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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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糠漬けと安心

 最近、加奈は便所で弁当を食べていた。すっかり定着している習慣だった。


 原因はいじめだった。よくある話。


 うっかり風邪をひいたら、「バイキン、消えろ」と言われるようになった。


 情けなくて、毎日しょっぱい弁当を食べている。別に塩分が高いわけでもなく、自分の涙でしょっぱい。


 お昼休みは、みんな前を向いて黙食してる。一言を話さず、十五分で完食しているものも多い。


 もうワクチンもマスクも誰も真面目にやっていないが、学校の先生達は、ずっと飽きずに黙食を指導していた。誰も感染者なんて出てないのに、バイキン扱いも相変わらず。だったら、トイレでしょっぱい弁当を食べている方がまだマシだった。


 そんな先生達も夜は飲み会をやっているのを知っている。反ワクチンの保護者の子供に地味な嫌がらせをしているのも知っている。ネチネチと遠回しに嫌味を言ってるのを何度も見た事がある。


 そんな事を思い出しつつ、トイレを出て、手を洗う。ちょうどトイレを出た時、例のその子とすれ違った。


「あ、加奈じゃない」


 そういえば、この子は加奈の事はバイキンとは呼ばなかった。「発酵菌もあるんだから、菌は悪いものばかりじゃない」とよくわからない擁護をしていたが。


 名前は橋本繭。親がアレなので、あんまり友達もいないようだったが、背も高めで、妙に大人っぽい雰囲気の生徒だった。おかげでセーラー服の制服があまり似合っていない。


「まさかトイレでご飯……?」

「ま、まあ」


 繭はドン引きしていたが、彼女も黙食が嫌で部室や裏庭に逃げ込み、一人で弁当を食べていると告白した。


「明日から一緒に弁当食べない?」


 思わず誘ってしまった。ドキドキする。たぶん、バイキン扱いしない繭には、少し好奇心を抱いていたのかもしれない。


「まあ、いいっか」

「え、いいの?」

「黙食もいつまでやってるの?って感じだしね〜」


 こうして繭と一緒に弁当を食べるようになった。別に会話も弾まず、話題はテストや部活の事ばかりだったが、バイキン扱いされないのが、何よりもホッとした。


 ちなみに繭の弁当は、糠漬けがタッパー一個分もあり、ちょっと恥ずかしそうに食べていた。子供の頃から糠漬けが好きだったそうだが、弁当の時に「ババくさい」といじめられていたらしかった。


「別にいいじゃん、糠漬けぐらい」


 確かに中学生らしくはないが。


「そう? これ、私が漬けたんだよね」

「本当?」

「ええ、食べる?」


 繭から大根やきゅうりの糠漬けを分けてもらう。コリコリ食感、いい塩梅のしょっぱさ。でも、ほんの少しだけ甘く感じた。


 細かい傷がついた使用感あふれるタッパーに入っているのに、糠漬けは不味く無い。美味しくもないが、ホッと安心する味だった。


 相変わらず会話も弾まず、楽しいとは言い難い弁当の時間。場所も校舎裏や人気にない音楽室ばかりで少し寒い。


 それでも、黙食よりはずっと幸せだった。


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