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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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ドライカレーのレーズン

 今、昼ご飯を作っていた。冷蔵庫の余り物をチェックすると、ドライカレーを作るのが良さそうだ。余った冷やご飯はチャーハンにするのが一番いいが、残念ながら冷蔵庫の中に卵はなかった。


 俺は実家暮らしの大学生だが、普通に料理ぐらいする。両親も年老いてるし。その両親はショッピングモールに出掛けてしまっているが、今日は結婚した兄も久々に遊びに来てる事もあり、昼ご飯を作っていた。


 キッチンにはカレーの香りが広がっている。フライパンにある黄金色のドライカレーを見ているだけで腹が鳴る。うちの定番ご飯だが、パラパラとした仕上がりは自信作だ。


「できた」


 完成すると、すぐに皿へ。この皿は春のパン祭りで貰ったものだ。冷蔵庫の中身で作るドライカレーとこの皿は、実にうちのご飯らしい。


「おお、良い香りだな」

「自信作だぜ。食おう」


 食卓に出し、兄と一緒に食べ始めた。食卓の上は、調味料やふりかけでゴチャゴチャしている。片付けようと思っているが、先延ばにしていた。


「しかし、うちのドライカレーって何でレーズン入ってるんだ?」


 自分で作っておきながら疑問に思う。うちのドライカレーは、レーズン入りだった。これを友達に話すと「気持ち悪い」と引かれる。確かに冷静に考えれば辛いドライカレーに甘いレーズンが入っているのは謎だ。両親に聞いても「なんとなく」という回答しかない。熱狂的なレーズンマニアというわけでもない。ネットで検索してもはっきりとした起源もないようで、単に彩りとカレーの味の引き立てるだけのものらしい。


「そういえば、嫁にもドライカレー作るんだけど。もちろんレーズン入りで」

「へえ、にいちゃんも料理するんだ」

「一応な」


 兄は真面目なタイプだった。実際、仕事も中学校の数学教師で、子供の頃から成績優秀で俺とは正反対のタイプだ。見た目もメガネに黒髪。タバコもギャンブルもせず、趣味は読書。兄の部屋の本棚には図鑑や辞典がずらりと並んでいる。


 そんな兄の嫁だが、似た者同士ではなかった。外見も派手なギャルっぽい人だった。仕事もイラストレーターで、趣味はキャンプ。年齢は兄と同じ歳で同じ大学出身。それ以外の共通点は特にない。


「うちの嫁、このドライカレーのレーズン面白いって言うんだよな」

「意外だ」

「嫁とは価値観が全部違うから、逆に面白いんだよ、お互いに」

「衝突しないの?」


 離婚理由の一つに「価値観の違い」だと聞いた事があるが。


「衝突もあるけど、擦り合わせる」

「へえ」

「うちの嫁とはそれができるからな」


 そう語る兄は幸せそうだった。結婚してから、肩の力も抜け、楽しそうだ。これは嫁の良い影響かもしれない。実家にいた頃は、食卓がごちゃごちゃ散らかっていると怒っていたが、今はそうでもない。一言でいえば丸くなった。


 俺は再びレーズン入りのドライカレーを口に入れ、咀嚼する。この甘みにカレーの辛さが中和され美味しい。しかし、うちのご飯もちょっと飽きてきた。不味くはないが、違う味を求めても良いかもしれない。たまには違う価値観も知りたくなってくる。


 もし結婚したら、違う価値観の人と毎日食卓につくだろう。自分には想像できない料理を食べる事もあるだろう。


 その時に「面白い」なんて言えたら、幸せかもしれない。

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