱くなる。


「自立ってさ、一人でなんでもする事じゃないと思うんだよなー」


 チーズフォンデュは食べるのに時間がかかり、彼氏とも長話してしまった。長話というか、ダラダラと取り止めのない会話だが。


「そうかな?」

「困った時はちゃんと頼れる人の方が強いぜ。俺はそれぐらいの懐あるし」

「そう?」

「俺ら風邪うつされたって全然平気だし」


 信じられないが、こんなチーズフォンデュを食べながら、少しは他人を頼ってもいい気がした。私の心もチーズみたいにゆるゆると溶けているみたい。もう一人で頑張らなくてもいいのかも。


「風邪なおった?」

「うん。もう大丈夫そう」


 身体もスッキリと軽くなってきた。たまにはこんな風に二人でダラダラと食事するのも楽しいかもしれない。

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